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C. 貿易上の悪影響と損害56
C.1 欧州域内企業の定義
 調査対象期間中、全ての域内造船所に発注された商船のうち、44%に相当する発注は、域内製造者のものであった。このことから、域内造船業はTBR第2条(5)に規定される域内産業に相当するものと考えられる。コミッションが訪問してきた8カ所の造船所は、欧州域内全造船所の受注の25%に相当するものである。
 
一般的な注意事項
 CESAは、調査対象期間中、すなわち1997年1月から2000年11月までの間に、域内産業は、TBR第2条(3)及び(4)に規定されている損害(域内市場)及び貿易上の悪影響(第三国市場)による被害をそれぞれ被り、また、今後も被る恐れがあると主張した。
 
 CESAは、域内産業が被った損害と貿易上の悪影響は、WTO補助金及び相殺措置に関する協定(ASCM)第3条及び第5条に違反して行われた韓国政府による韓国造船業への補助金に原因があるものと断言した。ASCM第5条に従えば、補助金は、その補助金によりASCMの他のメンバーの利益に“悪影響”を与えるようであれば、訴訟を引き起こすに値するものである。補助金によるこのような悪影響は、ASCM第5条(a)に規定される“損害”又は第5条(c)に規定される“著しい害”を域内産業に対して与えるものである。
 
 ASCMの脚注11によれば、“損害”とは、ASCM第15条に規定されている通り、EU域内市場の解析を含む調査報告により対抗するものであり、他方、“箸しい害”はASCM第6条に基づき、あらゆる市場を考慮して解析されるものである。
 
 しかしながら、CESAが確認した調査と訴状の中で述べられているように、商船市場は世界市場である。確かに、全ての造船所が世界中から同じように顧客を獲得すべく競争することになれば、国内市場、輸出又は輸入による市場という概念は事実上無意昧になる。さらに言えば、特定のマーケットに船舶を輸入するということがないため、市場データを地理的市場の中で識別することはできない。このように、分別された“コミュニティ”市場を定義することは現実的でないというよりもむしろ不可能である。このようなアプローチは、コミュニティ市場を孤立させるものではない、むしろ市場は全世界を基盤とした発注と引き渡しによって定義されるものであると理事会宛の造船業に関する委員会報告書のなかで確認されている。57
 
 一般的な造船マーケットに関する情報は、域内造船事業者の状況に関する情報と同様に上述した理事会への委員会報告書に盛り込まれている。このような情報は、紙面の制約からこの報告書には繰り返し記述していない。参照文は報告書のそれぞれ関係のある部分に付記されている。
 
損害と著しい害の恐れ
 韓国造船事業者は、調査対象期間中、クルーズ船は建造していない。このような状況を踏まえ、この船種に関する損害及び著しい害に関する解析がなされでいる。後述のC.3.8参照。
 
 損害に関して、第15条では、数々のファクターが調べられるよう求められている。これら全てのファクターはIP中に取りかかられている。しかしながら、船舶という製品の特徴から、第15条に列挙されている項目の中で損害評価のために意味のあるファクターは、マーケットシェア、販売量、建造物、建造能力、収益、船価、雇用及び投資に係る影響を含むものだけである。
 
上述のとおり、商船の市場は世界市場であることから、域内市場と第三国市場を区別することはできない。更に、調査対象期間中のマーケットシェアを確立するためには、市場の実情を反映する最も適切な方法で世界中の新発注データを示す必要がある。
 
 
Table 1  
World sales volumes and market shares in new oreders, Based on dgt58, during the IP excluding cruise ships
1000cgt 1997 1998 1999 Jan-Nov 2000
EU* 2794 2854 2081 2120
Korea** 6731 4682 6325 8650
Japan 8743 6225 4934 5890
Rest of the
world
3984 3445 4633 5230
World 22252 17206 17973 21890
 
Market
shares %
1997 1998 1999 Jan-Nov 2000
EU* 12.6% 16.6% 11.6% 9.7%
Korea* 30.3% 27.2% 35.2% 39.5%
Japan 39.3% 36.2% 27.5% 26.9%
Rest of the
world
17.9% 20.0% 25.8% 23.9%
*EU=all Community producers,
**Korea=all Korean producers.
Source: Lloyd's Register of Shipping
 
Market shares in all new orders
 
 上の表及びグラフに示したとおり、韓国の新造船受注のマーケットシェアは、IP中にパーセンテージで9.2ポイント増加した。1997年から1998年の間の3ポイントの減少は、主に通貨危機による韓国通貨の脆弱化による造船資金の欠如にものである。1998年の韓国のこのような状況により域内造船所は恩恵を受けたが、1998年から2000年11月までの間に6.9パーセンテージ・ポイントを失い、また、このような事実にも拘わらず、コミュニティが機能させていた援助スキームの有効期間の終了に近づくにつれて域内から韓国へ受注が置き換わっていった。59
 
