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「人口と開発」 冬 No.81

 事業名 基盤整備
 団体名 アジア人口・開発協会 注目度注目度5


解説
オタワ会議に参加して
 
人口問題が直面する危機と人類が直面する危機
 人類がこの地球で生きていく上で、人口問題が最も重要な問題であることは言うまでもない。人口問題の解決を実現することなく、持続可能な社会の形成は不可能であるといえる。人口問題もまた様々な様相を示し、その全体像を理解することは容易ではない。
 現在における、人口問題のキーワードを挙げるだけでも“リプロダクティブヘルス、リプロダクティブ・ライツ、女性のエンパワーメント、ジェンダー、難民、避難民、少子化、高齢化、HIV/AIDS、公衆衛生、淡水資源、農業・食料生産、グローバリゼーション、思春期のリプロダクティブヘルス(ARH)、青少年への性教育、識字率の向上、すべての子供達への初等教育の普及”などなど、多くの概念が多角的に入り混じっている。
 それらはすべて人口問題に関わりあう深刻な問題であるが、その問題の性質によって、先進国で重要な問題、途上国で重要な問題、個人にとって重要な問題、コミュニティにとって重要な問題、地域にとって重要な問題、世界的な規模で重要な問題などその重要性は異なり、また人口分野で活動する人々にとってもその関心はおのずと異なっている。
 この多面性が人口問題の重要性を見失わせ、一般の理解を難しくしていることは否めない。またブッシュ政権やカトリックを始め様々な保守的なグループが主張しているように、道徳を守り、人間が節度ある生活を行なえば人口問題は解決するのかもしれない。しかし、これが余りにも無責任な理想論であることは言うまでもないだろう。
 数多くの人々が食べるものもなく死に、HIV/AIDSの蔓延の中で両親をAIDSに奪われ、子供が兄弟を養わざるを得ない状況、そして先進国でも十代の妊娠中絶が増えている現状の中で“道徳を守り・・・”という理想論を述べることがいかに無意味か。現実に起こっているこの悲劇をできるだけ避けるためにどうすべきか。これがすべての人口問題の基礎にある考え方であると思う。
 理想論を述べることで、悲劇が増える。人権を理由としてIPPFやUNFPAへの拠出を停止したアメリカ合衆国の論理はこの結果を生み出す。人権を振りかざすことで、より基本的な人間の生存や、人間らしく生きるための基本的な条件を破壊してしまう。つまり理想論としてのベストチョイスを主張することが最悪の結果を作り出してしまうのである。
 多くの先進国に援助疲れが見られる中で、行動計画で必要とされた人口問題に対する資金は大幅に不足している。オタワコミットメントとして採択された会議宣言文の中でも、「二〇〇〇年時点で百七十億ドルを人口とリプロダクティブヘルスヘ向けるとした地球規模での資金目標に対し、三四%の不足となっている。国内から動員する資金の二四%、外部から動員する資金の約五五%不足している」と述べられている。
 人口問題に対する対策、HIV/AIDSに対する対策は後になればなるほど対応が難しくなり、大きな負担を作り出すことになる。理想論を振りかざすことで、今行なうべき対策を行なわないことのツケは必ず将来に大きく降りかかってくる。
 人口の増加も直接的に人類の将来に影響を与えることになる。例えば、人類の生存の基礎である淡水資源だけを考えても、人類が利用できる水の量は人口が増える分だけ、一人あたり利用できる水の量はどんどんと減ってしまう。これは農地であれ、その他の基礎的条件すべてに言えることである。
 最低開発国(LLDC)における妊産婦の保健医療体制が非常に乏しい状況にある、その中でHIV/AIDSの蔓延が起こっている。またそれらの国々では教育に向ける投資は非常に乏しいものであり、増える人口が労働力年齢に達したとしても、その人口が就職できる雇用の創出は容易ではない。その意味で、身体的なまた社会的に十分活動できない人口が急増することは、社会全体の負担を増大させ、人類の将来にとって大きな禍根となる。
 理想論を振りかざすことで最悪の結果を生み出すのではなく、人間が人間らしく生活できる環境を作り出すために実現可能な対策を行なう、このことが何より必要ではないだろうか。
 この意味から言えば、カイロでコンセンサスをもって合意したICPD行動計画からの離脱を宣言したブッシュ政権の選択は世界中に大きな悲劇をもたらす、擁護の余地のない選択といわざるを得ない。
 今必要なことは、将来の禍根をたつために、きちっと各国がカイロで行なった公約を守り、資金動員を行なうことで、十分な対策をとること。また人口問題の解決に逆行する勢力に対して、できるだけ多くの国がICPD行動計画の精神を掲げ、現実的な選択を行ない実施することの重要性と、無責任な理想主義がもたらす、重大な悲劇と弊害について、国際的な合意とコンセンサスを改めて作り上げることであろう。
 今、私達の国際社会の良識が問われ、将来への選択が問われているのである。
(楠本修)







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