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非婚
結婚しない40代オトコ ―二〇二〇年には四人に一人の時代に
 
 日本の少子化の背景には未婚化がある。一度も結婚したことのない人たちが増えている。男性に顕著だ。七〇年、四〇代男性の未婚率は約二%。当時は大半の人が結婚する皆婚時代だった。だが〇〇年は約一六%。二〇年は約二四%に達する見通しだ。「非婚時代」がやってくるのだろうか
(小野智美)
 
貯金一億「子が欲しい」
 東京の大手企業の部長(四十四)は八年前、七十二平方メートル3LDKを約六三〇〇万円で購入。未婚でも妻子との暮らしを想定した。当時は十六歳下の女性と付き合っていた。三年前に「友達でいましょう」と告げられた。
 「僕のことを一番考えてくれた女性だった」と話しながら泣いた。今も年賀状を交わすが、その気持ちを伝えたことはない。「結婚したければ彼女から言ってくる」と待つ。「女性が白馬の王子様を待つように、僕も白雪姫を待っている」。友人には「傷つくのが怖いんだろう」と言われる。
 友人を通じて出会う機会はある。最近は「帰ってきた白雪姫もいる」と思う。離婚した女性たちだ。「人生経験が豊かでいいかも」。理想の相手は「子どもが欲しいので三十五歳未満がいい」。
 父が亡くなり、マンションを売って、実家に戻った。年収約一五〇〇万円。貯金は株を含め約一億円。実家にいると弟の子どもが来ては大喜びする母親を見て、自分がみじめに思えてしまう。
 
妥協できず高まる理想
 見合い歴一〇年の横浜市のメーカー杜員(四十一)が結婚情報サービス会杜に提示した女性に望む条件は、「三十八歳未満。身長一五五センチ以上。体重六〇キロ以下。離婚歴のない人」。
 結婚後も働きたければ止めないが、年収は自分より少ない人がいい。「人生設計のイニシアチブをとりたいので」
 大学院卒。年収約七五〇万円。身長一七〇センチ、体重七五キロ。「もてなくはない」と自負するが、職場は男性ばかり。
 五年前の見合い相手から「夫にも育児休業をとってもらう」と聞き、「育休は女性がとるものでしょ」と口走り、怒られた。半年後「あなたが期待する奥様と私は違う」と言われた。別の人との見合いを決めた。
 今の相手は条件通り。結婚を申し込もうと思いつつ、少しひっかかる。外食先で「私が払う」と言われない。五年前の相手は四回に一回は「私が」と払ってくれた。
 横浜市の会社員(四十六)は四十歳を目前に結婚情報サービス会社の会員になった。「僕を知るには時間がかかるかもしれない」と初対面の見合い相手には必ず告げた。「自分自身のことをどう思いますか」とも聞いた。自分を客観的に見つめられる人を探した。だが、また会いたいと思っても、いつも一回限りで終わる。
 「趣味の話に相手が引いた」と自己分析する。趣味はマラソン。週末は一〇キロ走る。「一緒に走ってくれる人がいい。自転車の伴走でもいい」
 二年後、あきらめ、退会した。最近、労働組合が法人会員になり、再入会を思案中。高卒。年収約八五〇万円。「もっとたくさんの人に会えば見つかるかも」
 
●40代未婚率の推移●
  40代前半 40代後半
1950年 1.9 2 1.6 1.5
70年 2.8 5.3 1.9 4
75年 3.7 5 2.5 4.9
80年 4.7 4.4 3.1 4.4
85年 7.4 4.9 4.7 4.3
90年 11.7 5.8 6.7 4.6
95年 16.4 6.7 11.2 5.6
2000年 18.4 8.6 14.6 6.3
05年 19.5 11.8 16.5 8.2
10年 18.8 13.7 17.3 11
15年 25.4 13.9 16.8 12.5
20年 23.5 14.1 23.8 13.4
注) 単位は%。出典は、国勢調査および国立社会保障・人口問題研究所による推計から。
 
過去を正当化し、若い女性求める
 国立社会保障・人口問題研究所の調べでは、男性は自分より低い学歴の女性を、女性は自分より高い学歴の男性を結婚相手に選ぶ傾向がある。未婚率は、女性は大学・大学院卒者、男性は中卒者が最高だ。が、少子化の最先端地、東京都の男性の場合、九〇年から〇〇年にかけて五〇歳時の生涯未婚率の増加幅が最大だったのは大学・大学院卒者。
 結婚を拒む人が増えたとは言えない。日本青年館結婚相談所の九九年度調査で「結婚したくない」と答えた首都圏の三十代の未婚男性は六・四%。
 坂本佳鶴恵お茶の水女子大学助教授(社会学)は「結婚しなかった過去を正当化するため、男女とも年をとるほど理想が高くなる。男性は、より若い女性を求めるようになる」
(朝日新聞二〇〇二・十一・一)
 
経済
人口、長命化リスク高まる ―社会保障に限界も―
 
政府推計より高齢化急進行
日本大学人口研究次長 小川 直宏
 日本大学人口研究所の独自モデルによる人口推計によると、高齢化は政府推計を上回る速度で進み、出産率低下より余命延長により「長命化」のリスクが問題となる。政府推計に基づき設計された社会保障制度の限界も考慮し、老後設計に個人のリスク管理の視点が必要な時代になる。
 
独自モデルで二〇二五年人口推計
 日本大学人口研究所はこのほど日本医師会からの委託研究の成果を「新人口推計」としてまとめた。人口の政府推計としては今年一月に発表された国立社会保障・人口問題研究所(社人研)推計があるが、二つの人口推計には方法論と推計結果に多くの違いがある。
 社人研推計は諸外国の政府推計と同様、出生率と死亡率の将来動向に一定の仮定を設けるが、これらの仮定には経済・社会保障変数の将来変化が明示的には反映されてはいない。これに対して日大人口研推計は人口・経済・社会保障の三部門から構成した長期展望モデルをべースに算出している。これら三部門の間である年度の経済・社会保障部門の変数を同時決定し、同変数に基づき翌年度の人口を推計していくシステムである。
 まず、人口推計で鍵を握る出生率の将来変動に関しては、(ある期間に出生・婚姻などをした人を集団としてとらえた)コーホート出生率の変動に重点を置く社人研推計に対し、日大人口研推計は期間出生率の変化の追跡に焦点を当てており、アプローチの違いがある。
 さらに、社人研推計では今後もある程度は晩婚化現象が進行すると想定しつつも、一九八〇年代後半から低下傾向にある有配偶出生率(有配偶の女子人口に対する嫡出出生数の割合)が現状のままで今後五十年間持続すると仮定している。これに対して日大人口研推計による想定より早いペースで今後も進みとみる一方で、有配偶出生率の変動はモデル化していない。
 晩婚化については、一九五〇年から二〇〇〇年までの女性の結婚と出生の確率変動を人口動態と国勢調査のデータから分析した結果、九〇年代前半に鈍化した晩婚化現象が一九九五−二〇〇〇年で再び活発となり、合計特殊出生率(一人の女性が生涯に産む子供の数)の低下に一九七五年以降で最も大きな影響を与えていることに着目した。
 有配偶出生率については、ミクロのデータ分析から九〇年代を通して約三〇%の有配偶女性がバブル崩壊とそれに続くリストラの影響で一〇%ほど二子目の出生確率を押し下げたことが判明している。夫の収入が低い階層でそれが顕著なので、今後のマクロ経済政策次第では、有配偶出生率は上昇する可能性がある。九〇年代で観察された状況が今後五十年間も持続するとは考えがたいため、有配偶出生率は明治的にモデルに導入しなかった。
 合計特殊出生率は労働市場における男女賃金格差から推計した結婚確率の動向に基づき推計している。男女賃金格差は男女の教育レベルの変化から求めた。
 このように推計した合計特殊出生率(二〇〇〇年の実績値は一・三六)は、二〇二五年では一・二四と、社人研の中位値の一・三八よりも低くなった。
 一方、死亡率の変動に関しては、両推計ともリー・カーター法(L−C法、米カリフォルニア大バークレー校のリー教授らが九〇年代初めに開発したモデル)を使用している。詳細な説明は省くが、年齢別死亡率の時系列データから、推計時点までの死亡率が変化してきた傾向(係数=k値と呼ぶ)をつかみ、将来推計を行う方法である。
 ただし、両推計ではいくつかの相違がある。最も重要な点は、k値の推計のための時系列データが、社人研は一九九〇−二〇〇〇年の約十年間のデータで五十年間を推計しているのに対して、日大人口研は一九五〇−二〇〇〇年の五十年間のデータで二十五年間を推計していることである。
 また、日大人口研推計では、従来採られているアプローチと異なりk値の動向を社会保障部門から得られる一人当たり実質国民医療費の変動から推計する、L−C法では初めての手法を採った。
 さらに、男女別平均余命の将来推計値について九〇%の予測範囲に入っているか否かをチェックする信頼区間を求めた。平均寿命(ゼロ歳の平均余命)の推計結果は図1に示したように、男子が二〇二五年で八三・八五年、女子が八九・四四年と、社人研推計より男子は四・〇九年、女子は一・九二年高い。なお、社人研推計値は男女とも推計期間の途中でこの予測範囲の外側となるが、先述のように推計期間が約十年間であることに主に起因すると考えられる。
 
