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平成14年度海洋ビジョンに関する調査研究報告書?沿岸域管理・海洋教育・海上安全保障?

 事業名 海洋シンクタンク事業
 団体名 シップ・アンド・オーシャン財団  


3. 武力紛争法上の軍隊及び武力紛争の概念
3.1 武力紛争法上の軍隊の概念
 国際法、就中、武力紛争法は、本論冒頭で記したように軍隊を実質的意義においてとらえる。条約上、こうした意義における軍隊が明確に定義されることは従来ほとんどなかった。例えば、1907年のハーグ陸戦法規慣例条約附属陸戦規則(ハーグ陸戦規則)は、そのような実質的意義における軍隊ないし兵力を想定した条文を設けているが、その直接的定義はない。唯、民兵及び義勇兵団に同規則が適用されるためにそれらが満たすべき条件を記すにとどまる。1949年の四つのジュネーヴ条約も同様であって、捕虜資格が規定されてはいても、軍隊の直接的定義はない。
 1977年の第一追加議定書は、従来の正規兵と不正規兵の区別を廃したこともあって、同議定書適用の目的のための軍隊の直接的定義を設けた。同議定書第43条第1項によれば、「紛争当事国の軍隊(armed forces)は、部下の行動について当該紛争当事国に対して責任を負う司令部(command)の下にある組織され、武装されたすべての兵力、集団及び部隊(all organized armed forces, groups and units)から成る(当該紛争当事国を代表する政府又は当局が敵対する紛争当事国により承認されているかいないかを問わない。)。軍隊は、内部規律制度(特に武力紛争の際に適用される国際法の諸規則の遵守を強制する内部規律制度)に従うものとする」とされる(11)。なお、同議定書の地理的適用範囲を制限する第49条の影響は、第43条には及ばないから、第43条のいう軍隊の定義は、それが陸海空のいずれの場所で行動するかにかかわらない。
 第43条は、第1項の軍隊の定義に続いて第2項で、「紛争当事国の軍隊の構成員(第三条約第33条に規定する衛生要員及び宗教要員を除く。)は、戦闘員(combatants)であり、敵対行為(hostilities)に直接参加する権利を有する」とし、第44条第1項では、第43条規定の戦闘員で敵対する紛争当事国の権力内に陥った者は「捕虜(prisoner of war)」となると定める。第44条の第3項以下は、捕虜資格についての定めである。
 こうした軍隊の定義の他に、同議定書第43条第3項は、他の武装した組織の軍隊編入につき言及している。すなわち、「紛争当事国は、準軍事的な又は武装した法執行機関(paramilitary or armed law enforcement agency)を自国の軍隊に編入(incorporates)したときには、他の紛争当事国にその旨を通報する」としているのである。
 同議定書は、国際的武力紛争において軍隊として扱われる武装組織として以下のものを想定していることになる。第一は、第43条が定義するような実質的意味の軍隊である。つまり、国内法上の呼称が軍、警察軍や警察のいずれであろうが同条の要件を満たすものである。第二は、実質的な軍隊には当然には該当しないが第43条第3項の手続により軍隊に編入された武装組織である。
 上記二種以外の武装組織は、同議定書上の軍隊ではない。実質的意味の警察であって、軍隊に編入されないものは、従って、軍隊とはされない。こうした意義における警察は、武装しているとしても文民(civilian)の扱いを受け、敵対行為に直接参加しない限り保護と尊重の対象となると解される。確かに、武装した実質的意味の警察が保護対象となることを同議定書は直接には述べていないが、第59条及び第60条の規定が間接的にこれを示すと考えられる。
 第59条及び第60条は、攻撃その他から免れる無防備地域(non-defended localities)と非武装地帯(demilitarized zones)の設定条件をそれぞれ定めるが、いずれの特殊地帯であっても、「法及び秩序の維持のみを目的として保持される警察(police forces retained for the sole purpose of maintaining law and order)」がその内に存在することは、当該特殊地帯の保護される性格に影響しないとしている(12)
 これら特殊地帯は当然陸上に設定されるから、主に海上で行動するする海上警察がこれら条項によって文民機関であって保護と尊重の対象と当然に見なされるかはなお検討を要する。しかしながら、両条項は、法秩序維持機能のみの警察一般の武力紛争法上の地位を考える上で一定の示唆を与えるものである。
 
