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3.3 その他の要素の影響
 KSAは、EU共同体域内造船業が現行の調査期間に渡って貿への悪影響に苦しんでいるとすれば、それは韓国造船業に原因するとは言えない、と主張している。第1次調査の枠組みの中において、主にEU共同体域内造船所の競争力欠如問題や、韓国造船所による生産性収益問題、そしてウォンの下落問題に関して、彼らの主張の一部が取り上げられている。更に、韓国側は、2001年に韓国のトン当り平均船価が上昇する一方で、韓国の新造受注数が顕著に減少したという事実に基づいた主張を申し立て、このことから韓国造船業の船価不公正慣行による船価低下は存在しないとしている。更に、彼らは、日本などの外国からの新造受注の増加が、市場展開分析に考慮されるべきであると主張している。
 
 前回の調査期間中に打ち上げられたこれらの主張は、第1次報告書において正当に論破されており、新しい要素や特別な問題は存在せず、第一次報告書における結論がここに確定されるのである。
 
 ウォンの下落に関しては、分析が更新され、以下のグラフで第一次調査期間と現在の調査期間中におけるウォン対米ドル、そしてユーロ・エキュ対米ドルの変遷を示す。
 
 ウォン、ユーロ対米ドルの変遷
月毎の通貨変動<グラフ省略>
年毎の通貨変動<グラフ省略>
 
 ウォンは、特に1997年10月と1998年1月の間に米ドルに対して下落した。新造船コストの大部分がウォンで処理される事実を踏まえると、これは韓国造船所にとって米ドル建て船価という点で真の利益となった。ただし、上のグラフが示すように、通貨下落の直後にあたる1998年には、韓国造船所はこの状況から利益を得ることが出来ず、国内財政機関から融資が受けられないという事実に直面して、市場シェアを縮小した。ウォンはその後回復し、調査が終了する2000年11月には、米ドルに対する下落が1997年1月以来36%に達した。しかし、ユーロ・エキュも同時期に米ドルに対して下落した。これが、ウォンの下落による韓国の利益を緩和したのである。
 
 欧州の造船所と比較して、韓国の造船所にとって1998年の短期的利益は、かくして第一次調査と現在の調査期間の間に顕著に減少したのである。更に、ウォンで支払われる人件費と原材料費を増加させた急激な下落の中期的インフレーション効果も見逃すことはできない。
 
 ゆえに、1998年に韓国の造船所にとって通貨変動が短期的利益をもたらしたが、これは韓国造船業の攻撃的な船価政策や、現在の調査期間中にEU造船所が被った損害の原因ではないと結論づけられるのである。
 
 KSAによる他の主張は以下のとおり分析される。
 
 2001年に韓国造船業の市場シェアが減少したことは、前年に彼らが顕著な新造獲得活動を行ったことと、比較的満杯の手持工事量のため2001年には新造受注むけの生産能力がより限定されていた事実に照らして分析されねばならない。上で示したように、現在の調査期間中、韓国はかなりの部門で市場を未だにリードしている。更に、2000年から2001年にかけて市場シェアが減少しているにも拘らず、韓国の造船所は、1997年の時点よりも2001年において高い市場シェアを占めているのである。最後に、2001年において世界の新造受注の80%を独占したLNG船など付加価値の高い部門に焦点を絞ることが韓国造船業の政策であった証拠が判明した。
 
 上述のプロダクトミックスの変化が、去年韓国の平均船価が上昇した理由を説明している。更に、当報告書において証明された廉売マージンで、EU造船所によって提示される船価と比較して顕著に低い船価を韓国造船業が未だに提示している事実も明示されている。
 
 日本の造船所に関しては、2001年において市場シェアを確かに伸ばしている。しかし、長期的に見ると、表3で示されるように、日本の市場シェアは1997年の39.3%から現在の調査期間における33.8%に減少している。同時期におけるEU市場シェアの減少は、ゆえに、日本造船業からの競争力強化に起因するものではない。
 
 上記の理由から、KSAによる申し立ては拒否されねばならない。
 
 欧州委員会はまた、ASCM(相殺措置協定)の第15条(5)項に規定されているその他の要素に関しても分析を行った。
 
 非助成売上高に関しては、上記の日本造船業をめぐる分析に加えて、表2と表3に示すように、第一次調査と現在の調査期間中にかけて、中国造船業が売上量と市場シェアを伸ばしている。しかしながら、中国のレベルは韓国の売上量と市場シェアに比較すると、同じ時期においても、約3分の1という未だに非常に低いレベルにある。ゆえに、中国の売上量はEU造船業の状況に対して顕著なインパクトを与えるほどのものではないど結論付けられる。
 
 非助成売上高に関しては、地域別の詳細なデータが入手不可能である。ゆえに、この点では結論に至ることはできない。
 
 第一次調査と現在の調査期間の間、需要の縮小は見られない。それどころか、欧州造船業が損害を被った3部門、特にLNG船部門に関しては、需要が増加しつづけている。
 
 調査の結果、造船市場において、いかなる消費パターンの変化も見られない。
 
 調査の結果、いかなる通商制限的慣行も、造船所間で行われた証拠は判明しなかった。
 
 調査の結果、市場において比較的利点となる特定の技術を韓国の造船所が開発した証拠は発見されなかった。それどころか、LNG船に関しては、EUの企業によってこのような技術が開発され、関連する特許も所有されているのである。ゆえに、いかなる損害も、この要素に起因すると結論付けることはできない。
 
 上記に基づいて、最初の調査期間に判明した韓国造船業の売上量と市場シェアの顕著な増加や、彼らの船価における顕著な減少と廉売レベルが、EU造船業が被った損害と同時期に発生していたという、当初の報告書にある結論が確認された。その損害の原因として考えられる他の要素は、EU造船業が被った損害と助成との因果関係を断ち切るほどのものではないことも判明した。これは現在の調査によって確認されている。







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