日本財団 図書館


 四方を海に囲まれた我が国では、古来より海洋から様々な恩恵を享受しているが、その権利を将来の世代に継承するためには、海洋の持つ資源を持続可能な形で有効に利用していくことが必要である。
 
 国土の7割を山地が占め、平地の少ない我が国では、河口域や浅場を埋立て、工業用地や商業用地、住宅地、農地などとして利用するとともに、沿岸域に漁港や港湾を建設し、漁業や海上交通・交易の拠点として利用してきた。また、沿岸海域は、余暇の多様化に伴って、旧来の海水浴や潮干狩りのほか、サーフィン、海上バイク、遊漁などの場にも利用されている。一方、沿岸海域の埋め立てによる漁場の喪失や、工場排水・生活排水などの海洋への流入と、浄化能力の高い干潟の喪失も相俟って海洋環境が悪化し、漁業資源の減少や生態系の破壊など様々な問題を引き起こしている。
 このように多目的に利用され、利害が複雑に交錯する沿岸域では、環境問題も含めてその利用について総合的に調整・管理することが極めて重要である。
 
 ところで、1992年にリオデジャネイロで開催された「環境と開発に関する国連会議(地球サミット)」では、持続可能な開発を実現するための具体的な行動計画「アジェンダ21」などが採択された。アジェンダ21の第17章は海洋に関する行動計画(海洋、閉鎖性及び準閉鎖性海域を含むすべての海域及び沿岸域の保護及びこれらの生物資源の保護、合理的利用及び開発)が定められており、その中で沿岸域の統合的管理および持続可能な開発、海洋環境の保護などに関する行動計画が示されている。
 この地球サミットから10年目にあたる2002年には、ヨハネスブルグで「持続可能な開発に関する世界サミット(WSSD)」が開催され、アジェンダ21の実施状況が評価され、今後の実施計画が採択された。その中で、海洋、島嶼および沿岸域は「地球の生態系における統合された基本的な要素を形成し、地球規模の食糧安全保障と経済繁栄の持続、多くの国家経済、特に開発途上国における国家経済の安泰に欠くことのできない」ものとして、第17章の実施の促進などが盛り込まれ、沿岸域の統合管理と持続可能な利用と保全の実施などが求められている。
 
 このような動きの中で、総合的な沿岸域管理の取り組みが世界的に行なわれており、我が国においても第5次全国総合計画「21世紀の国土のグランドデザイン」に基づき、沿岸域圏総合管理計画策定のための指針が策定され、地方自治体を中心にした総合的沿岸域管理の動きが始まりつつあるが、我が国の取り組みは必ずしも効果的に機能しているとはいえない。その原因としては、我が国の海洋行政は多くの省庁に細分化されており、総合的に管理する体制になっていないことにあると思われる。
 したがって、利害が複雑に交錯する沿岸域を持続可能な形で利用するためには、沿岸域の利用と資源の管理、環境の保全について総合的に取り組む体制を整備するとともに、広い視野から海洋政策に携わる人材を育成することが重要である。それと同時に、海洋の持続的な利用について国民の理解を得る必要があるが、海洋に対する国民の関心は総じて低く、海洋に関する教育も海洋先進国に比べて十分とはいえないといわれている。したがって、国民の海洋に対する理解の向上を図り、国民が海洋との共生について積極的に関心を持つように、海洋に関する教育・啓発、特に青少年に対する海洋教育の拡充を図ることが重要である。
 
 ところで、我が国は、国土面積38万km2の約12倍にあたる450万km2の排他的経済水域を有し、海岸線の長さも35,000kmに及び、地理的な面からすると世界有数の海洋大国である。その一方、長い海岸線を有するために、不審船事件や工作員の侵入、拉致、武器や麻薬の密輸、密入国の問題など、我が国の安全保障を脅かすような問題が多発している。
 我が国の安全を確保するためには、海上における警察機能を果たす海上保安庁の役割は極めて重要であるが、近年の不審船は性能が高度化するとともに、重装備化してきており、事態によっては海上自衛隊の支援が必要となるなど、我が国の安全を確保する上では、守備範囲の広さもあって海上自衛隊との連携が極めて重要である。
 
 以上の観点から、本年度は、沿岸域総合管理、海洋教育および海上安全保障の3つのテーマについて検討することにした。
(1)沿岸域総合管理
 沿岸域管理に関連する問題事例を抽出し、それに関わる法制、処理主体、処理権限の法的根拠、関連主体等について調査・分析し、今後の課題等を明らかにする。
(2)海洋教育
 小中学校の指導要領や教科書を中心に海洋教育の現状について調査するとともに、海洋に関して最低限教えるべき事項について検討し、我が国の海洋教育の実態を明らかにする。
(3)海上安全保障
 国内法および国際法で与えられた海上保安庁の法執行任務および海上自衛隊との関係について、平時、武力紛争時およびその移行時における現状と問題点及びその対応について検討する。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION