第2章 艤装関係作業の実情
今年度調査した造船所の艤装作業の職種単位を第1章 1.1(2) 表1.1、 表1.2および「添付資料4 訪問調査結果」に見ると、その職種は多岐にわたっている。それぞれ各造船所における職種区分には今までの歴史があり、それらの区分は造船所間で一致しているとは言いがたいが、ここでは、塗装、鉄艤装・甲板仕上げ、木工・左官、空調、保温・防熱、配管、機械加工・機関仕上げ、電装、その他、と9職種群として調査結果を区分して、請負形態から外部依存度を集約してみたのが表2.1である。
艤装工事にあっては、前年度調査の船殻工事と異なり、「一括外注」という購入品扱いの工事形態がある。この工事形態での業者の造船所構内作業員は構内作業従事者数の統計に計上されていないので、 表1.1、 1.2には表れていないが、外部依存率を推定する時にはこの数字を勘案しなければならない。
したがって、職種群のうち、購入品扱いで「一括外注」と回答のあったものは、実質直接作業はすべて一括外注業者の作業員がおこなっている実態を勘案して依存率は100%とした。
艤装工事の職種が船、機、電、塗装、居住区などの各機能に分化した工事単位で括られているのに比べ、船殻工事の職種は「船殻」という一つの機能で材料加工から船台工事まで連続している工程をその流れの中で分割している。そのために船殻工事では一部分を切り離して「一括外注」で外部依存という形は比較的発生しにくく、外部依存率は第1章、 表1.1、 1.2の数字にほぼ近く外部依存度も 1.1(2)に述べたとおりと考えてよい。
表2.1 造船所職種別外部依存率(%) 添付資料4 訪問先調査結果から抜粋集約(外部依存には構内協力企業、購入品扱いの一括外注業者を含む)
職種・造船所名 |
Aドック |
N造船 |
U造船 |
M造船 |
Y造船 |
K造船 |
Kドック |
Iドック |
塗装 |
100 |
100 |
100 |
100 |
100 |
100 |
100 |
100 |
鉄艤装、甲板 |
0 |
29 |
83 |
100 |
74 |
77 |
25 |
75 |
木工、左官 |
*1 50 |
100 |
100 |
100 |
100 |
100 |
100 |
100 |
空調 |
− |
100 |
100 |
100 |
100 |
100 |
100 |
100 |
保温、防熱 |
100 |
100 |
100 |
100 |
100 |
100 |
100 |
100 |
配管 |
56 |
55 |
78 |
100 |
79 |
89 |
100 |
100 |
機械加工、機関仕上げ |
25 |
44 |
43 |
100 |
71 |
83 |
75 |
67 |
電装 |
*2 20 |
18 |
100 |
100 |
100 |
100 |
100 |
100 |
その他(船具、運搬など) |
36 |
100 |
62 |
100 |
61 |
50 |
56 |
*3 0 |
*1 修繕専業につき他造船所とは異なるが、回答では木工は社内100%、左官は100%外部依存 |
*2 修繕専業につき常駐は2名の協力工だが、まとまった仕事量になると一括材料込みの外注となる。 |
*3 船具職のみのデータ、本工4、協力工0。 |
注: 外部依存率=当該職種協力工従事者数/当該職種合計従事者数
本工が3人以下の場合で、直接作業は全面的に協力工に依存している場合は本工を工程、品質等の管理用要員とみなして外部依存率100%とした。
請負形態が人工提供となっていて、直接作業に従事する本工も存在する場合は上記算式により外部依存率を計算した。 |
|
(1)外部依存率の分布
艤装工事は船殻工事に比べて、船種による職種間の工事量の山谷が激しい。特に各種の船種を混合して建造する造船所においては、それぞれの職種の作業量に見合う作業員を抱えておくことは難しいため、従来から工事量の増減を協力工の増減により対応する傾向がある。
この表2.1で見る限り、各造船所とも外部依存率100%という項目が相当数ある。直接作業員はすべて協力企業で行うという造船所も一箇所あるが、それ以外の造船所でも、外部依存率100%の職種は数多い。
空調、木工・左官、保温・防熱はすべての造船所において、依存率100%の材料込みの一括外注である。
修繕工事においては、工事着工前に工事量を完全に把握することが難しいためか、一括外注形式と称していても、材料は造船所持ちとし、工事金額も完成後の精算による支払いが主体である。
