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刊行によせて
 
 当財団では、我が国の造船関係事業の振興に資するために、日本財団から競艇公益資金による助成を受けて、「造船関連海外情報収集及び海外業務協力事業」を実施しております。その一環としてジェトロ船舶関係海外事務所を拠点として海外の海事関係の情報収集を実施し、収集した情報の有効活用を図るため各種調査報告書を作成しております。
 
 本書は、(社)日本中小型造船工業会及び日本貿易振興会が共同で運営しているジェトロ・ニューヨーク・センター船舶部のご協力を得て実施した「米国のエネルギー政策が海事産業に与える影響に関する調査」の調査結果をとりまとめたものです。
 関係各位に有効にご活用いただければ幸いです。
 
2003年3月
(財)シップ・アンド・オーシャン財団
 
はじめに
 
 いうまでもなく、米国は世界最大のエネルギー消費国である。2001年の消費量は、石油に換算して約24億2,700万トンに達している。しかし、同年の国内生産量は約18億2,700石油換算トンに過ぎず、その差は輸入に依存している。
 2001年に米国は約6億6,900万石油換算トンのエネルギーを輸入した(生産量と消費量の差と整合しないのは、備蓄や在庫の積み増し、製品となって実際に消費されるまでのタイムラグ等による。)。この内、約5億1,200万トンが原油輸入であり、現在、米国は世界最大の原油輸入国となっている。
 石油危機以降、米国のエネルギー構造も変化し、国全体としてはエネルギーの石油依存度は低下している。しかし、エネルギー消費量の全般的な拡大により、絶対的な石油消費量は増加しており、これが原油輸入の急速な拡大を招いた。一方で、原油輸出国の大半は発展途上国であり、多くは政情的に不安定な地域にある。
 ブッシュ大統領は、2000年の選挙戦を通じて、大量の原油を海外に、特に中東諸国を中心とするOPEC加盟諸国に依存することは国の安全保障上問題があるとし、新しい包括的なエネルギー政策の必要性を訴えた。そして、政権発足後直ちにチェイニー副大統領を座長とする検討グループを設け、2001年5月には「新エネルギー政策」が公表された。新エネルギー政策の概要は本文を参照していただくとするが、その骨子は国内のエネルギー資源開発の促進によるエネルギー輸入の抑制と、輸入先の多様化であるといえる。
 ところで、海運にとって、原油、石油製品、石炭、天然ガスは重要な貨物であり、海上荷動き量の大きな部分を占めている。世界最大のエネルギー消費国である米国のエネルギー政策の変更によって、海上荷動きは大きな影響を被る可能性があり、結果的に造船需要にも影響を及ぼす可能性は高い。そこで本調査では、ブッシュ大統領が提案したエネルギー政策が海上荷動き量に及ぼす影響を評価することを目的とした。そのためには、米国におけるエネルギー需給の構造、米国のエネルギー産業の特徴と概要を知っておくことも重要であるため、若干ではあるが、これらについても触れている。
 また、大統領の提案とはいえ、議会での立法措置や予算措置が必要であるが、新エネルギー政策公表直前に、穏健派の議員が離党したことにより与党共和党は上院で多数党の地位からすべり落ちてしまった。このため、新エネルギー法案は上下両院で別個の法案が採択されたまま、調整未了で成立に至っていない(平成15年1月現在)。そこで、2002年11月に行われた中間選挙の結果もフォローし、今後の政策実現の見通しについても補足的に調査している。
 一方、ブッシュ大統領は政権発足直後に京都議定書からの一方的脱退を決めた。これについては、政権内部からも「愚行であった」という反応が出ているが、京都議定書はエネルギー問題と密接に関係している。従って、この報告書では京都議定書を巡る米国内の動きにも簡単に触れている。
 この報告書が、米国を巡るエネルギー需給の構造、今後の海上荷動き量に関する予測等ついて、関係各位の参考となれば幸いである。
 
ジェトロ・ニューヨーク 船舶部
(社)日本中小型造船工業会共同事務所)
ディレクター 市川吉郎
アシスタント・リサーチャー氏家純子







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