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5. 電気の基礎知識
5.1 基礎知識
1)電子
 電気のもとになっている電子は、科学によって存在が明らかになったもののうちで、最も小さい物質である。電子は原子の中に含まれている粒子で、1つ1つが非常に小さい電荷を持っている。もし電子を1兆個集めてずらりと1列に並べてみても、ピンの頭の直径くらいしかならない。電流が電線を流れるときは、この小さな粒子が、金属の中を想像もつかないほどの大軍勢となって通ってゆく。例えば、普通の電球をつけるには、1アンペア程度の電流が必要であるが、それが電線の中を流れるときは、1秒間に600万×1兆個もの電子が通ってゆく。1つ1つの電子の動きは大した早さではないが、電線の端の電子が動くと、その動きは電子から電子に受け渡されて、逆の端まで光と同じ速度で伝わってゆく。
 
2)電子の利用
 電子が電線の中を動きはじめると、そのまわりにはたちまち磁場が発生する。電動モータを使っているたくさんの機械は、もし磁場がなかったらどれも動けなくなってしまう。なぜなら、電動モータの動くのは、磁気のおかげで、それに電子と磁場との関係がなかったら、私達の家に電気が来なくなってしまう。電気は発電機で作られるが、これもまた磁気を利用しているからである。
 電子を動かすにはエネルギを必要とする。電圧がかかると、電子は常に電圧の低い方から高い方に移動する。また電子が動くと、常に決まった現象が起こり、その1つは熱の発生で、もう1つが磁気の発生である。
 
3)電気と運動
 動力源として、電気ほど具合のいいものはない。電気は清潔で静かで、ぱっと付けたり消したりできて、しかも必要なところに簡単に送り届けができる。
 電気を使って運動を引き起こしている機械には、数え切れないほどいろんなものがあるが、例えば電子腕時計と電気機関車はとてもにつかぬものであるが、電流が磁場を作り出すという効果を動力に使っていることでは同じ機械である。
 電気を利用して動く機械は、どれも使う電力が決まっていて、電源にいくら余裕があっても、余分な電力を消費したりしない。1つのモータには決まった量以上の電流が流れることはない。ですから、同じ電源から、必要な電流だけを消費する幾つもの機械に、同時に動力を供給することが出来る。
 
4)電気による信号
 電気という形のエネルギでも情報を運ぶことが出来る。光や電波と同じように、電気も一瞬のうちに遠くまで伝わるので、メッセージは送り出すのとほとんど同時に目的地に届く。
 計算機やコンピュータのように、電気を利用して情報を伝える機械を電子機器と呼び電子の動きを制御することによって動く機械である。また、電子は非常に小さいので、それを制御する機械も非常に小さくてすむ有利性がでてくる。ですからコンピュータの部品は非常に小さくて、それを組み立てればいくらでも複雑な回路が作れるので、コンピュータは驚くべき能力を持ったものになったわけである。
 
5)自動制御する機械
 電気信号の動きで最も重要なのは、機械を制御すること・・・つまり、ただ単に動かしたり止めたりするのでなく、情報や命令を送って、機械の動きを調節することである。
 機械を制御するための信号を出すためには、センサ(感知装置)や探知器をが使われ、 金属や煙のような物質があることを探知したり、温度、圧力、速度などの量を測定したりする。また、この様な電気的な機械をコンピュータにつなげば、力学的な機械を制御することができるし、情報の処理に使えば、正確さといい、速度といい、人間にはとうてい不可能な仕事をやってのける。
 
6)舶用機械への応用
 現在、私たちの毎日の生活のまわりにも何億もの電子が恐ろしく複雑な回路を通り抜けて流れてゆく機械に囲まれていると同時に、舶用機械の中にも動力から制御まで電気に頼っている。そこで、以下に舶用整備士として必要な知識を述べる。
 
5.2 電気一般
1)正電気・負電気
 電気には、プラス(正)の電気とマイナス(負)の電気があり、乾電池やバッテリにもプラスの極とマイナスの極があって、ラジオや電子時計などに電極を間違えて入れると作動しないことは今日では誰もが知っていることである。
 物体を摩擦すると、二種類の電気が起こることを発見したのは、1933年、フランスのデュフェーという人である。
 簡単な実験をしてみる。
 補・57図のように、絹糸の下に発泡スチロールの小球をつるした電気振り子を作り、乾いたガラス棒を絹布で擦り、小球に近づけると、いったん接触し、そのあと、互いに反発する。
 これは接触と同時に、ガラス棒にあった電気の一部が小球に移ったためである。
 このように電気は互いに反発する。
 次に、エボナイト棒または琥珀を毛皮やフェルトで擦って同じ小球に近づけると、再び互いに引き合う。しかし、両者がいったん接触すると、今度はエボナイト棒にたまっていた電気が小球に移り、小球と同種の電気になるので、再び反発する。
 このように摩擦電気には二種類あることがわかる。
 デュフェーは、ガラスにできた電気と同じ方に「ガラス電気」琥珀にできたと同じ方に「樹脂電気」という名をつけた。
 