塗装においてはほとんどの造船所において人工工事のみの外注となっているが、塗料は船主支給が多く、造船所から見れば、一括材料込みの加工外注とほぼ同一形式であるとも言える。
電装工事も電装本工の減少、電気艤装工事の高度化に伴い専門業者に発注する一括外注の形に近づきつつあり、材料込みで100%一括外注しているところもある。
その他の職種の項には船具職、運搬、足場、設備など種々の間接的職種を集約した。それぞれ全面的に社内で処理しているところと外部に委託しているところがあり、しかもその作業内容は千差万別である。例として船具・船渠職を取り上げれば、 第3章 表3.1によれば船具・船渠職には索具の加工・装備からタグボートによる本船の離着岸まで含まれ、船の移動の多い修繕船工事を持っているところと新造船専門のところでは船具職に対する期待作業が異なる。必要時には他の職種の応援者を補助者として使える場合、補充が船員から容易に行えるところ、従来の人員が現存しているところなど、それぞれ造船所の実情によって異なっていて、本工100%のところから協力企業100%のところまで、さまざまであって外注範囲に対する統一的な傾向はない。
(2)本工が行う作業分野
鉄艤装・甲板仕上げは係船、荷役、交通装置などの工事に絡むものでどの船種にも共通してある項目のためか従来から比較的造船所内の本工人数も多い。その要員が現存しているところでは、外部依存率が100%ということはない。しかしながら、新たな人員を補給して本工比率を高めようとしているところは、調査した範囲ではなかった。特に、鉄艤装品製作は1造船所がアイドル時の対策として内作を構内に保留しているケースを除けば、全所が購入または加工外注している。残っている本工の人員のほとんどは船内での取り付け、調整運転要員である。
機械加工・機関仕上げの職種は比較的本工が多く残っている分野である。
ある造船所が「修繕の客筋の評価を受けるためには機関仕上げの品質に対する客先の信頼感を高めることだ」という観点から意識的に本工比率を高く維持していることを除いては、年々外部依存率は高まっている。
現状では機関仕上げ人員が社内に在籍しているから、外部依存率が比較的低く抑えられているというのが現実の表2.1の数字である。
配管工事に関しては、造船艤装の中核的作業であるために、現状では本工を抱えているところがほとんどである。
広義の配管工事は、管の加工・製作と船内への取付(いわゆる“配管”)に大別できる。このうち前者は、船種によってその内容に変化が多く、作業量も大きく変動するため、管加工を外部に発注したり、構内の管工場の運用を協力企業に任せるなど外部依存化が進んでいる。
造船所が単独で、この管製作の作業量変化に対応するのは困難であるが、複数の造船所を顧客として量を集めると、長期にわたり作業量を安定させることができるばかりでなく、量産効果が可能となる。生産性が向上すれば、経営は安定する。経営が安定すれば、自ずと技量、品質の維持・向上を図ることができる。このように、造船所が外部依存率をあげると、一方では外部の協力企業に量産効果をもたらすので、工事量の繁閑差が大きな作業(管加工など)や、一定の期間に工事が集中する作業(木艤装など)の外部依存は、今後ますます増大するものと思われる。
配管工事で主として本工が従事しているのは、船内への管取付と、調整作業である。管の溶接などは協力企業に依存しているケースも多い。
配管作業の技能継承については図面が読める技能者を養成したいという意向が多くのところで聴かれたが、本工の増員や教育訓練を具体化しているケースは少ない。
全体として、直接作業分野の本工が順次高齢化し、退職するにつれ作業主体は構内協力工に代わっていく傾向にある。たとえば社内に機械加工の人員を擁していても、すでにボーリングなどは専門業者に依頼する方が「コストも安く、速い」と言って一括、作業を外部に発注しているところもある。
(1)外部依存範囲の推移と外注形態の変化
かつての造船業における外注形態は、機器類と部品を外部から購入し、造船所構内での結合、調整作業はすべて造船所の直接管轄下で施工し、社外工の親方に人工費用を外注費として支払われるものが主体であった。現在では、造船所における作業が工事管理や材料手配費用を含んで発注され、大幅に専門業者の管轄下で施工される傾向にある。その態様として下記の3種類が挙げられる。
a. 機器、プラントメーカが据付工事までシステムとして一括して請負う形態:
空調システム、冷凍機システムなど、機器を中心にしてシステムが成り立っているものについては、機器の専門業者が工事を施工し、品質を保証する形態が多く取られるようになっている。
