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小型船舶の排気ガスの測定方法に関する調査研究について
(ガソリン船外機の排気ガス)
 
1. はじめに
 現在欧州において、ECプレジャーボート指令(RCD:the Recreational Craft Directive)を改正して小型船舶に搭載される推進機関から排出される排気ガスの規制を導入し、2004年頃からEU域内で規制が開始される予定となっている。
 このような背景から、国内外における排ガス規制の導入に備え、国際的な基準によって定められている排ガスの測定方法について検証するため、当機構では、平成11年度に行ったMARPOL条約97年議定書に基づく舶用ディーゼル機関からのNOx排出規制に関するテクニカルコードについての調査研究(「小型船舶の排気ガス(NOx)に関する調査研究事業」)に続き、平成12年度及び13年度において、ISO8178(往復動内燃機関の排気排出物の測定に関する規格)に基づく排気ガス測定方法に関する調査研究をガソリン船外機を対象として行った。この結果、ISO8178に基づく測定方法に関する手順、適用表及び技術的留意事項等について取りまとめたのでここに紹介する。
2. 調査研究結果の概要
2−1 IECボート指令(RCD)における排ガス規制の概要
(1)排気ガス規制値(EXHAUSTE MISSION REQUIREMENTS)(表1参照)
 排気ガス規制の内容については、RCD改正案の附属書I.Bに定められており、一酸化炭素CO、炭化水素HC、窒素酸化物NOx、粒子状物質PTに関する排出規制値かエンジンの種類別に規定されている。
 海洋、沿岸、河川で使用されるレクレーション舟艇の機関(船内機、船内外機、船外機)とウォータークラフトの全ての推進機関は、正しく据え付けられた通常の使用状態で、その排気ガス排出量が表1から得られる制限値を超えないように、設計し、建造し、かつ組み立てなければならない。
 
表1 RCD改正案における排気ガス規制値
種類 一酸化炭素
CO=A+B/PNn
g/kWh
炭化水素
NC=A+B/PNn
g/kWh
窒素酸化物
Nox
g/kWh 
微粒子
g/kWh
A B n A B n
2サイクル
火花点火
150.0 600.0 1.0 30.0 100.0 0.75 10.0 非適用
4サイクル
火花点火
150.0 600.0 1.0 6.0 50.0 0.75 15.0 非適用
圧縮点火 5.0 0 0 1.5 2.0 0.5 9.8 1.0
 
ここで、A、B及びnは、上表に示された定数であり、PNは、kWで表した定格機関出力である。
*今回の調査研究はこれを受けてISO8178−1に基づく排ガスの測定方法について検討を行ったもの。
130kWを超える出力の機関の排気ガス測定試験は、ISOのサイクルE3又はサイクルE5の試験サイクルを用いても良い。また、排気排出試験に際して、ガソリン機関については指令98/69/EC(AnnexII table3)、ディーゼル機関については指令97/68/EC(Annex4)に定める標準燃料(reference fuels)を使用しなければならない。
 
(2)排ガス規制対象
 規制対象は、改正RCDの第1条、第1項(b)で以下のとおり定められている。
・レクレーション舟艇及びPWCに搭載される推進機関
・これらの舟艇に搭載される推進機関で大改造を行うもの
 また、同第2項(b)で以下の舟艇に搭載される推進機関は適用除外とされている。
 レース用舟艇、実験用舟艇、商業目的の旅客船、潜水艇、エアークッション艇、ハイドロフォイル艇
2−2 1S08178における排ガス質量流量計算の概要
 ISO規格に基づく測定方法を理解するために、ユニバーサルカーボンバランス法による計算方法について簡単に説明する。
(1)ISO8178:ユニバーサルカーボンバランス法の基本的考え方
 カーボンバランス法は燃料消費量が計算でき、燃料組成(C、H、N、O、S組成(%))と排ガス成分(CO、CO2、HC、NOx、O2(体積濃度))が判っているときに用いられるもので、「炭素供給量=炭素排出量」という等式をベースにして以下のような流れで計算し、排ガス排出量を求める方式である。
 
 
(2)ISO8178:ユニバーサルカーボンバランス法の計算式
 後述の「解説」を参照。
2−3 1S08178に則った排気ガス排出量測定の指針について
(1)ISO8178に則った排気排出測定手順骨子(抄)
 本手順は、「ISO1208178」に準拠するものであるが、あくまでも標準的な手順を示すものであり具体的には受検者と機構が協議して計測する必要がある。
(1)計測計画の確認
(2)ファミリーエンジンの親エンジンが代表する範囲の確認
(3)計測システムの設置状況及び校正の確認
i)計測機器の確認
ii)計測機器の校正の確認
iii)計測機器の設置状況の確認
(4)エンジンの設置状況の確認[関連留意事項No.3]
(5)試験の有効性の確認[関連留意事項NO.1,2]
(6)燃料特性の確認[関連留意事項No.4]
(7)エンジン出力等の計測
i)試験状態の確認
ii)計測及び記録
lii)補機器の出力補正
(8)排ガス成分濃度の計測
i)ゼロ調整スパン調整[関連留意事項No.10]
ii)排ガス成分濃度の計測
iii)分析器の再チェック
(9)排ガス流量の計測又は計算[関連留意事項No.5〜9]
 排ガス流量は次のいずれかの方法により計測・計算するものとする。
i)空気、燃料計測による方法
ii)炭素バランス法
iii)ユニバーサル炭素/酸素バランス法
iv)直接計測法
 直接計測法は精度を十分確認すること。
(10)排ガス成分の排出量の計算
i)排ガス成分濃度の湿り濃度への換算
ii)NOx濃度の周囲空気温度・湿度に対する補正
iii)テストモード毎の排ガス成分質量流量の計算
iv)具体的排出量の計算
(11)試験報告書の作成
(12)判定
(2)船外機排気ガス測定試験適用表及び技術的留意事項
 (1)の「測定手順の骨子」を補完し、測定試験時に活用することを目的として、ガソリン火花点火機関(船外機)に対してISOカーボンバランス法を適用する場合の測定試験適用表(ISO規程の逐条ごとの内容と流れをまとめ、かつ、参照すべき技術的留意事頃を示したもので、測定試験の際のチェックリスト的なもの。)及び技術的留意事項(測定試験の際に留意すべき事項)についてとりまとめた。ここでは、技術的留意事項の一部について紹介する(表2)。
 
