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5)ピストンリング
(1)構造と機能
 圧縮リングは圧力の気密作用と熱の伝達作用の2つの役割をもっている。まずピストンが圧縮行程の上死点付近で燃料が燃焼できる赤熱空気を発生させるように気密を保ち、次におこる爆発燃焼ガス圧力を逃がさないようにすることと、ピストン頂部に受けた燃焼熱の大部分をピストンリングを介してシリンダライナ壁へ伝達し、更に冷却水に吸収させる役目をもっている。
 オイルリングの役目はピストンの往復運動の際にシリンダライナ内面に飛散した潤滑油をかき下げて余分な潤滑油が燃焼室へ入ることを防止している。
 ピストンリングには、耐摩耗性に勝れた特殊鋳鉄が使用されている。また、摩耗にそなえ、リングの摺動面に硬質クロームメッキを施したり、リング溝の摩耗を低減するため、摺動面とリングの上下面にもクロームメッキを施した、通称三面クロームメッキリングと称されるものも使用されている。また最近は摺動面に軟質メッキを施し初期なじみを良くしたリングも数多く使用されている他、最近の高速機関では特殊鋼(スチール)製のピストンリングを採用するものが増えている。
 ピストンリングの断面形状と特徴を2・5表に示す。
 
2・5表 ピストンリングの断面形状と特徴
(拡大画面:74KB)
 
 最近の高速機関では、オイルリングにコイルバネの入ったエキスパンションリングを使用し、オイルリングを1本としてライナとの摩擦損失を少なくしたものが多くなっている。
(2)点検と整備
 ピストンリングの外周を点検し、欠損や当たり不良、エッジの欠損などを調べ、不具合の認められるものは交換する。メッキリングやMo溶射リングなどはこれらの表面処理層が摩耗し地肌が出たものや剥離又は亀裂が母材まで達しているものは交換する。
 ピストンリングの合口スキマはリングゲージ又は新品のシリンダライナへピストンリングを押し込み2・45図のようにスキミゲージで合口スキマを測定し、使用限度を越えるものは交換する。
 
2・45図 ピストンリングの合い口すき間の測定
(拡大画面:16KB)
 
 ピストンリングの厚さおよび巾は合口の両端付近と中央部の3箇所をそれぞれマイクロメータで測定し摩耗限度を越えているものは交換する。
 なお、バレルフェースリングやテーパリングについてはライナとの摺動面の当り幅が広くなるとオイル消費が多くなるので一般的には当り幅によって交換している。
 
6)ピストンピン
(1)構造と機能
 ピストンピンはピストン頂面で受けた燃焼ガスの圧力を連接棒を介しクランク軸に伝えるものである。このためピストンピンには、曲げと高い軸受圧力が働くので表面硬度を高めうる靱性の高い材料を使用し剛性を高める形状とする必要がある。一般には中空の肌焼鋼あるいは特殊鋼に、表面焼入して使用する。ピストンへの取付は浮動式すなわちピストンピンをピストンにも連接棒にも固定せず、運転時には自由に回転できるようにした方式が採用されている。ピストンのピン孔部には軸受メタルがなく、連接棒小端部にのみ軸受メタルが使用されるのが一般的である。ピストンピンの両端には、ピストンピンがピストン孔から抜け出さないよう2・46図に示すサークリップあるいはスナップリングが使用されている。また大形機関では、ピストンピン蓋などで抜け出しを防止しているものもある。
 
2・46図 ピストンピンの取り付け状態
 
(2)点検と整備
 両端面のふくれやマクレなどはヤスリで修正する。端面まで焼入され修正できないものはその部分をグラインダで軽く修正するか交換する。ピストンピンの外径寸法をマイクロメータで計測し、摩耗量又は真円度が使用限度を越えているものは交換する。又内外周の損傷および亀裂を目視とカラーチェックまたは磁気探傷法により点検し、傷のあるものはメーカの整備基準により使用の可否を判断すると共に亀裂の認められるものは交換する。
 
7)はずみ車
(1)構造と機能
 4サイクルディーゼルエンジンは、クランク軸が2回転する間に吸気、圧縮、膨張、排気の4行程をおこなっている。つまりはずみ車が2回転するごとに、1サイクルを完了する。
 これらの4行程のうちエンジンに回転のエネルギを与えるのは、膨張行程のみである。他の3行程はクランク軸の回転力を他の運動部分へ与えなければならないので、クランク軸の回転力は不同であり、回転トルクは時々刻々と変化している。そのためはずみ車をクランク軸端に取り付け、燃焼行程の余分なエネルギをはずみ車に吸収させ、他の行程では、その回転惰力のエネルギを吐き出させ、クランク軸の回転を円滑にさせる重要な働きを持っている。はずみ車は一般に鋳鉄製で外周リムの断面を有する車輪形状に造られている。







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