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2. 潤滑油
2.1 潤滑油に要求される性質
1)潤滑性
 潤滑されている摺動部分は、条件によって、境界潤滑と流体潤滑の状態があるが、ここで重要な性質は、粘度と粘度指数である。
 粘度が低すぎると油膜が切れて、境界潤滑を越えて、固体摩擦の状態になり、焼付をおこす。逆に、粘度が高すぎると潤滑油の抵抗によって、発熱及び摩擦損失が大きくなる。また、機関の潤滑箇所や運転条件により、温度が大きく変わるため、温度変化による粘度変化が小さい(粘度指数が高い)ことが要求される。
 
2)清浄分散性
 燃焼残渣物や潤滑油の熱や酸化によって生成したスラッジが、機関内部に付着堆積しないように清浄し、潤滑油の中に凝集しないように分散させる性質を清浄分散性という。清浄分散性を向上させる添加剤は、酸中和性を向上させる添加剤と同一のものであるので、全アルカリ価の高低が清浄分散性の良否を示す。この観点から、全アルカリ価をTBN(Total Basic Number−潤滑油の性質を表す代表値)という。
 
3)酸中和性
 燃焼によって生ずる硫酸を中和させる性質で、使用燃料油中に含まれる硫黄分(S分)の多少により、使用潤滑油の全アルカリ価が規定される。
 
4)酸化安定性
 潤滑油は使用中に空気中の酸素と反応して酸化するが、温度が高くなればなるほど、反応速度が急激に早くなる。一般に、10℃温度が高くなると、反応速度は2倍になるといわれている。これを防ぐために、酸化防止剤を添加する。
 
5)熱安定性
 潤滑油が高温にさらされると熱分解し、炭化物を生成する。ピストンのリング溝や、ピストンクラウンの裏側は200℃前後の温度になるため、熱安定性が悪い潤滑油を使用すると炭化物の堆積が発生する。
 
6)錆止め性
 機関内部の結露や水の混入に対し、錆を発生させない性質が必要である。
 
7)水分離性
 水が混入した場合に、乳化せずに水を分離させる性質が必要である。
 
8)泡止め性
 攪拌された潤滑油は多かれ少なかれ泡が生じるが、水と同様に局部的に油膜切れを起こすので、泡止めが必要である。
 
2.2 基油の特性と添加剤の種類
 上記の性質を満足するために4・3表及び4・4表のように、基油の選定と添加剤の配合がされている。
 
4・3表 潤滑油(基油)の特性
特性  精製法 普通精製  溶剤精製 
原油の種類 パラフィン系 ナフテン系 パラフィン系 ナフテン系
比重(同一粘度に対する)
酸化安定性 安定 やや不安定 きわめて安定 安定
粘度指数
流動点 高い 低い 高い 低い
機関におけるカーボンの付着状態 硬質、多い やや粘着性 軟質、多い 剥落性 硬質、少ない やや粘着性 軟質、少ない 剥落性
 
2.3 使用限界
 潤滑油の使用限界は、潤滑油の種類、潤滑条件、使用環境条件等によって異なるので、管理基準を一律に決めることは実際的ではないが、一応のめやすとしての基準を以下に示す。
 
1)動粘度
 システム油の粘度は、酸化をはじめとするそれ自身の劣化や、外部からの不純物の混入などにより増加し、また低粘度油(例えば燃料油)の混入などにより低下する。粘度増加は摩擦損失の増加や清浄機、フィルタに対する悪影響をもたらし、粘度低下は油膜形成が不充分になったり、消費量が増加したりする。但し、同じ粘度グレードであっても銘柄によって新油の粘度が異なるので、粘度変化率で表し、上限は+30%下限は一20%とする。
 
2)引火点
 使用油における引火点の規定は、燃料油混入によってクランクケース内の爆発を防止することにあり、180℃以上とする。
 
  作用 成分
粘摩指数向上剤 油中に懸濁して、高温での油の粘度低下をおさえる ポリイソプチレン ポリメタクリレートなどの高分子量ポリマ
流動点降下剤 油の低温固化の原因である油中のワックスの結晶生長をおさえる パラフィンワックスとナフタレンあるいはフェノールとの縮合物など
油性向上剤
(油性剤)
金属摩擦面に吸着されて潤滑油膜をつくる(ただし高温に弱い) 高級脂肪酸、高級アルコール、エステル、アミノ酸
極圧性向上剤
(極圧剤)
高温高荷重摩擦面に摩擦係数の低い金属化合物をつくる 塩素、いおう、りんなとの化合物 鉛セッケンなど
増粘剤 潤滑油の金属面に対する粘着性(ねばり)を増す 高分子量ポリマなど
酸化防止剤
(酸化抑制剤)
開始・伝播・終了という酸化の連鎖反応を遅らせ停止させる 亜鉛・いおう・りん化合物 クレゾール化合物など
金属不活性化剤 金属の酸化触媒作用をなくす(一種の酸化防止) 有機窒素化合物など
清浄剤 燃焼生成物の酸の中和 スラッジの凝集を防ぎ、機関内を清浄に保つ Ba、Ca、Mgのスルホネートあるいはホスフェートなど
分散剤 燃焼生成物、油の酸化生成物を油中に分散させ、機関内部への沈降付着を防止する。 Ba、Caのホスホネートなど(金属系)アミノ塩(非金属系)
さび止め剤
腐食防止剤
酸を中和し金属面に吸着膜をつくり、水蒸気および酸素との接触を防止 高分子量有機物、その金属塩、アミン中和生成物
泡立ち防止剤
(泡止め剤)
油の表面張力を下げ、生成したあわをこわれやすくする シリコン油
 
3)全アルカリ価(TBN)
 潤滑油の働きは潤滑作用の他に、燃焼によって生じた酸を中和する酸中和作用、燃焼によるカーボンや熱劣化物を油中に分散させる分散作用、油中に溶解させる可溶化作用がある。酸中和、分散、可溶化作用を行う添加剤を清浄分散剤と呼び、最近の潤滑油では非常に重要な役割を担っている。この清浄分散剤の働きの指標としてTBNは重要な管理項目である。TBNの測定法には塩酸法(JIS K2501 5.2.2項)と過塩素酸法(JIS K2501 5.2.3項)とがあるが、塩酸法は過塩素酸法に対してTBNを過小評価する傾向がある。即ちHD油の様に多量の添加剤を含む場合、添加剤が水、熱等の作用でその構造が変化し、粗粒化する場合がある。この粗粒化した物質は過塩素酸のような強酸に対する中和作用はあるが塩酸に対しては塩基価として測定されにくい。このため塩酸法のTBNが低くなるものと考えられている。ここでは、塩酸法で1.5〜5.0mgKOH/g以上、過塩素酸で50%以上とする。
 尚、過剰な添加剤成分は金属系灰分となって堆積し、逆に機関性能や耐久性を低下させる原因となるので、TBNは常に適切な値に管理することが必要である。
 
4)全酸価(TAN)
 一応+1.5mgKOH/gとするが、添加剤を多く含むHD油では新油時に高い全酸価をもつので、全酸価による管理はあまり意味を持たない。
 
5)強酸価(SAN)
 強酸は腐食摩耗の原因となるので、検出されないこととする。通常、TBNが残存し、酸中和作用があれば強酸は検出されないはずであるので、強酸価が確認された場合は粘度や不溶分にも異常をきたしている等、潤滑油が異常状態になっている場合が多く、従って全量更油することが必要である。
 
6)水分
 高TBNのHD油では、水分が混入した場合微細な粒子となるので分離は困難となる。そこで、分離の難易度と実用上問題のないレベルとの兼合いから上限を0.2%とする。
 
7)不溶解分
 不溶解分は溶解力の異なるn−ペンタンとトルエン(以前はベンゼンを使用していたが発癌性物質であることから使用されなくなった)を用いて測定する。トルエン不溶解分は、すすや硫酸カルシウム等の燃焼生成物と、摩耗粉、さび等外部から持ち込まれたものである。また、n−ペンタン不溶解分はこれに潤滑油自身の熱劣化、酸化劣化物を加えたものである。従って、n−ペンタン不溶解分とトルエン不溶解分との差が、一般に潤滑油の熱、酸化劣化物と考えられる。
 不溶解分の測定法は凝集剤を使用しないA法と、凝集剤を使用するB法とがある。清浄分散作用の高いHD油では微細な不溶解分は油中に分散するため、A法とB法とに大きな差が生じる。また、それぞれにおいても分析試験所によっても試験法に差がある。
 さらに、潤滑油中に安全に含有しうる不溶解分の量は、使用されている清浄分散剤によって大きな差がある。各石油メーカは自社製品についての能力を知っていて、製品毎に不溶解分含有率の上限を設定しているので各メーカの基準値に従うこと。
 
2.4 サリシレート系潤滑油
 近年のディーゼル機関の高負荷、高出力化に対応して、高温での耐コーキング性、清浄性に優れたサリシレート系潤滑油が常用発電機関のみならず舶用機関等においても使われ始めている。高負荷、高出力機関では当初一般用よりもTBNを高目に設定し、高負荷によるカーボン堆積等に対する清浄性を高めることを目的としたが、高温における清浄性は従来タイプの添加剤では不十分であった。このため、ピストンリング溝の堆積物や清浄機の固形堆積物の増加、フィルタの詰まりが発生し、また潤滑油の消費が増大する等の問題が発生した。この対策として、従来のフィネート、スルフォネート系の添加剤からサリシレート系の添加剤への変更が提案された。サリシレート系の潤滑油は石油メーカ各社によりその配合や種類が異なるが、いずれも酸化防止性、熱安定性を高め、高温における耐コーキング性や清浄性を高めたものであり、これらの潤滑油の使用により問題はかなり解決できた。
 なお、従来タイプの潤滑油からサリシレート系潤滑油に更油する場合は、ピストン抜き等を行い、出来る限り機関内部、潤滑油配管や潤滑油タンクをきれいに掃除しフラッシングを充分行うこと。サリシレート系潤滑油の高い清浄性により、スラッジが洗い出されてフィルタの目詰まりを起こすことがある。また、遠心式清浄機の設置が望まれる。







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