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第8章
思春期の若者と青年層
「ここでの目的は、思春期の若者の望まない妊娠、安全な処置のとられない妊娠絶とHIV/AIDS等の性行動感染症を含む性行為に関する健康(セクシャルヘルス)及びリプロダクティブ・ヘルスに関する間題を解決に向けることである。」
−ICPD行動計画第7章44
 
かつてないほど多い若者の人口
 15〜24歳までの年齢層の人口は10億人を超えている。このかつてない多数の若者が大人になる時、情報と教育が彼らの結婚の時期や子供の数の決定、彼らの将来の家族の幸せや彼らが住む国家の福利に影響を与える。若い女性にとっては、自分たちの性生活及び出産計画を管理し、強制・差別・暴力から解放されることが、より良い将来を得るためのカギとなる。
 
●1980年以来、サハラ以南のアフリカでは若者の人口が50%以上増加している。しかし、実際の数字ではアジアに住む若者の数の方が多い。なぜならば、世界の人口の60%がアジアに集中しているからである。
●これらの若者が出産可能年齢に達すると、確実に人ロモメンタムが生じる。人口モメンタムとは、たとえ出生率が置換水準の2.1にまで即座に低下したとしても、現在予測されている人口増加の約3分の2は生じてしまうだろうということを意味する。
 
 開発途上国の大規模な若者の人口が就労年齢に達すると、経済発展を促進する原動力となる。2005年から2010年まで就労年齢人口は増大し続けるが、それ以降は、高齢者の人口が増大し、若者の人口と高齢者層を支える就労人ロは減少する。これから2010年までに、開発途上国では7億人が就労人口に達するが、これは人的資源の空前の「人口学的ボーナス(demographic bonus)」となるvii
 
少女に対する差別
 少女に対する差別の兆候は至るところにある。例えば少女は若いうちに結婚し、早く妊娠することを求められる。また毎年200万人の少女が女性器切除(FGM)を受け、さらに6〜11歳までの就学していない1億1,000万人の子供たちのうち約60%は少女である25
 ほとんどのアフリカ諸国で、4分の3の女性が10代の時に性行動が始まり、ラテンアメリカ及びカリブ海諸国ではそれよりやや遅い。先進国では50%以上の女性が18歳以前に性行動を始めている26
 
●現在世界中で生まれている子供の母親の10人に1人は10代である。後発開発途上国(LDG)では6人に1人の母親が15〜19歳までの女性である。
●毎年440万人の思春期の女性が妊娠中絶を行っている。そのうち40%が危険な状態で行われている27
●いくつかの国では、18歳以下の少女の半数が結婚している。これはしばしば貧困の結果であったり未婚の母になることを恐れた結果である。15〜19歳までの既婚の少女の割合は、以下の通りである。コンゴ共和国74%、ニジェール70%、アフガニスタン54%、バングラデシュ51%28
 
 未婚での妊娠は、望んだものではないことであることが多い。若年層にとって、未婚での妊娠は通常、情報やサービスが利用できなかった結果であり、望まない性的関係、無防備な性行動、あるいは正しい避妊法を行わなかった結果である。他のどの年齢層よりも若年層の避妊に関するニーズが満たされていない現状にある。
 
早すぎる妊娠の影響
死亡と病気の危険−18歳以下の妊娠には多くの身体的危険が伴う。10〜14歳の少女の場合、20〜24歳の女性に比べ、妊娠出産で死亡する可能性が5倍も高い。
 
より多くの子供の数−思春期の若い母親は、出産開始年齢がそれより後の女性よりも多くの子供を産む。
人口規模には、家族の規模(人数)が影響するばかりではなく、何歳から子供をつくるかについての決定も大きく影響する。最初の子供の出産年齢を18歳から23歳に引き上げると、人口増加の速度を40%以上減少させることができる。
 
より多くの妊娠中絶−世界中の妊娠中絶の少なくとも10例のうち1例は15〜19歳の少女である。毎年この年齢層の440万人以上の少女が妊娠中絶を行っており、うち40%は危険な環境で行われている。
 