補・57図
 
 これを今日の考え方で、「ガラス電気」の方を「プラス電気」「樹脂電気」の方を「マイナス電気」と云う。
 物体を摩擦した際、どちらかがプラスとなり、どちらかがマイナスになるが、これを帯電列と云い序列すると補・58図のようになる。
 
補・58図
 
2)静電気
 電気は目に見えないので、電気が発生したことはわかりにくいものである。
 しかし、意外なところに電気が発生して、驚くことがある。
 自動車のシートの上で腰をずらして、車の外にでると、バチッと電気のショックを受けることがある。これは、シートとズボンが擦れあって摩擦電気が起こり、人間のからだに電気がたまったからである。これは何時も起きるわけではなく、空気が乾いていたり、シートと衣料の材質が適当であると起こる。この時、身体と地面との間の電圧は、1万ボルト以上あると云われる。
 このように、摩擦電気でも火花がでる場合には5,000ボルト以上はあるとみてよい。
 この高電圧で、なぜ感電死しないかと云うことは、電圧は高くても、流れる電流がわずかであるため、電力としては大したことはなくすんでいるのである。
 この摩擦電気のように物質に電気が帯電したまたま移動しない電気を静電気と呼ぶ。
 
3)導体・不導体
 プラスの電気とマイナスの電気のように、異種の電気は互いに引きつけ合い、プラスの電気とプラスの電気、マイナスの電気とマイナスの電気のように、同種の電気は互いに反発し合う。
 補・59図のように絹糸の下端に発泡スチロールの小片と、アルミホイルの小片をそれぞれ結びつけたものを、電気スタンドのかさなどにスチロールでとめておき、ガラス棒を絹布で擦り、ガラス棒に静電気を起こすと、ガラス棒にはプラスの電気が帯電する。このガラス棒をこれらの小片に近づけると、いずれもガラス棒に引きつけられ、ガラス棒に接触したのち、アルミホイルは直ちに、発泡スチロールはしばらくしてから、ガラス棒と反発して離れてゆく。明らかにアルミホイルの方が、発泡スチロールよりも鋭敏な運動を起こすことがわかる。
 
補・59図
 
 アルミホイルは金属で、電気をよく通す導体で、発泡スチロールは電気を通しにくい不導体である。
 物質には、電気を通しやすいものと、通しにくいものがある。
 銅、鉄、アルミニュウムなど一般に金属は電気をよく通すが、金属以外でも炭素などは電気をよく通し、これらを導体と云う。これに対して、ガラス、瀬戸物、ゴム、プラスチックなど電気を通しにくい物質は不導体、または絶縁体と呼ぶ。固体以外では、例えば純粋な水は不導体であるが、塩分や酸、アルカリなどが溶けこむと導体になる。
 
4)動電気:電流
 電気の流れは、よく水の流れに例えられるが、今まで話してきた静電気はちょうど湖沼にたまった状態で、川に流れている状態、すなわち流れる方の電気を動電気と云う。
 物体を擦って摩擦電気を起こしたとき、物体に電子が集まっている状態を「マイナスに帯電した」と云い、逆に物体から電子が去っていった状態を「プラスに帯電した」と云う。
 水は傾斜があるところでは、高い方から低い方に流れる。
 電気では、マイナスに帯電した物体とプラスに帯電した物体とを、針金などでつないだ場合には、静電気もじっとしていずにたちどころに流れ、いったん流れだした静電気は、もう普通の流れる電気と同じものなのである。
 
補・60図
 
 この場合、電流はプラスの方からマイナスの方にながれると約束をしている。つまりプラスの電気の流れる向きを電流と決めているのである。
 ところが、電子の移動で考えてみると、マイナスの帯電体にあった過剰の電子が、電子が不足しているプラスの帯電体の方に移動して、電子の過不足が埋め合わされる。補・60図のように、電流が流れる向きと、電子が流れる向きとは互いに逆になっている。







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