日本財団 図書館


2.9 始動装置
 エンジンの始動にかかわる一連の装置で、エンジンの大きさ、用途などによりつぎのような方式がとられている。
 
 
1)手始動(ハンドスタート)
 15kW程度以下のエンジンは、クランキングハンドル、又はロープ等により手廻しで始動する事が出来る。
 この場合手廻しを容易にするために、歯車を用いて増速したり、チェンを用いてハンドルの位置を上部の便利なところに取り付けたものもある。ロープ式の場合、ローププーリに手で巻き付ける方式と、ロープが自動的に巻けるようにしたリコイルスタート方式とがある。
 
2・209図 手始動方式
 
2)電気始動
 エンジンのハズミ車の外周にリング状の歯車を装着し、スターティングモータのピニオンと噛み合わせエンジンを廻し始動する方式で、その電源はバッテリからとる。又、バッテリに対する充電は、エンジンに取り付けたオルタネータで行っている。
 スターティングモータには12Vと、24V仕様のものがありエンジンの大きさにより使い分けている。又大きなエンジンにはスターティングモータを2個使用したものもある。
 電気始動装置は、スターティングモータ、オルタネータ、バッテリ、スタータスイッチ等で構成されている。
(1)スターティングモータ
(イ)構造
 スターティングモータは、2・210図に示すような構造になっており、モータ部は回転するアーマチュア部分、磁界を作るフィールドコイル、アーマチュアに電流を流すブラシなどから構成されている。
 又エンジンとの結合離脱はマグネチックスイッチにより行われており、マグネチックスイッチはシフトレバーを介して、オーバランニングクラッチを動かしている。
 
2・210図 スターティングモータの構造図
 
(1)フィールドコイル
 ヨーク、ボールコア、ブラシ及びフィールドコイルから構成されている。
 フィールドコイルはボールコアに直接巻いたものをヨークヘ取り付け、樹脂で固定して、耐熱、耐振性を向上させている。
 
2・211図 フィールドコイルの構造
 
(2)アーマチュア
 アーマチュアはコア(鉄心)、シャフト、コイル、コンミテータなどで構成され、アーマチュアコイル全体を樹脂で固めて、耐熱耐振性を向上させている。又、シャフトにはねじスプラインが切ってあり、このためピニオンギヤの前進力はアーマチュアの回転力によっても得られ、その分だけマグネチックスイッチの小型化が可能となる。同時に回転力による前進力が極めて強いため噛み合いも良好となる。
 
2・212図 アーマチュア
 
(3)オーバランニングクラッチ
 オーバランニングクラッチは、エンジンの回転からアーマチュアのオーバランによる破損を防止するためのもので、ピニオンギヤの離脱をスムーズにする働きもしている。
 構造は2・213図に示すように、インナ(ピニオンギヤと一体)、アウタ(スプラインチューブと一体)、クラッチローラ、スプリングから構成されている。ローラの納まる凹部分は一方が狭くなっており、ローラは常にその狭い方にスプリングによって押しつけられている。
 
2・213図 クラッチの構造
 
(作動)
 2・214図に示すようにスターティングモータが始動すると、アーマチュアの回転を受け、アウタが矢印の方向に回転するとクラッチローラはスプリングでアウタ凹部と、インナの隙間の狭い方へ押しつけられるので、アウタとインナがロックされる。即ちローラがインナとアウタの間でくさびのような働きをしてアウタの回転をインナヘ伝え同じ速度で回転する。
 エンジンが始動し回転速度が上昇するとピニオンギヤがリングギヤで廻され、ピニオンギヤ(インナ)の回転がアウタ(アーマチュア)の回転より速くなり、クラッチローラは、スプリングを圧縮する方向に移動する。従ってアウタ凹部とインナの隙間が広くなり、インナとアウタがフリーとなり、アーマチュアのオーバランを防ぐ。
 
(拡大画面:24KB)
2・214図 オーバランニングクラッチの作動
 
(4)マグネチックスイッチ
 マグネチックスイッチはピニオンギヤの押し出しとモータ回路のメイン電流をON、OFFする働きをする。
 2・215図に示すようにシリースコイル(吸引コイル)とシャントコイル(保持コイル)、リターンスプリング、プランジャなどから構成されている。
 吸引コイルと保持コイルの巻き数は同じであるが、線の太さが異なっている。即ち吸引コイルは太い線で巻いてあり起磁力は大きく、保持コイルは小さくなっている。
 
2・215図 マグネチックスイッチの構造
 
(ロ)作動
 下記の順序で作動しエンジンを始動させる。(2・216図
(1)スタータスイッチを入れるとマグネチックスイッチのシリースコイル及びシャントコイルに電流が流れ、この電流によって生じた電磁力によりシフトレバーが引張られる。
(2)シフトレバーはクラッチと共にピニオンギヤを押し出し、ハズミ車のリングギヤに噛み合わせる。
(3)これと同時にマグネチックスイッチのシリースコイルに流れた電流はスターティングモータのフィールドコイル及びアーマチュアコイルにも流れて、アーマチュアを回転させピニオンクラッチに緩い回転を与える。
(4)ピニオンクラッチは緩く回転しながらアーマチュアシャフトに沿って押し出されるので、ピニオンギヤは確実にハズミ車のリングギヤに噛み合う。
(5)このときマグネチックスイッチのムービングコンタクタがステーショナリコンタクタを短絡してスターティングモータに主電流を流す。
(6)主電流が流れるとスターティングモータは強大な始動回転力を出してエンジンを始動させる。
(7)スタータスイッチを開にするとマグネチックスイッチの電磁力が消失してシフトレバーは軸に取り付けられたリターンスプリングの力で元の位置に引き戻される。
(8)シフトレバーが元の位置に戻ればピニオンギヤも元の位置に戻され、リングギヤとの噛み合いが解かれモータも止まる。
 
(拡大画面:37KB)
2・216図 スターティングモータの系統図







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION