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添付資料5 因島技術センターの運営状況
(事務所所在:因島市土生町7番地の4 因島市役所内)
 
・所在地 広島県因島市土生町 日立造船(株)因島工場内
・訪問日時 平成14年8月21日 14:00−17:00  
・説明者 因島技術センター長 池田 充氏(株式会社アイメックス 品質保証部溶接技術グループ課長)
    因島市役所 井口雅夫氏(しまおこし課主幹兼商工振興係長)
    吉村雅司氏(しまおこし課商工振興係主任)
・調査 田淵部会長、遠藤、砂川、廣江、藤野、仁禮(事務局)
・調査事項
同センターの組織、研修内容、予算と経費面、今後の進め方の方向に関する見解等について説明を受け、研修場所を見学した。
 
1.運営状況
(1)設立
 平成11年4月2日に第1回の研修生を受け入れ、平成14年は4年目になる。
 
(2)組織
 因島技術センターの実施母体は「因島技術センター運営協議会」である。
 運営協議会規約の第2条に「本会は瀬戸内海地域内における産業界の企業内従事者に対して、各種職業教育訓練をおこない、地域・経済の発展に寄与することを目的とする」と規定されている。
 この運営協議会は地域の30社の企業と団体をもって組織されており、因島技術センターの事務所を因島市役所内に置くなど行政との連携に留意し、県、近隣諸自治体からも広がりのあるサポートを受け得るよう配慮されている。
 
(3)対象地域
 因島市が中心になっているが、対象地域を瀬戸内海地域としているように、しまなみ海道沿いに研修参加者があり、中国地方や四国からも研修生が参加している。
 
(4)対象研修生
 研修対象者は40才未満となっていて、他の職業からの転入者もあるが、実質的には高校、大学の新卒者が多数を占める。カリキュラムは研修生に基本技能の作業動作を集中的に教えるとともに、職業に入る心構えを身に付けさせるようになっている。したがって因島技術センターの研修実施期間は毎年4月初めから6月末までの3ヶ月間のみである。
 新入社員以外に研修対象範囲を広げることは、センターの見解としては、今のところ考えていないとのことであり、研修生の受け入れ人数もこれが限界であるとのことであった。
・通勤:自宅通勤原則
・年齢:18〜30歳
・募集:近隣企業からの申し込み、および一般公募
 
第1回からの研修生数は、下記のとおり。
第1回 平成11年 32 人
第2回 平成12年 45 人
第3回 平成13年 43 人
第4回 平成14年 45 人
 
(5)運営
・人的な労力提供は市役所の職員を含めて、奉仕活動の様相が強く、指導員も先輩職業人としてのボランティア的な努力に大きく依存している。
・日々の研修そのものを指揮し、統率していくため、実力のあるセンター長が配置されている。
・因島技術センターの事務所は市役所にあるが、実際の研修そのものは、(株)アイメックスおよび(株)アイエムシー構内の設備を使用して行うので、センター長の任に当たる人はそれらの組織との協力関係を引き出し、良好な関係を維持する力量を有する人が望ましい。
 
(6)費用
(i)運営費用
(1)協議会メンバーの企業と団体の会費
(2)研修生の所属企業が負担する研修生の受講料
(3)市、県、国および近隣自治体の助成金:国のキャリア形成助成金制度を適用
(4)寄付金
(5)その他の収入
で運営されている。経費のうち人件費、実習資材、実習設備、動力等の便宜供与などの相当部分が協議会メンバー企業から援助される。
 運営協議会を構成する主要メンバー企業の前向きで積極的な取り組みと寄与がこのセンターの運営牽引力になっており、技術センターの活動を大きく支えていることが伺われる。
 
(ii)受講料など
・受講料:20,000〜25,000円/月・人(派遣企業が負担)。なお、一般応募者は無料
・指導員手当:10,000〜12,000円/日・人
 
2.指導員と教材
(1)指導員
 指導員陣は現在、日立造船のOBを中心に構成されている。
 本年度は13人の指導員陣、最高年齢者は70歳になる。本人は交替を希望しているが、後継者を見つけるのはなかなか難しいとのことである。
 指導員には技術知識、技能レベルが高く、人間的にも魅力がある人で、多人数と講義と対話を通して理解させる力量を持つ人が要求される。技能面では研修生に身をもって適切な模範を示すことのできる人物でなければならない。
 指導員の適格者はいるが、OBでも仕事に対して意欲のある人は、体が元気なうちは年間を通して働ける妥当な報酬のある職についていることが多い。指導員はまた、後継者育成への意欲とともに多人数の研修生を教えるのに必要な体力が必要とされるようだ。
 高齢になると、毎日の体調を整えることにも日々の精進努力が要る。センター長として、研修期間中は毎朝、指導員陣が元気に顔を揃えるまで気持が落ち着かないとのことであった。
 
(2)教材
・安全等の資格教育:災害防止協会などの教材
・造船関係:旧日立造船因島工場作成した教材
・実技用の材料(鋼材など):市内各企業から寄贈
 現在指導員を務めている人々は長年の実作業に従事した経験から、説得力もあり「迫力ある講義になっている」と研修生を送り出している企業幹部の評価は高い。
 
(3)工具、補助材、動力の提供
・工具:市内各企業の寄贈
・工具などの保守:訓練費用でまかない
・補助材:訓練費用でまかない
・動力:訓練場所を提供する(株)アイメックス、IMCが無償提供
 
3.カリキュラム
(1)研修の構成
 カリキュラムは、段階的に特徴を持たせるように考慮し、4月、5月、6月の3ヶ月を下記のように構成している。
講座名 時間数 内容
4月 共通基礎技能研修(座学及び実習) 120 H 安全、図面の見方、グラインダ、玉掛、床上クレーン、ガス切断、アーク溶接
5月 共通基本技能研修(座学及び実習) 160 H 図面の見方、機関/ボイラ構造、船舶安全法、船の構造と建造、玉掛、床上クレーン、ガス切断、アーク溶接、造船組立
6月 応用技能研修(資格取得と技能実習) 160 H 【コース】4コース 造船溶接、造船組立、製缶溶接、仕上げ組立 【資格取得】4コース共通 玉掛、床上クレーン、ガス切断、NK溶接
3ヶ月 440 H  
 
(2)1ヶ月目研修
・1ヶ月目の4月は共通基礎技能研修として鉄鋼加工・組立製造業における共通項目を研修するように配慮されている。項目は安全と造船技能のベースである図面の見方に大きく2分されている。
・安全に関しては、造船業は他の産業に比して個々人の安全意識と行動が造船業全体の安全向上を担う役割が非常に大きく、研修生にたいして「安全は他人任せでない」ということを始めにしっかり教え込んでおくことは極めて重要なことである。
・グラインダー、玉掛け、床上クレーン、ガス切断、アーク溶接というのは、いずれも造船業に従事する作業員が必ず携わる業務である。これらを安全に対処するための器工具・設備の基礎的な取り扱い方法の知識と実技の手ほどきを受けることの意義は研修生にとって、大きく、2ヶ月目以降の段階に進む時に感ずる不安感が大幅に取り除かれることであろう。
・加工・組立産業では、図面に作業のすべてが表わされている。造船業がほかの製造業に比して特徴的なことは同一作業の繰り返しはほとんどないと言うことである、極端に言えば、すべてが同じと言う作業は存在しないといって差し支えない。類似の作業でもその異なっているところを示しているのが図面である。図面を見る能力を持っているかどうかが現場での技術者として、一人前に仕事ができるかどうかの分かれ道であることを思えば、この基礎を研修する1ヶ月目で三角法、引き出し線、記号類という図面の本当の基礎素養が教えられることの意義は大きい。
・最後の一日は1ヶ月目で研修をした各項目をそれぞれ2時間づつまとめておさらいをするように計画されている。
 
(3)2ヶ月目研修
 2ヶ月目の5月は共通基本技能研修と位置づけられ、1ヶ月目の共通基礎技能研修をもとにして、いよいよ造船業の知識と技能への段階に入っていくように計画されている。
 図面の見方では、造船、鉄構業の現場で使用される図面が具体的に取り上げられて、そこに描かれている形状と記号などが意味するところを学ぶようになっている。この基本講座で図面がすべてわかるようになるものではないが、この手ほどきがあれば実務に就いたとき、自分で勉強もでき、不明な点を先輩に教えてもらうこともできる。
 また、自分の従事する造船業をより広い観点で理解できるように、船級協会のルールや機関の構造に関する講義等も組み入れられている。
 技能については、1ヶ月目で安全の基礎的知識を与えられた玉掛け、床上クレーン、造船組立て、ガス切断、アーク溶接(手溶接とCO2溶接)の実務技能を実務的知識とともに修得するように訓練課程が組まれている。
 2ヶ月目のテキストはいずれも、造船業の現場に直結したこの因島技術センターで作成されたものを使用しているとのこと。
 実技の教育は、段階を追った項目毎の実習とテスト、それに加えて実際の現場での作業の状態の見学などユニークなカリキュラムとなっている。
 
 溶接のテストは、ポイントごとに配点も公表されていて,研修生自身が励みを持って課題に取り組めるように配慮されている。
 
(4)3ヶ月目研修
 3ヶ月目の6月は、応用技能研修と位置付けられている。
 研修期間の総仕上げであり、実務につくために基本技能に磨きを掛け、いくつかの公的資格を取得させて、研修終了後、すぐ実務に就く自信がもてるように配慮され、さらに、研修生が就く実務の進路によって4コースにわけている。
(1)造船溶接:CO2溶接に集中し、現場ですぐ実作業に入れるように考慮。
(2)造船組立:図面の見方とともに、ガス切断,罫書き、部材仮付け、グラインダ、歪取り等、多岐にわたる作業の研修。
(3)製缶溶接:TIG溶接、TUBE溶接の基本研修。実務についてから自己研鑽で上の資格を目指せるように配慮。
(4)仕上げ組立て:機関仕上げの職種が想定されており、けがき、ハツリ、ヤスリ、キサゲ、リーマ通し、ネジ立て、機械組立、工作測定など。
 
なお、研修期間中に取得する資格は、次のとおりである。
・玉掛け技能
・床上クレーン技能
・ガス技能講習
・アーク溶接
・NK溶接技量試験
 
(5)研修場所
・講義室:
 研修生約10名で1組を構成し、1組1室、4組で4か所の会議室を使用。
・実技研修場所:
 切断と溶接は(株)アイメックスと(株)アイエムシーの技能訓練室を3ヶ月間借り切って行われ、床上クレーン、玉掛け、機械仕上げもそれぞれ実際の職場の区画を借り、そこの設備、工具を使って研修。
 
写真1 因島技術センターガス・溶接実習所







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