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1. 連邦法
 
「障害を持つアメリカ人法(Americans with Disabilities Act: ADA)」
 
 ADAは、障害を持つ人々の権利保護について包括的に定めた米国の連邦公民権法規である。
 
 ADAには、雇用条件、州や地域政府のプログラムやサービス、民間企業・交通機関・非営利サービスプロバイダなど公共性のある施設や場所、そして通信に関する規定が盛り込まれている。
 
 1986年、全米障害者協議会(National Council on Disability: NCD)が『Toward Independence』というレポートを発行し、障害を持つ人々の機会均等を求める包括的な法律の制定を勧告した。1
 
 独立連邦機関であるNCDの任務は、障害を持つ人々の機会均等を保証するための政策、プログラム、方法、手続きについて大統領と議会に勧告するとともに、障害を持つ人々の経済的な自立、生活の自立、および社会のあらゆる側面への包含と統合を促進することである。
 
 NCDが作成した最初のADA草案は、1988年の第100連邦議会に提出された。
 同法案は、1989年5月に再提出され、修正の後、1989年9月7日に上院を通過した。1990年5月22日には下院版の法案が通過した。上院版と下院版の法案の差異を解決するために上院と下院の間で会議が2回開催された後、同年7月中頃、ADAの最終版が両院で可決された。ADAは、上院と下院両方に有力な支援者および支持者を獲得し、圧倒的多数の賛成によって両院を通過した。しかし、ADAの内容は複雑であり、議会内はもとより、議会と政府の間でも、細かい点に至るまで活発に審議が行われた。
 
 1990年7月26日の朝、ジョージ・ブッシュ大統領はADAに署名し、次のように述べた。
「これは、障害を持つ人々の平等に関する初めての包括的な宣言であり、人権に関して米国が国際的リーダーであることを示す証である。本日、この画期的な『障害を持つアメリカ人法』に署名したことにより、障害を持つすべての男女および子供は、かつて閉ざされていたドアを通り抜け、平等、独立、自由という明るく新しい時代へと進むことができるようになった。」
 ADAは、それぞれ雇用、公益事業体、交通、民間事業体、通信を内容とする5つのタイトルで構成されている。
 ADAが対象としているのは、身体または精神に障害を持つ人々である。ADAは身体的障害について次のように定義している。「神経系、筋骨格系、特殊感覚器系、呼吸器系(発声器官を含む)、心臓循環器系、生殖器系、消化器系、泌尿生殖器系、血液リンパ系、皮膚、および内分泌系のうち、1つもしくは複数の身体系に影響を及ぼす生理的機能障害もしくは制約、美容上の変形、または解剖学的欠損」。また、ADAは精神的障害を「知的障害、器質性脳症候群、感情障害または精神病、特定の学習障害などの精神的または心理的機能障害」と定義している。
 
 ADAのタイトルIは、従業員15人以上の企業または州および地方政府が雇用の面で障害を持つ人々を差別することを禁じている。
 
 ADAのタイトルIIは、州および地方政府のサービス、プログラム、活動において、障害を持つ人々を差別することを禁じている。州および地方政府のすべてのプログラム、サービス、活動がこの規定の対象に含まれる。具体的には、公教育と社会福祉、州の議会や裁判所、町民会議、警察と消防、運転免許、就労サービス、公共交通機関などが対象となる。州および地方政府は、あらゆる面において、障害を持つ人々が容易に利用できるようにプログラムを運営しなければならない。州および地方政府は、機会均等を保証するために別途異なる手段が必要でない限り、プログラムやサービスを区別なく提供しなければならない。また、障害を持つ人々が均等にプログラムやサービスを享受することを妨げるような不必要な資格基準や規定を除外しなければならない。さらに、州および地方政府は、政策、慣行、手続きに妥当な変更を施すとともに、過度な負担や財務変化をもたらすことがない限り、障害を持つ人々の機会均等を保証するため、必要に応じて補助手段やサービスを利用し効果的なコミュニケーション手段を提供しなければならない。州または地方政府が施設を新たに設計・建設する場合、または既存の施設を改造する場合は、ADAに基づいて採択された「Standards for Accessible Design」に従わなければならない。
 
 タイトルIIIは、公共性のある施設や商業施設において、障害を持つ人々を差別することを禁じている。公共性のある場所には、レストラン、ホテル、劇場、会議センター、病院、小売店、博物館、図書館、私立学校、浴場、保育所など、600万を超えるあらゆる規模の民間事業所が含まれる。商業施設とは、オフィスビル、工場、倉庫など、商取引に関連した事業を営む企業である。公共性のある施設は、機会均等を保証するために別途異なる手段が必要でない限り、区別なく財とサービスを提供しなければならない。また、障害を持つ人々が公共性のある施設の財やサービスを等しく享受する機会を否定するような不必要な資格基準や規定を排除するとともに、提供される財やサービスの性質が根本的に変化しない限り、障害を持つ人々の平等なアクセスを否定するような政策、慣行、手続きに妥当な変更を施さなければならない。さらに、過度の負担や財務変化をもたらす場合を除き、必要に応じて補助的な支援やサービスを利用して効果的なコミュニケーションを保証しなければならない。また、容易に達成可能である場合は、施設に存在する設計・構造上のコミュニケーションバリアを排除しなければならない。バリアの排除が容易に達成可能でない場合は、代替手段を通じて財やサービスを提供する必要がある。公共性のある施設もしくは商業施設を新たに設計・建設する場合、または既存の施設を改造する場合は、「Standards for Accessible Design」に従わなければならない。
 
 ADAのタイトルIVは、電話会社に対し、TTY2を使用する人々が利用できるTTY/電話リレーサービスを提供することを義務づけている。
 
タイトル 内容 発効日 施行機関
タイトルI 雇用および雇用主の義務 1992年7月26日に従業員数25人以上の雇用主に対する規定を発行、1994年7月26日に従業員数15人以上の雇用主に対する規定を発行 雇用機会均等委員会(Equal Employment Opportunity Commission)
タイトルII、パートA 公益事業体:州および地方政府 1992年1月26日 司法省
タイトルII、パートB 公益事業体が提供する公共交通機関   運輸省
タイトルIII 民間事業体:公共性のある施設、商業施設、免許や認定に関連した試験および教育訓練、民間事業体が公衆に提供する交通機関 1992年1月26日 司法省
タイトルIV 電気通信国内電話リレーサービスを確立する、連邦資金による公共サービス案内のクローズドキャプション化を義務づける 国内電話リレーサービスは1993年7月26日までに確立することが義務づけられた。 連邦通信委員会
タイトルV ADAのすべてのタイトルに適用されるその他の規定    
 

1
『Toward Independence』のコピーは、http://www.ncd.gov/newsroom/publications/toward.htmlで提供されている。
2
TTYはTelecommunication Devices for the Deaf(TDD)とも呼ばれる聴覚障害者用文字電話で、双方向の端末で電話線を使って文字による会話を送受信するシステム。テレタイプライター技術によるので米国ではTTYと略されている。







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