電装においては従来から、一括発注としていない造船所でも、航海機器や制御機器は、メーカの技術者が造船所内でそれぞれの据付、調整作業をするのが常であった。
冷凍機器関係については設計から機器等購入品の調達、性能保証までを受注企業の責任施工で発注している。
木工を中心とする居住区画の一括外注は早い時代から行われているケースであるが、材料等は購入品ではあるものの、居室デザインを中心として、家具の製作などを受注業者が行うことから考えて設計からシステム化されたものとしてこのグループに分類されるべきものであろう。
b. 工事会社が材料の調達、加工まで一括作業として請け負う形態:
一群の工事をまとめて責任施工する形態である。塗装作業などが品質の保証も含めて外注されるケース、また機関仕上げのボーリング作業など専門業者が工程、品質の責任を負って施工するケースであり、材料は支給されることが多い。
最近の傾向として、電装工事が材料の支給を受けて配線工事だけを請け負っていたケースから材料の手配も含めてシステムとして一括請け負う例や、特殊塗装で材料も含んで全体の品質を保証するシステムとして請け負うなど一括外注形態への動きもある。
配管工事も管の製作からユニット組立までを請け負うように一纏まりの作業を一括して外部に発注するケースもある。
c. 材料支給を受けて中間製品の加工外注を請け負う形態:
造船所から生材の支給を受けて加工、組立を行ったり、NC切断済みの部材を支給されて、曲げ加工、組立を施す従来型の加工外注の形態である。
請け負う側に材料調達機能が不要のため、小規模業者に適している。対象艤装品としては、曲げ、組立など比較的限られた範囲の職種で構成される工事に多い。
規格品でなくその都度設計の対象となる鉄艤装品の加工は小規模な人員でも成り立つので、この形態は今後とも残るであろう。一部の原尺現図、曲げ加工、特殊な組立、また機械仕上げ、軸ボーリング等もこの範疇に分類されてもよい。b.のグループとの境界は流動的である
(2)一括外注の契約内容
一括外注では細部の設計展開、材料の手配、工事作業間の調整などのマネージメントを発注範囲に含むのが特徴である。
新造船において、発注のベースになるものは、系統図、配置図などであるが、造船所によってはより詳細な製作図、取付図を支給するケースもある。発注ベースとなる基本管理量は m2(面積)、T(重量)などが多く、設計の初期段階で得られる数値を基にして発注されている。
修繕においては、一般に図面は無く現物合わせが主体となるため、船主からの発注オーダーがそのまま発注仕様書となっているケースが多い。
(3)一括外注における造船所の役割
一括外注は多くの造船所で材料費と工費が込みで発注される購入品の項目に分類されるが、現地工事が造船所の中で発生するという形式ともいえる。そのためにそれにかかる作業従事者数も個々の作業者の技量も一括外注業者の所掌範囲であり、造船所が日常的に管理対象としているのは、安全統括の見地から「構内人名」と「構内で作業している」事実を把握することである。造船所にとって安全管理を除いて、発注して以降、出来上がりの期日と完成時の品質のみが管理の対象となっている。
工期と品質は請け負った業者の責任とはいえ、設計仕様に基づき、多種多様な部品を調達し、多くの職種、工程を調整して製品としての船舶を完成させることは造船所の責務である。したがって、建造工事における外注範囲を拡大したとしても、造船所は各工程の細部に対して調整と品質の責任を負っている。
一括外注では工事施工において契約納期、品質に対し罰則規定が記載されている例は多いが、現実に罰則規定が適用される例はほとんど無い。それは造船所が、本来の役割として最終の調整責任を有しているので、罰則規定を適用するのが難しいという面もあろう。
一例として塗装工事が挙げられる。塗装は、古くから協力企業に依存しているにもかかわらず、塗装の手順、品質、技量について造船所側が管理要員を出して日常監視していることが多い。しかしながら、一部の造船所ではその要員を塗料メーカからの派遣員に依存しているケースもある。
今後、造船所の管理・監督要員、本工の減少傾向にもかかわらず、船舶の仕様がより高級になるにつれ、木工、保温、防熱、空調、電装など協力企業が技術的ノウハウを所持している作業・工事では、発注範囲内の技量、品質面も、一括外注業者へ依存する度合いがより高くなるであろう。
塗装についても、特殊塗装などは専門業者に発注することにより、品質まで保証させることになると思われる。
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