表2:排気ガス測定試験立会いにおける技術的留意事項
(ガソリン火花点火船外機:カーボンバランス法の場合)
No. 留意事項 説明
1 5.21 試験条件の変数について ・吸気温度、吸気湿度及び大気圧を計測し、fa又はαaが規定の範囲内に入っていることを確認する。
2 5.22 試験の妥当性について ・faについてはO.93≦fa≦1.07に改正予定、ガソリン船外機についてのαaについてはO.93から1.07の間に入ること。
3 5.4 機関吸気装置、および5.5 機関排気装置について ・ここにおける記述は四輪等の裸のエンジンベンチを想定したもの。船外機の場合は吸気装置は一体化されておりエアクリーナーの有無は関係なく、またマフラー一体構造のため通常ありのままの姿で測定するため、両項目とも適用されない。
4 6 試験燃料について ・燃料の選定は規定による。ただし関係者(認定機関、製造者)の合意があれば、一定の条件下で標準燃料でなくとも良いとされる場合がある。
5 7 測定器及び測定するデータのうち、7.2 排気流量について ・排気ガスの測定方法については、7.2.1 直接測定法、7.2.2 空気量燃料流量測定法、7.2.3 カーボンバランス法の中から1つを選択する事になっており、選択された測定方法によってはチェック項目の扱いが異なるので注意を要する。ガソリン火花点火船外機の場合はカーボンバランス法を適用するので、この場合、以下のような扱いとなる。
(1)CO、HC、NOxの算出におけるO2の流量値は不要であり7.4.3.3 酸素分析の項目は非適用(NA)となる。
(2)8.5.5 校正におけるO2分析計の校正は不要である
(3)8.9 CO、CO2、NOx、O2分析計の干渉におけるO2が不要である。
(4)8.9.3 酸素PMD分析計の干渉の項目は非適用となる。
(5)11.7.4 機関運転状態における空気、排気流量の測定は不要である。
6 7. 則定器及び測定するデータのうち、7.4.1.1 測定誤差について ・ここで述べられている総測定誤差とは測定器の校正誤差、ドリフト、および干渉の合計値を表す。
7 7. 測定器及び測定するデータのうち、7.4.1.2 再現性について ・初めて使用するときや大規模なオーバーホール時にのみ10回連続の応答の評価を行うことで、通常の点検では分析計メーカーの基準を適用して良い。
・なお、この項目の記述は具体的には以下の様に解釈する。例えば:フルスケール1000ppmの場合、スパンガスを10回連続測定し、その標準偏差×2.5が±10ppm以内のこと。
8 7. 測定器及び測定するデータのうち、7.4.1.3 雑音、7.4.1.4 ゼロドリフト、7.4.1.5 スパンドリフトについて ・これらの項目については初めて使用するときや大規模なオーバーホール時にのみ規定の方法で評価することでよく、通常の点検では分析計メーカーの基準を適用して良い。
9 7. 測定器及び測定するデータのうち、7.4.4 ガス成分の採取について ・ガス状排出物採取プローブの取り付け位置に関する記述の中で、排気管出ロとは船外機の場合、水中排気部の出ロを表す。基本的にはEPA向けと同様のプローブ位置は認められる。
10 8. 分析計の校正のうち、8.2.1 純ガスについて ・不純物の記述において、JISでは例えば、不純物:C≦1ppmと表現されているが、表現方法はISO原文の様に、不純物≦1ppmCとする方が適切である。またJISにて99.5%vol O2の様に記されているがVolの後にはピリオドを着けるのが正しい表現である。
 
3. むすび
 
 今回の調査研究の成果と平成11年度の調査研究成果により、当機構が国際標準検査の下でISO8178規格に即した排ガス測定を実施するための素地が整ったものといえる。
 なお、排ガス測定に関しては、唯一ディーゼル機関から排出される粒子状物質の測定方法に関する調査研究か残されているが、これについては平成14年度以降着手する予定となっておリ、この調査研究が完了すれば、ISO8178に基づく測定方法はほとんどすべてが網羅されることになり、機構が標準適合検査(国際標準検査)の下で実施する排ガス測定に必要な体制が拡充されることになる。
 JCIでは、排ガス測定の関係ではすでにMARPOL73/78条約附属書Vlに対応したディーゼル機関に関するNOx鑑定業務の運用を開始しているところであるが、今回の調査結果を受けて、あらたにRCD等に対応するために、ISO規格に基づく任意検査制度として、ガソリン機関及びディーゼル機関を対象とする排ガス測定の業務についても取り込む予定としている。
 
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[解説:ユニバーサルカーボンバランス法の計算式]







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