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5-2 新エネルギー政策が貿易に与える影響予測
 
 新エネルギー政策は今後の石油の荷動きに重大な影響を及ぼしかねない。原油輸入元の分散を奨励する結果、中東からの石油輸入が減る可能性がある。究極的に、米国向け石油輸送に必要とされるタンカーの種類や数にも影響が出るだろう。
 
石油事業における国際協調
 エネルギー計画では米国と産油国のあいだの協調を強化する多くのインセンティブが求められている。これには、ロシアにおける石油・ガス開発事業への米国投資の受入態勢を整える努力や、石油資源の豊富な西アメリカ諸国との関係を深める努力が含まれている。これらのイニシアティブは既に進行中である。
 米露エネルギー協調条約が結ばれ、ロシアと米国との間の協調体制と石油貿易の拡大の基盤ができた。ロシアの石油生産者(Yukos)は、少量のロシア産石油の米国向け輸出を開始している。7月にYukosは、第1回目の200万バレル(約27万石油換算トン)のVLCC輸出を行い、ガルベストンで積み替えられた。第2回目のロシア産原油の出荷は、Yukosによりムルマンスクから米国まで、メキシコ湾岸の港湾に入ることのできるアフラマックス型タンカーを使用して行われる。同社は、米国市場向けに少量の石油の販売を継続する計画であり、L00P社23の外洋施設を経由して米国に輸出される石油用に大型石油輸出ターミナルの建造を検討している。さらに、マラソン石油とRosneft石油は、ロシア産原油を北米に輸送し販売する新たなベンチャー事業を創立するためのレター・オブ・インテントを交わした。両者はメキシコ湾のLOOP外洋施設まで原油を輸送することを考えている。
 西アフリカ諸国との関係強化の一環として、米国は最近、この地域に軍事協調国を確立する計画である。これには、同地域に艦艇基地を置く事も含まれている。
 このイニシアティブが成功すれば、米国への輸入石油の荷動きに何らかの重大な変化が起こる可能性がある。ある著名な業界アナリスト(Daniel Yergin)は、今後5年間でロシアが、少なくとも日量50万バレル(約67,500石油換算トン)を輸出するようになり、対米供給国上位10位に入る可能性があると考えている。一方、これらのロシアや西アフリカに関するエネルギー・イニシアティブは、現在の中東情勢に照らした米国のポーズに過ぎず、米国の石油輸入元が大きく変化する可能性は極めて低いと見る向きもある。
 
BTCパイプライン
 新エネルギー計画はアゼルバイジャンとトルコ間のバクー・トリビシ・ジェイハン・パイプラインの建設を支援している。エネルギー計画はまた、カザフスタン内で事業を行っている石油会社に輸出機械を提供するために、このパイプラインのカザフスタンとの連結を支援している。全長1,760kmのBTCパイプラインは、カスピ海地方の原油を西側市場に開放する。ブッシュ現政権もクリントン前政権も、これにより米国の中東石油依存度が軽減すると考えている。カスピ海地域産出量は2015年には日量400万バレル(約54万石油換算トン)に達すると考えられている。このうち半分がカザフスタン産である。米国が圧力をかけ、BPが主導する石油会社8社からなるコンソーシアムは、29億ドルのパイプライン建設に合意し、2002年9月に建設プロジェクトの入札が開始された。完成は2005年の予定であり、日量100万バレル(約135,000石油換算トン)の輸送能力を持つことになる。これにより、中東産石油依存度が100万バレル分減ることになる。
 しかし、他に適切な輸出オプションがある中で、BTCパイプラインはコストの高い解決法だと考える向きも多い、格段にコストの低い代替策として、南方輸出オプションがある。カスピ海産石油をイランを通過して、アラビア湾の積出し港に運ぶパイプラインの建設である。このオプションにはイランが関係してくるために、米国が反対した。イランは石油をヨーロッパや北米ではなく、東に輸送しかねない。もう一つのコストの低い代替策は、ロシアを通過する短いパイプラインである。これには、カスピ海石油輸出がロシアに握られる可能性があるという理由で米国が反対した。また、BTCパイプラインは、米国のトルコ支援の意図を反映している。トルコはパイプラインから年間2〜3億ドルの通過料金を受け取ることになる。
 

23
L00P社:Louisiana Offshore oil Port社の略。L00P社はマラソン・パイプライン社、シェブロン・テキサコ社、シェル社、アッシュランド社及びマーフィー社の5社による合弁会社であり、ルイジアナ州の沖合に設置した外洋石油荷役施設でタンカーから石油の積み取り、積み卸しを行っている。







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