付録
付録A
中型高速RO−RO船の基本設計
1 概要
RO−RO船を含め船舶の基本設計を行う際には、想定航路の確定やそれらの船舶が入港する可能性のある港湾の水深、バース長の情報等が必要となり、かつ多額の費用と時間を要する。タイ国におけるモーダルシフトに資するRO−RO船の基本設計を新たに行う場合は、上記の情報収集等を現在同時並行して行っており、かつ、基本設計は長い日時を要するため、当該の調査報告書への盛り込みには間に合わない。
このため、CAJSが平成5年度より3ヵ年かけて行った内航RO−RO旅客船(3,550 DWT)の基本計画は、今回のタイにおけるRO−RO船とかなりの部分で類似性を有するため、当該の調査報告書に参考として盛り込むこととした。
この内航RO−RO旅客船は、排水量型の船舶としては、超高速船の分類に入る大幅な高速化を図っており、旅客船としての快適な船旅を過ごせることをコンセプトに揚げ、十分なスタビリティーを有し、かつ動揺、振動、騒音低減等の居住性の向上を図った優美な外観の1機1軸1舵(1エンジン1シャフト1ラダー)船とした。以下、当該船舶の基本計画を記す。
2 基本計画
計画船はモーダルシフトに対応するよう、幹線貨物輸送をトラックから大量輸送機関である船舶への転換を行い、トラックの持つ機動性と海運の大量輸送、低廉性との組み合わせによる複合一貫輸送を目的として、主貨物を12mシャーシとして想定し、無人航送輸送により労働力の省力化、道路混雑の解消、環境保全等の社会的要請に貢献できるよう計画した。
計画船の想定航路はトラックによる輸送時間との時間差を無くすため、陸上幹線道路の整備が遅れている北海道〜上越の日本海沿岸とし、利用者の便を考慮に入れ、定時性、安定輸送を図るために一航海20時間以内、距離にして700km〜860kmまでと限定して考えた。
以下に計画船とトラック輸送との比較、計画船によるメリットを列挙する。
(1) |
一度に輸送可能な貨物量は約90倍。 |
|
長距離トラック |
: |
最大でも20トンが限度 |
|
計画船 |
: |
約1,830トン |
(2) |
労働者一人当たりの年間輸送量は約6倍 |
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長距離トラック |
: |
約370トンキロ |
|
計画船 |
: |
約2,300万トンキロ |
注) |
トラックの積載量は20トン、平均時速70km、走行時聞10h/day、年間265日稼動。 計画船の積載量は1830トン、平均時速43km、航送時間16h/day、 年間365日稼動、乗組員は交代要員を含め20人。陸、海ともに距離を700km、積載量は往復同じとして試算。 |
(3) |
無人航送輸送により運転手の労働不足の解消。労働時間の短縮。 |
(4) |
定時定型輸送の確立。 |
(5) |
市街地区域での環境の保全。 |
2.1 船体部主要目
全長 約133.00m
垂線間長 120.00*
型幅 21.OOm*
型深さ(上甲板/乾舷甲板) 13.10m/8.00m
計画満載吃水 6.50m*
総トン数 約6,320GT
載貨重量 約3,550t
航行区域/想定航路 近海(非国際)/日本海沿岸(近畿、上越〜北海道:700〜1000km)
航続距離 約4,000マイル
車両搭載数 60台(12mシャーシ)
旅客定員/乗組員 200名/30名
航海速力 約233kt(Fn=0.35)*
主機関 MCR26400PS/400RPM(16PC4−2V)x1基*
注)*印は船型開発「93−C TYPE」の要旨にならう。
2.2 主要設備
フィンスタビライザー/バウスラスター/スターンラスター
船首サイドランプウェー(乾舷甲板)/船尾サイドランプウェー(隆起甲板)
車両甲板間スロープウェー(隆起甲板〜上甲板)/倉内リフト
身障者用エレベーター/身障者用個室2名1室(介護人含む。バス、トイレ付)
2.3 一般配置
各甲板は上部より、航海船橋甲板、A甲板、B甲板(上甲板)、C甲板(乾舷甲板)とし、力ーフェリーの浸水計算及び国際規則の損傷時復原性が満足できるように乾舷甲板下に13枚の隔壁を設け、船首部にバラストランク、バウスラスター室、空所、船体中央部は船側よりB/5以上の間隔を取り貨物倉、補機室を設け、両舷側に燃料、清水、バラストタンク、フィンスタビライザー室、船尾部は機関室、バラストタンク、スターンスラスター室、舵機室等を配置した。
車両甲板は乾舷甲板と上甲板の2層及び船尾隆起甲板とし、各甲板とも12mヘッドレスシャーシの搭載を考慮し、クリア高さ4.2m以上を確保した船首乾舷甲板及び船尾隆起甲板にサイドランプウェーを設け、上甲板への車両の乗り入れは船尾隆起甲板より車両甲板間スロープウェーを経由して行う。また、車両甲板船体中心部には船体強度、振動対策のために車両の搭載に問題にならない範囲でピラーを設けた。
旅客搭載場所はA甲板の1層とし、客室、レストラン、娯楽室、浴室、便所、洗面所等の旅客設備を設けた。身障者用の設備としてエレベーター、身障者用個室2名1室(介護人1名含む。バス、トイレ付)及び身障者専用の洗面所、便所を1箇所設け、車いすでの公共場所への移動、利用を考慮し通路の幅を確保、段差、傾斜を極力減らした構造とした。
船員室は航海船橋甲板上及びA甲板後部に設け、必要な設備等を設けた。
計画船は非常にファインな船型であり初期復原力が小さいため、極力重心を下げるよう検討を行った。乾舷甲板下はあまり床面積を確保できないため、スロープウェー、大型リフターによるシャーシの搭載は不経済となるのでコンテナ等の貨物の搭載場所とした。
2.4 船型及び排水量
本基本計画はCAJSで検討した「93−C−船型」を基に行った。表1に計画満載吃水における排水量等の主な数値を「93−A−船型」と比較して示す。なお、推進性能に影響のない範囲で船体前半部の吃水線上のフレアーを大きくして、車両甲板の床面積を増やすこととした。
表1 |
「93−C−船型」及び「93−A−船型」の排水量等の諸数値 |
主要寸法 |
|
|
93−C−舟型 |
93−A−船型 |
備考 |
LPP 120.00m |
F |
8.650t |
8.600t |
|
B 21.00m |
V |
8,396m3 |
8,350m3 |
|
D 6.50m |
CB |
0.153 |
0.510 |
|
|
CMx |
0.915 |
0.93 |
Amax/(BXd) |
|
CPx |
0.560 |
0.548 |
CB/CMx |
|
LCB |
AFT2.93m |
AFT0.69m |
|
|
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(2.4%LPP) |
(0.6%LPP) |
|
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TKM |
9.95m |
9.17m |
|
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2.5 車両配置
RO−RO船としてモーダルシフトに対応出来るよう、車両甲板は乾舷甲板と上甲板の2層及び船尾隆起甲板とし、各甲板とも12mヘッドレスシャーシの搭載を考慮し、クリア高さ4.2m以上を確保した。C甲板船首及び船尾隆起甲板に大型のサイドランプウェーを設け、上層のB甲板への車両の乗り不れは船尾隆起甲板より車両甲板問スロープウェーを経由して行う。また、車両甲板船体中心部に船体強度、振動対策のために車両の搭載に問題にならない範囲でピラーを設けた。ピラーの関係でシャーシは各舷3列、計横6列を基本として搭載した。表2に12mシャーシを搭載した場合の各甲板の車両搭載数を示す。
表2 シャーシ搭載台数
甲板名 |
台数 |
C甲板 |
28台 |
B甲板 |
28台 |
船尾隆起甲板 |