3.2 武力紛争の概念
 上記のような国家の実質的意味の軍隊同士の暴力行為は、国際的武力紛争を構成する。但し、国際的武力紛争であるためには暴力行為の烈度(intensity)基準が別途必要か否かについては、見解が分かれる。赤十字国際委員会は、軍隊同士の接触に伴い暴力が行使されれば、その烈度を問わずこれを武力紛争とみなすが、英国等いくらかの諸国は、一定の烈度をこえるもののみが武力紛争であるとしている(13)
 問題は、烈度基準の有無及びそのような基準が武力紛争法上あるとしてもその具体的な内容である。烈度基準が存在するという立場からは、衝突する二つの軍隊の兵力、火力、損害の程度や衝突の期間といった要素が提示されることがある。しかしながら、衝突の形態は千差万別であって、諸国の実行も必ずしも一致していない。例えば、1982年にフォークランド(マルビナス)諸島をめぐって英国とアルゼンチンの両軍の間に大規模な衝突が発生したが、その初期には英軍は相当数のアルゼンチン将兵を捕らえながら、しばらくの間、事実上の待遇は別にして、公式にはこれを捕虜とはせず、従って武力紛争とはみなさなかったことがある。他方、より烈度の低い衝突であっても、武力紛争とされた例も少なくない。
 我が国の関心事との関連でいえば、外国軍隊に属する小規模部隊が我が国に侵入し、暴力行為をなしたとき、これを武力紛争とみなすかが問題となる。かかる侵入を武力紛争とみなすか否かは、後述のように我が国及び相手側双方の暴力行為を行う者の法的地位に大きな影響を与える。また、武力紛争の存在の有無は、国際法上はいかなる暴力行為が生じたかという事実に基づき決定されるから、紛争当事国の特段の意思表示の有無は関係がない。我が国の場合、自衛隊法上自衛隊が国際の法規慣例に従って武力行使をなすのは、自衛隊法第88条のいうように防衛出動命令が出された場合であるけれども、かかる命令以前に既に武力紛争が開始されていることは当然にありうる。
 
3.3 武力紛争の存在の法効果
 国際的武力紛争の有無によって暴力行為を行う者の法的地位が大きく変わってくるから、武力紛争の概念を如何にとらえるかは重要な問題である。国際的武力紛争が存在すれば、国家の実質的意味における軍隊は、相手方の軍隊に対する暴力行為を武力紛争法の認める範囲内で行うことができる。つまり、軍隊の戦闘員は、相手方戦闘員を殺傷し、軍事目標(military objectives)を破壊できるのである。
 殺人、傷害や器物の破壊がなされれば、通常であれば当然その行為者個人の刑事責任が追及される。しかし、戦闘員であれば人的及び物的の合法的目標を殺傷し、破壊してもその個人の刑事責任は問われないのである。勿論、合法的な目標以外を殺傷、破壊したり、又は合法的目標であっても使用を禁止される兵器をそこに指向した場合には、一定の範囲で戦争犯罪として個人の刑事責任が追及される。そうでない場合には、正に殺人等の行為の違法性が阻却されるのである。そして、かかる行為を行った者でも、敵に捕らえられれば捕虜としての待遇が与えられる。
 武力紛争時に戦闘員資格を有さない者、例えば、実質的意義における陸上警察の構成員やその他の文民が敵戦闘員の殺傷や軍事目標の破壊なした場合、その者は「違法な戦闘員(illegal combatant)」としてそのような行為への参加の故のみをもって攻撃対象となり、捕らえられた場合には処罰対象となる。さらに、戦闘員資格のない者が殺傷や破壊を行わなくとも、敵対行為の直接的な支援に従事している場合にも、攻撃対象とされることがある(14)
 こうしたことは、海上においても基本的に同じである。海上でも戦闘員資格を有する者のみが暴力行為を合法的になしえる。ただ、このことは、海上では船舶を戦闘その他暴力行為のプラットフォームとして使用するから通常はあまり意識されない。
 海戦法規上敵対行為を許容され、同時に無警告の攻撃目標となるようなプラットフォームは、軍艦であって、その定義は、国連海洋法条約第29条の軍艦の定義と同一である。同条は、国の軍隊に属し、当該国の国籍を有するそのような船舶であることを示す外部標識を掲げ、当該国政府により正式に任命され士官名簿にその氏名が記載される士官の指揮下にあり、かつ、軍の規律に服する者が配置されるものを船舶を軍艦としている。なお、軍の補助艦は、敵対行為をなしえないが、攻撃目標となる。また、軍艦及び補助艦以外の船舶は、識別拒否や敵対行為参加の場合、あるいは、近時海戦法規に転用されるに至った第一追加議定書第52条第2項の軍事目標の定義に該当する場合には攻撃の目標とされる(15)
 他方、国際的な武力紛争が存在しなければ、戦闘員や捕虜は存在しえず、国際法の枠内で国内法の定めに従い、暴力行為を国家機関はなしえる。この場合、国内法上の軍隊、警察の別は特段問題とはならなくなる。
 
(11)第一追加議定書のいう軍隊は、国家のそれに限定されず、同議定書第1条第4項のいう事態における民族解放団体も含まれる。なお、本論執筆時点では我が国は第一追加議定書の締約国ではないので、同議定書の公定訳は存在しない。同議定書の邦訳は、大沼保昭、藤田久一編集代表、『国際条約集』(2002年版)(有斐閣、2002年、711頁)所収のそれによった。英文正文は、各種英文条約集で参照できるが、A.Roberts and R.Guelff, eds., Documents on the Laws of War(3rd ed., 2000, pp.483ff.)によるのが最も便利である。
(12)第一追加議定書第59条第4項、第60条第4項。
(13)真山全、「ジュネーヴ諸条約と追加議定書」、国際法学会編、『安全保障』、2001年、168-173頁。
(14)但し、第二次大戦の教訓から、商船とその乗組員の敵対行為参加の場合の規定がジュネーヴ第三条約第4条に設けられた。
(15)真山、前掲論文、179-181頁。







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