 船種別の解析結果は次のとおりである。
 
Table 2  
World market shares in new orders, based on cgt during the IP, per sector
Bulk carriers
1997 1998 1999 Jan-Nov.2000
Community
producers
1.2% 0.0% 0.0% 0.0%
Korean
producers
19.7% 11.8% 19.9% 18.5%
Container ships
1997 1998 1999 Jan-Nov.2000
Community
producers
23.4% 15.4% 12.9% 10.5%
Korean
producers
13.9% 44.7% 62.2% 52.6%
Oil tankers
1997 1998 1999 Jan-Nov.2000
Community
producers
2.3% 2.6% 0.0% 0.0%
Korean
producers
52.8% 46.7% 76.8% 84.4%
Product and chemical tankers
1997 1998 1999 Jan-Nov.2000
Community
producers
22.2% 9.9% 2.9% 3.6%
Korean
producers
28.2% 45.9% 43.9% 47.1%
Passenger and RoRo ferries
1997 1998 1999 Jan-Nov.2000
Community
producers
54.3% 70.7% 41.1% 50.7%
Korean
producers
0.4% 0.3% 20.1% 20.8%
Liquefied Gas carriers
1997 1998 1999 Jan-Nov.2000
Community
producers
4.9% 1.9% 0.0% 16.3%
Korean
producers
59.6% 34.6% 32.3% 38.2%
 
Other cargo vessels
1997 1998 1999 Jan-Nov.2000
Community
producers
9.2% 28.8% 14.5% 16.0%
Korean
producers
13.7% 12.0% 6.2% 2.9%
Other non-cargo vessels
1997 1998 1999 Jan-Nov.2000
Community
producers
37.2% 36.8% 45.6% 33.8%
Korean 22.9% 5.5% 3.1% 4.3%
Source:Lloyd's Register of Shipping
 
 域内製造者のマーケットシェアの減少と韓国マーケットシェアの増加の同時発生が、プロダクト/ケミカルタンカーとコンテナ船の分野で見受けられている。加えてオイルタンカーとバルクキャリアで域内製造者のマーケットシェアがゼロに落ちている。域内製造者は旅客船とRoRoフェリー及びその他非貨物船のセクターでシェアを守ることができ、その他貨物船と液化ガスキャリアでシェアを伸ばしている。
 
Table 3
  
Production, capacity and capacity utilisation (1997=100)
1997 1998 1999 2000
Capacity 100 100 101 101
Production 100 99 90 88
Capacity
utilisation
100 100 90 88
Source: Questionnaire replies
 
 建造量は仕事の進展に関係するはずであるのに、売り上げは契約日を基に確定されていることを念頭に置いておく必要がある。
 
 調査対象期間中、建造能力は殆ど変化していないのに、建造量は12%減少している。その結果として、建造設備稼働率も同程度下落している。
 
 上述のとおり、損害解析のため、売上は、売買契約を基に解析している。60それゆえ、各々の船の売上高は契約日を一致させている。
 
Table 4 Sales volumes (1997=100)
1997 1998 1999 Jan-Nov.2000
Bulk carriers 100 0 0 0
Container
ships
100 74 43 116
Oil tankers 100 33 0 34
Product and
chemical
carriers
100 25 0 174
Passenger and
RoRo ferries
100 558 520 282
Other non-
cargo vessels
100 226 97 229
Total 100 95 62 117
Source: Questionnaire replies
 
 1997年から1999年の間、全体的な契約Cgt建造量は、明らかに減少傾向にある。これは、旅客船、RoRoフェリー及びその他非貨物船を除いて同じ傾向にある。前に説明したとおり、2000年の契約行為は、運営補助金の有効期限が切れたことに影響されているのかもしれない。

56 このセクションの情報は要約されており、かつ/また、秘密を保持するため索引をつけられている。
57 委員会から理事会に宛てられた世界の造船事情報告書参照。
 (COM(1999)474 final of 3.10.1999,COM(2000)263 final of 03.05.2000,COM(2000)730 final of 16,11,2000),COM(2001)final of May 2001.
58 Cgtは船舶のサイズを測る単位で、グロス・トンを補正して計算される。Cgtは、グロス・トン(gt、1gt=2.83立方メートル)で表される船の大きさに補正係数を掛けて計算される。一般的な補正係数は、各船種ごとにそのサイズ・カテゴリーに応じて国際的(OECDレベル)に定められている。サイズ・カテゴリーはgtとデッド・ウェイト・トンで表される燃料および飲料水を含めた載荷重量によって定義されている。
59 Council Regulation (EC) No 1540/98 of 29 June 1998 established new rule on aid to shipbuilding. OJL 202, 18.7 1998, p.1参照。
60 域内21の協同製造事の販売量







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