4台 |
合計 |
60台 |
|
注) |
12mシャーシ 長さ×幅=12.00m×2.50m |
2.6 重量重心トリム計算及び復原性能計算
(重量重心トリム計算)
重量重心トリム計算は満載とベラスト状態の出港、入港(90%消費)状態の4状態及び実際の運行状態に近い貨物、燃料等の半載状態(50%消費)の計算を行った。
「93−A−船型」では満載出港状態は12mシャーシを62台、C甲板下に貨物約280トンを積付け、燃料、清水を満載とし海水バラストを約480トン搭載して船首尾トリム、重心高さの調整を行い、トリム=0m、GoM=0.87mの結果を得た。しかし、「93−C−船型」では推進性能以外に復原性の観点から水線面積を広げTKMを大きくする試みがなされたので、「93−C−船型」では満載出港状態は12mシャーシを60台、C甲板下貨物倉に貨物約320トンを積付け、燃料、清水を満載し、ヒール、トリム調整及び復原性を考慮して海水バラストを約350トン搭載しトリム=0m、GoM=1.35mの結果を得た。その他の状態もトリム1%Lpp以内、プロペラ没水率(I/Dp)65%以上、GoM=1.00m以上を目安に計算を行った。表3に満載状態における載貨重量及び重量重心諸数値を示す。
(非損傷時復原性計算)
上記の状態について国内規則による非損傷時復原性計算を行い、十分満足する結果を得た。
(隣接2区画浸水計算)
「カーフェリーの安全対策の強化による通達」による隣接2区問浸水の計算を満載出港状態について行い満足する結果を得た。計算は浸水箇所の載貨物の船外への流出は無いものと仮定して行った。
なお、船体中央部の左右独立のタンク(No.1&2 F.O.T./F.W.T./HEEL.T.)はクロスフラッディング設備を備えるものとした。
2.7 総トン数
総容積 |
|
(V=41696m3) |
0.2+0.021og10V=0.2924 |
|
|
K1V=12191 |
|
〔t〕(国際トン数) |
B/A−0.25=0.5185 |
|
〔K2〕 |
tK2=6321 |
|
(日本) |
2.8 中央横断面図
日本海事協会「鋼船規則集」及び同「検査要領」に基づき強度計算を行った。軽量化を図る目的で上甲板以下の主要部材については高張力鋼(KA32)を使用した。車両甲板構造は主貨物として12mシャーシを想定した。牽引車は車両重量6トン、シャーシは車両総重量30トンとしてけん引時及びシャーシのみの搭載時の強度計算を行った。なお、シャーシのみの搭載時はランディングギア(補助脚)下部に大きな集中荷重がかかるため、局部的な補強または専用架台が必要である。本強度計算では補助脚による集中荷重を考慮していないが、詳細設計においては甲板板厚の計算に補助脚による集中荷重に充分留意する必要がある。
表3 満載状態における載貨重量及び重量重心諸数値
船型 |
93−C−船型 |
93−A−船型 |
状態 |
満載出港 |
満載入港 |
満載出港 |
満載入港 |
燃料 (t) |
603 |
60 |
845 |
84 |
清水 (t) |
446 |
45 |
396 |
40 |
貨物、旅客 (t) |
1,848 |
1,848 |
1,842 |
1,842 |
海水バラスト (I) |
483 |
1107 |
347 |
931 |
その他 (t) |
120 |
120 |
120 |
120 |
軽荷重量 (t) |
5,100 |
5,100 |
5,100 |
5,100 |
満載排水量 (t) |
8,600 |
8,280 |
8,650 |
8,117 |
平均喫水 (m) |
6.50 |
6.30 |
6.50 |
6.17 |
トリム (m) |
0.00 |
0.40 |
0.00 |
0.66 |
TKM (m) |
9.17 |
9.11 |
9.95 |
9.71 |
GoM (m) |
0.87 |
0.79 |
1.35 |
0.98 |
|
|