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高齢化率高まり年金財政に影響
 以上のような両推計における出生率と死亡率の推計結果の違いは、今後二十五年間の高齢社会の姿に、様々な側面で相違を生み出すことになる。
 まず、総人口のピークが、日大人口研の場合は社人研の二〇〇六年よりも一年早まり、二〇〇五年となる。全人口に占める六十五歳以上人口の割合を示す高齢化率は、来年、イタリアを抜いて世界一となり、わが国の高齢化対策は西欧先進諸国を参考にすることがもはやできない、いわば「お手本のない自らの想像の時代」に突入する。
 また、二〇二五年の高齢化率は三一・〇四%となり、社人研推計における二八・七%とかなりの開きが出てくる。
 さらに重要な点は、今後、平均余命の延びが大きくなるにつれて人口高齢化のメカニズムが変化してくることである。日大人口研推計では、高齢化の主要因が二〇〇五−一〇年の間に、従来の出生率低下から「余命の延長効果」にシフトすることが示されている。
 現時点の日本では「少子・高齢化」という言葉で代表されるように、高齢化に歯止めを掛けるための少子化対策に政策の主力を注いでいるが、長命化現象から派生する問題のほうが次第に深刻となる可能性が高い。
 また、今後見込まれる平均余命の大幅な改善は老人医療制度や介護保険制度などの社会保障制度に大きく影響を与える。特に、平均余命の延びが顕著である日大人口研推計の場合を考えると、公的年金制度の財政に直接インパクトが生じてくることは明白である。
 例えば日大人口研推計に使用したモデルを使って厚生年金制度の将来の保険料率の動向を試算すると、図2のように、二〇二五年では二〇・九七%となる。このモデルに社人研推計の値を導入すると、同年で二八・六%にとどまり、約二・四%の違いが出る。
 
老後の設計、個人で管理
 日大人口研推計の大きな特徴の一つは、平均余命の将来推計で予測範囲を設けたことである。図1にあるように推計値の信頼範囲を数字で把握できる。人口推計で一般的に使う高位・中位・低位などの表現より具体的である。このような確率モデルを使ったアプローチで経済・社会保障変数の将来動向も推計できるので、この分野での活用も期待できるだろう。
 社会保障制度や家族の介護能力に関して将来推計を行うと、政府推計に基づく想定より早く、限界が到来する。社会保障や家族による介護を柱とする老後設計から、今後は一人ひとりが老後設計に真剣に取り組み、そのリスクを背負う、文字通り個人のリスクマネジメント時代に突入していくことが考えられる。今回の日大人口研推計におけるアプローチは、それらの時代に備えた第一歩ともいえよう。
(日本経済新聞 二〇〇二・十一・十五)
 
波多康治氏が監事に、田中勲氏が評議員に就任
 本協会は、九月二十五日の評議員会で波多康治氏(公認会計士)を監事に、理事会では吉岡茂平氏(社団法人日本自動車工業会理事)の評議員退任に伴い後任評議員に田中勲氏(社団法人日本自動車工業会事務局長)をそれぞれ満場一致で選出した。
 
 
波多康治(はた・こうじ)氏:早稲田大学政治経済学部卒業、監査法人トーマツで公認会計士を歴任。現在、波多康治公認会計士事務所を開設、日本公認会計士東京会及び神奈川県会役員。昭和二十四年神奈川県生まれ。
 
田中勲(たなか・いさお)氏:日本大学法学部卒業、社団法人日本自動車工業会に入り、広報部長、同会総務部長を歴任。平成十二年五月に事務局長に就任。昭和十八年東京生まれ。







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