国連人口基金(UNFPA)青少年向け事業に400万ドルの寄付
 テッド・ターナー国連財団(Ted Turner's United Nations Foundation)は、1999年11月、国連人口基金に対し400万ドル以上の寄付を行った。この寄付金は、次の3つの分野で思春期の若者に対するリプロダクティブ・ヘルス支援のために使われる。
 230万ドルは、3年間に及ぶ太平洋地域のプロジェクトに使われる予定で、これには、教師、両親、宗教指導者も参加する。このプロジェクトは、学校内及び学校外で若者にリプロダクティブ・ヘルスに関する情報とサービスを提供し、生計を立てるための技術の指導を行うものである。教師、両親、宗教コミュニティーの参加も予定されている。
 ヨルダンでは、訓練、教育、アウトリーチ(特定の人々への特別救済活動)によって、13〜17歳までの4万2,000人の少女がリプロダクティブ・ヘルス活動や、生計を立てる技術の向上のための活動に参加し、また何百人もの教育者とスクールカウンセラーの技術の向上を行う予定である。寄付金のうち110万ドルは、3年間にわたり国連人口基金の現在各国で行われているプログラム実施のために使用される。
 70万7,726ドルは2年間をかけて、UNFPAとロシア家族計画協会(Russian Family Planning Association)と共同で、ロシア連邦の10万から20万の青少年に焦点を当てて利用される。具体的な活動としては国のケアを受けている孤児たちの支援、妊娠した思春期の少女たちへの避難所の堤供、サマーキャンプや専門学校での思春期の若者に対するリプロダクティブ・ヘルスに関する情報の提供、医療スタッフやソーシャルワーカーに対する「若者向け」のサービスの訓練、思春期の若者の擁護などである。
 
性行為感染症(STD)とHIV/AIDS
 性行動を始めるようになると、妊娠の可能性やHIV/AIDS等の性行為感染症の危険にさらされることになる。
 
●日々50万人の青少年が性行為感染症に感染しており、そのほとんどが20〜24歳の年齢層の若者、その次が15〜19歳の年齢層の若者である。性行為感染症に感染した者は、HIV感染の可能性が高くなる。
●HIV感染−1日8,000例−の半数が25歳以下の若者である。
 
 若い女性は特に性行動によるHIV/AIDS感染の可能性が高い。彼女らは少年たちよりも情報が少なく、セックスを強制されたり強姦を受けたり、年長で力が強く金持ちの男性に性の誘惑を受けることが多いからである。
 
情報とサービス
 若者が望まない妊娠や早過ぎる妊娠を回避し、妊娠中絶を減らし、HIV/AIDSなどの性行為感染症の蔓延を防止するには、いくつかの特別な行動が助けとなる。さらに、若者の健康と教育に対する権利を尊重することは、彼らが責任ある生産的な成人になるための準備を促すことになる。徐々に若い男性に向けて、責任ある性行動をとることを勧めたり、リプロダクティブ・ヘルスを促進したりする努力が向けられるようになってきた。
 UNFPAは各国政府を支援し、学校内や学校外で若者にリプロダクティブ・ヘルスに関する情報とサービスを提供する活動を行っている。青少年に対する活動計画は以下の通りである。
 
●医療・保健サービスと情報を容易に利用できるようにする。
●若者が親しみやすい環境で、若者に気を配った、若者を尊重するカウンセリングを行う。
●両親、教師、地域のリーダーの参加。
●学校やその他の場所での性教育の促進(性教育が風紀の乱れを引き起こすものでないことが、様々な研究で確認されている)。
 
 若者に情報を与え、教育し、彼らとコミュニケーションをとっていくことは、性行動や早過ぎる妊娠と出産の危険に的確に対処する方法である。情報と教育は、性行動を始めた思春期の若者や青年層が適切なサービスを利用し始めたときに提供すると、最も効果的である。
 
支持と政策
 ほとんどの国において若者のリプロダクティブ・ヘルスやリプロダクティブ・ライツの促進に関して依然賛否両論がある。これには性の問題、親の権利や義務などの微妙な問題も含まれる。これに対しUNFPAは、各国における国内計画の枠組の中で、各国のパートナーと共に思春期の若者や青年層を含むあらゆる人々のリプロダクティブ・ヘルスを促進するための行動計画や政策を支持する活動を行っている。
 

vii 経済状況により雇用機会がなければ、社会的な不安定や政治的な混乱を招く可能性が高い。人口ボーナスがボーナスとして恩恵をもたらすにはその国の経済的な状況によることを忘れてはならない。
 
25 UNICEF 2000
26 United Nations.World population Monitoring 2000
27 UNFPA Annual Report 1999,10ページ
28 UNICEF,Early Marriage;Child Spouses, 2001







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