日本財団 図書館


にゅうすふぉーらむ
 
食料
飢餓と貧困の連環 8億人が栄養不足
 
 先進諸国では飽食や肥満が問題化しているが、世界では、約八億人もが慢性的な栄養不足に苦しんでいる。近年、国連食糧農業機関(FAO)などの国際機関や各国の援助によって、改善されつつあるものの、開発途上国、特にアフリ力では、環境破壊や内戦、エイズなどの要因も絡み、飢餓を訴える人々の状況はむしろ深刻化している。十六日の「世界食糧デー」を前に、地球規模の食糧問題を改めて考えてみる。(解説部 永峰好美)
 
世界の食糧需要
 FAOの最新の統計によれば、二〇〇二年の世界の穀物生産は、昨年をやや下回る約十八億八千万トンの見通しだ。今年の天候不順が減産の主な要因だ。一方、飼料の需要の伸びや人口増加によって、来年の消費量は十九億五千百万トンになると予測されている。
 したがって、消費量が生産量を上回る結果になり、在庫の取り崩しが必要になる。このため、年度末の在庫は、ここ数年間で最低の水準となると予測されている。長期的にみても、途上国の人口増加に食糧生産が追いつかず、食糧の絶対量が不足するとの懸念があり、楽観できない。
 FAOの二〇三〇年の食糧需給見通しでは、現在の地球人口六十億人が八十三億人になり、そのうちの八割が暮らす途上国で、約二億七千万トンの穀物が不足すると推定している。温暖化やその他の気候変動の影響で、亜熱帯や熱帯地域の途上国では作物の生産が減少するとみられる。
 途上国は次第に海外依存率を高めることになり、穀物自給率でみると、一九七〇年代には平均九六%、九〇年代でも九〇%台を維持していたのに、二〇三〇年には八六%にまで低下すると予測。特に、アフリカ・サハラ砂漠以南では八一%、東・北アフリカでは五四%と、落ち込みが激しいとしている。
 
五歳未満が25%
 日々の食糧が満足に得られず、慢性的な栄養不足の状態にある人は、世界になお七億七千六百万人もいる。このうち五歳未満の子どもが四分の一を占める。
 九六年にローマで開催された「世界食糧サミット」では、「二〇一五年までに約八億人の栄養不足を半減する」との目標を掲げ、実現に向けて各国の食糧・農業援助の強化などの行動計画が採択された。
 だが、FAOがまとめた「世界の食糧不安の現状二〇〇一」によれば、栄養不足人口の減少数は、九九年に年間八百万人だったが、二〇〇一年は六百万人にとどまった。今のペースのまま推移すれば、サミットの目標を達成するのに六十年ほどを費やすことになり、食糧問題を担当する関係者は危機感を強めている。
 
数々の課題
 栄養不足は、貧困の反映である。また、労働能力の減退、感染症などへの抵抗力の低下、子どもの発育や教育に対する悪影響など、さらなる貧困をもたらす要因でもある。それは、エイズのまん延にもつながっているのだ。
 ジャック・ディウフFAO事務局長は「長期的な目標として、飢餓の底流にある貧困の改善に向かうことを忘れてはならない」と強調する。
 途上国の四人に一人は極度の貧困にあり、一日一ドル以下の生活を強いられている。貧困人口の約七割は農村部に住み、農業に依存していることを考えると、途上国における農村の開発は、飢餓の撲滅と並んで重要な課題である。
 地鶏やウサギの飼育など、小規模ながら地元農民参加型の事業を増やし、所得の改善を図ることが必要だ。ビタミンやミネラルの補給などの栄養改善とともに、病気予防のために衛生施設などのインフラ整備も不可欠だ。
 いま、地球規模で広がる食糧の生産と分配をコントロールしているのは誰か。途上国の生産者に種子を提供、技術を指導し、収穫物を調整・加工して、先進国の市場に届けるという一連の流れは、先進国の強大資本によってつくられている。さらに、遺伝子組み換えの時代になり、農薬を扱う多国籍企業が、種子開発に乗り出している。
 グローバル化が進む中、こうした巨大な企業によってもたらされる構造的な問題に対抗するには、途上国においても法律や制度上の新しい枠組みづくりが急がれるだろう。
 
乾燥に強く収穫量多い 切り札「ネリカ米」
 日本政府は、途上国の飢餓対策として、乾燥に強く、収穫量も多いという新種の「ネリカ米」の西アフリカ諸国への普及に向けて、現地で種子を生産できるような研究開発や支援を表明している。
 「ネリカ(NERICA)」とは、「New Rice for Africa(アフリカ向けの新種米)」の頭文字をとった略称。コートジボワールにある西アフリカ稲作研究所が、アフリカ稲とアジア稲とをかけ合わせて開発した陸稲だ。開発資金の大半は、日本の援助による。
 現地視察を行った国際開発センター(東京)が主催した試食会に参加した。日本の米に慣れているせいか、粘りけがなく、舌の上にぼろぼろした感触が残ったが、タイ米などと比べればふっくら炊き上げることができるらしい。スープやカレーとの相性は悪くなく、豆類と炊き込んでもおいしく食べれられそうだ。
 アフリカの主食は、トウモロコシやソルガムなどで、従来米の消費量は少なかった。近年、サハラ砂漠以南で年間千二百万トンが消費され、穀物全体の一四%を占めるまでになった。特に、コートジボワールでは五八%、セネガルでは四一%にも達している。
 トウモロコシなどはすりつぶしてパテにするのに女性の多大な労力が必要とされるが、米は調理が簡単なため、都市部を中心に消費が伸びているという。しかし、消費の増大に対応しきれず、四割は輸入に頼っているのが現状だ。
 「ネリカ米」には、乾燥や酸性土壌に強い、雑草や病害虫にも抵抗力がある、生育期間が約三か月と短い、一つの穂にアフリカ稲の四、五倍の粒をつけるので多収穫が可能といった特徴がある。
 だが、メリットばかりではない。トウモロコシなどに比べると干ばつに弱く、厳しい天候で収穫量が大幅に減少する恐れがある。さらに、数年間同じ土地で栽培すると土壌が劣化することも考えられ、豆類の栽培で土壌を維持するなどの工夫も必要になる。「アフリカ農業革命の切り札」とされるこの米が、普及し定着するかどうかは、現地農民に、環境保全型の持続的な農業のやり方をいかに指導するかにもよるだろう。
 
先進国、アフリカ支援に積極姿勢
 世界の食糧生産がおおむね安定している中で、現時点でも、三十一か国が深刻な食糧不足に直面している。そのうちアフリカが二十一か国で、特に、マラウイ、ジンバブエ、レソトなど南部アフリカでは、干ばつなどによって状況が悪化している。
 また、栄養不足人口が全人口に占める割合が三五%を超える国も、圧倒的にアフリカに集中している。
 食糧問題の解決は、二十一世紀の人類の最重要課題の一つだが、そのカギを握るのはアフリカ諸国だといえそうだ。そうした中、国際会議において、改めてアフリカに焦点が当てられ始めている。
 六月の主要国首脳会議(カナナスキス・サミット)は、昨年夏にアフリカ統一機構(OAU)が合意した復興計画、NEPAD(アフリカ開発のための新パートナーシップ)を積極支援するアフリカ行動計画を採択した。NEPADは二〇一五年までに、域内の最貧困層人口の半減などを目標にしている。
 英仏は政府開発援助(ODA)の五割をアフリカ向けにする方針を打ち出すなど、欧米はアフリカ向けODAの増額を決めている。この流れは南ア・ヨハネスブルクの環境開発サミットにも受け継がれ、英仏は、総額十億ドル規模の民間投資の促進計画を共同で始めると発表した。
 環境開発サミットの宣言には「清浄な水、衛生、食糧安全保障等へのアクセスを改善する」との文言も盛り込まれた。
 具体化の行方になお不透明感は強いが、先進各国が、貧困にあえぐアフリカ支援への積極姿勢を示したことは確かである。
 では、いま、なぜアフリカなのか。テロ防止が国際的な課題になり、「その温床にある貧困問題を解決する必要がある」との国際世論が強まっていて、これが追い風になったともいえる。一方、温暖化対策や通商政策などで単独主義の色彩を強める米国との対立を避けるため、利害が一致してまとまりやすい貧困問題に焦点を当てざるを得なかったという見方もある。
 先進国の多消費と豊かな食卓が、世界の農産物価格を上昇させ、アフリカなど途上国の飢餓の遠因になっている側面を忘れてはなるまい。日本は食糧の多くを海外に依存し、自給率は先進国で最低の四〇%(カロリーベース)にとどまっている。それだけに、飢餓解消に向けて果たす役割は小さくない。
(読売新聞二〇〇二・十・十八)
 
人口
「初出産」機に退職 ―働く女性三人に二人―
 
 働く女性の三人に二人は初出産を機に退職する−。厚生労働省は二十一日、二〇〇一年生まれの子どもの生活状況や家族の意識などを追跡調査する「二一世紀出生児縦断調査」の第一回調査結果を発表した。同年一月と七月に生まれた子の家庭五万三千五百七十五世帯に調査票を配布、四万七千七世帯(回収率八七・七%)から回答があった。
 それによると、同年に初めて出産した母親の七三・五%は、出産一年前まで仕事を持っていたが、うち六七・四%が出産半年後までに仕事をやめていた。
 また、従業員五百人以上の大規模企業勤務の女性の八五・八%が育児休業を取得しているのに対し、従業員四人以下の小規模企業では四七・八%と半数以下しか取得していなかった。官公庁勤務の女性は、九四・九%が育児休業を取っていた。
 このほか、喫煙率は、父親が六三・二%、母親が一七・四%で、父母ともに喫煙していない家庭は三五・六%。 (読売新聞 二〇〇二・十・二十二)
 
人口
出生率一・二四に低下
日大人口研推計 政府見直しより悪化
 
 一人の女性が生涯に生む子供の数(合計特殊出生率)は二〇一七年に一・二四と政府推計を超えて下がる―。日本大学人口研究所はこんな推計をまとめた。晩婚・未婚化傾向が続くとみているためで、公的年金財政は政府見通しより悪化する恐れが大きいとしている。
 出生率は女性の晩婚化などに伴い低下傾向が続いており、二〇〇一年に一・三三の過去最低を更新した。政府は晩婚化傾向はいずれ止まり、出生率は二〇〇七年の一・三一を底に上昇に転じると推計。これに対し日大人口研は、出生率の低下は長期化するとしている。
 日大の推計通り下がると、厚生年金保険料は二〇二五年には、基礎年金の国庫負担割合が三分の一の場合で月収の約三一%と政府計画(二七・八%)よりも三%強高い水準まで上げないと、現在の給付水準を維持できなくなる。
(日本経済新聞二〇〇二・十・二九)
 
 
中国
“一人っ子政策”修正至難 ―13億人・測れぬ影響―
 
“罰金”年収の数倍
 
 瀟洒(しょうしゃ)なテラスハウスが並ぶ上海市郊外の新興住宅街は、外資系企業に勤めたり、自分で事業を手がけたりして高い収入を得る“ニューリッチ”が住む場所だ。ここに暮らす王さん夫婦は、夫(三十六)が弁護士、妻(三十二)が公務員という知識階級で、一歳の女の子が一人いる。
 「自分たちも兄弟がいたから、本当はもう一人ほしい。だが、(一人っ子政策の)ペナルティーで弁護士資格を失ってしまうのであきらめている」と、王さんは言う。
 一九七九年に国策として施行された一人っ子政策では、職場ごとに「計画生育(出産)」の担当者が決められ、職場内の出産が可能な年齢の女性に「一人っ子」を守らせるため、様々な指導が行われてきた。働いていない人に対しては、各地区にある「居民(住民)委員会」という自治会のような組織が目を光らせる。
 産児制限のない少数民族などを除き、二人目を産んだ場合は両親の年収の三倍から五倍という多額の「社会扶養費」を支払わなければならない。二人目が産まれた王さんの知人は、年収の数倍に当たる六万元(約八十万円)を請求され、支払えずに古里を離れたという。
 
 
 
少子化で緩和
 こうした中、中国政府は今年九月施行の「人口及び計画生育(出産)法」で、産児制限を一部で緩和した。地方レベルですでに実施されていた例外規定を追認し、省、自治区、直轄市ごとに条例などで定める条件に合う揚合は第二子を産めるとしたものだ。
 背景には、都市部を中心に進む少子化がある。合計特殊出産率は、すでに人口維持に必要な水準を下回る一・八〇台で、中でも一人っ子政策が先行実施された上海では、少数民族などを含めても〇・九六しかない。人口の自然増加率は、九三年以降ずっとマイナスだ。
 上海市は、策定作業中の条例で、「夫婦がともに一人っ子」という従来からの条件に加え、「再婚した夫婦の夫に子供がいて、妻には子供がいない」などのケースも、第二子を持てるよう検討している。第一子を産んでから第二子まで、三、四年の間隔が必要としていた規定も外す方向で、産児制限は現行よりやや穏やかになる見通しだ。
 
(香港、マカオ、その他特別自治区を除く。出産率、高齢化率は国連人口推計2000年改訂版、上海の出産率は上海市資料による)
 
 
事情はさまざま
 だが、その効用については疑問視する向きが多い。その理由の一つとして、上海の教育費の高さがある。
 外資系企業に勤める趙さん(四十二)夫婦は、六歳の一人娘を「全宅」に預けている。全宅とは、一週間続けて子供を預かる幼稚園のこと。子供は、月曜日の朝に園に行き、平日は寮で生活、金曜日の夜に家に帰る。
 入学金と寄付などで約六万五千元(約百万円)がかかったほか、月々の学費は千五百元(約二万円)。上海の一般的な労働者の月収が千五百−二千元とされる中では破格だが、教育熱心な親の多い上海では、こうした「全宅」がいくつもある。
 上海人口情報センターの張戒舟主任は、上海の育児、教育コストの高さを指摘したうえで、若者の意識変化にも言及。「晩婚・未婚者が増えており、若者の考え方は日本と同じように『子供はそれほどいらない』へと変わっている。二人目を産んでいいと言われても、実際に産もうという人は多くないのでは」と見る。
 とはいえ、農村部では「多子多福(子供が多いほど幸せも多い)」という伝統的価値観が強く、まだ産児制限が必要とされている。皮肉なことに、都市部に住み、経済的な余裕もある王さんは、二人目を望もうにも、夫婦ともに兄弟があるため該当しない。
 人口が十三億人もいると、針路変更には微妙なかじ取りが必要だ。少子高齢化が問題とされても、出産抑制のタガを急に緩めるわけにはいかない。本当に二人目が欲しい夫婦にとって、一人っ子政策のハードルはなお高い。(上海で、針原陽子)
(読売新聞二〇〇二・十・二九)







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION