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(2)椎葉観光の課題と方向性
 本村の地域資源や現状の問題点から、椎葉観光の課題と方向性を次の4点に整理した。
 
ア 地域資源を活かす椎葉親光の確立
イ 交流を通した情報の発信
ウ 観光ニーズ、マーケットに対応した戦略の見通し
エ 人材のネットワーク化による運営体制づくり
  
 
ア 地域資源を活かす椎葉観光の確立
(1)地場資源の観光・交流での活用
 本村には、豊かな自然、平家伝説、狩猟や焼畑を中心とした生活文化など、純粋で謎めいた地域資源が豊富で、都市住民の関心・興味を惹き付ける要素は十分にある。しかし、それ自体のすばらしさやおもしろさがまだ伝わっていないものも多い。来村者アンケートによると、歴史文化、伝統芸能などに対する満足度は低く、観光資源としてうまく活用できていないということも考えられる。そのため、それらをどのようにして伝えていくのか検討する必要がある。
 
(2)既存の観光資源の活用と多様なつながり
 村内の既存の観光資源は、個々には、自然のもつ壮大さや歴史的価値が認められており、整備もなされている。しかし、資源間をつなげるルートの紹介や散策路的な整備はほどこされておらず、地区全体としては、魅力の度合いが弱まっているのが現状である。来訪者の関心・興味を惹き付けるには、各資源が連続するような散策路の設定など地区が一体となって魅力づくりを進める必要がある。また、観光資源の利用の仕方に合わせて村内外の地域とうまく連携をとっていくべきである。例:宿泊施設のみ村内の他地区と提携、同様の観光資源を持つ他町村と観光プログラムの開発等
 
(3)住民による隠れた地域資源の発掘とその活かし方
 住民が密かに魅力だと感じている景色やスポットは村内各地区にあると思われるが、そのような日常目にする美しい光景などは、都市住民を大いに感動させることが見込まれる。そこでまずは、住民それぞれが感じる地域の魅力を出し合って、地域の魅力を再確認し、これらの魅力をどのようにして来訪者に伝え、楽しませるか、といったことを住民自身で考えていく必要がある。その際には、加工グループなどの既存の地域活動家がリーダー的存在として他の住民を引っ張っていくことが期待される。
 
イ 交流を通した情報の発信
(1)椎葉の魅力や楽しみ方を知らせる
 自然に触れたい、平家伝説についてもっと知りたいと感じている都市住民は多いものの、どのように楽しめばよいのか、どんな歴史物語があるのかわからず、遠くから眺めるにとどまったり、歴史的な遺産の前を見過ごしたりする場合が多い。本村の自然や生活文化、歴史文化にもっとも親しみ、詳しいのは椎葉住民であり、自然・山村体験を希望する都市住民にとって良きガイドとなる資質を有している。また、人情味ある椎葉村民とのふれあいは、楽しい想い出につながる。
 
(2)祭り、神楽以外の時期の交流促進
 現在の本村の観光客の入り込みは季節による偏りが激しく、11月の平家まつりと神楽の時期に年間入り込みの半数が集中しているが、夏は長期休暇の時期にも関わらず、入り込みが極端に少ない。夏休みの長期休暇をねらった子ども向けのイベントや山村体験プログラムの実施、避暑をアピールしたイベントの実施などを検討していく必要がある。また、四季折々の食文化や伝統行事を活かして、年間を通した交流イベントの実施も可能性はあると思われる。
 
(3)村民と都市住民との交流の促進
 平家祭りには多くの村民が参加し、多くの見物客も訪れ、村民と都市住民とも交流できる良い機会となっている。人情味ある村民の対応も好評である。今後の地域の活性化のためには、都市住民と中心とした椎葉ファンや椎葉サポーターとのつながりが重要となってくる。このようなファンやサポーターを増やすためには、交流する機会を増やすと同時に、本村の情報をこまめに発信していくことが重要である。また、交流イベントも村民主体で実施することにより、都市住民と直にふれあうことができる。
 
ウ 観光ニーズ、マーケットに対応した戦略の見通し
(1)観光客を迎え入れるための基盤整備
 椎葉住民との温かなふれあいに満足する来訪者は多く、その人間味は本村の持ち味と評価されている。その一方で、路上サインの配置や内容が不十分で道に迷ったり、イベント時の駐車場不足や係員がイベントの段取りを理解していないことへの不満、パンフレットに欲しい情報が掲載されていないなど、ハード・ソフト両面における受け入れ体制の不十分な点が多くみられる。来村者の欲しい情報を整理したサインやパンフレットの作成や、必要最低限の設備整備を行うとともに、来訪者と村内スタッフの動きを円滑にするような運営体制を整備していく必要がある。
 
(2)周辺環境の変化に合わせた戦略づくり
 2つのトンネルの開通により本村へのアクセスは向上するが、同時に通過者の増加、滞在時間の短縮の恐れもある。少しでも長く本村に滞在してもらうためにも、国道沿いの平家本陣などでの、地場の食事やみやげ物の充実を図る必要がある。また逆に、アクセス向上により、これまでは来訪が少なかった地域からの入り込みが増加する可能性がある。新たな顧客開拓やニーズ調査も進めていくべきであろう。
 周辺町村でも、自然体験や生活体験の様々な取組が行われているため、素朴ながらも椎葉らしさを売りにした体験プログラムづくりを進めていく必要がある。
 
(3)観光客の滞在時間の延長
 現在の椎葉観光では宿泊客が減少傾向にあり、また、日帰り客の本村滞在時間が短くなっている。村内で食事やお土産品の買い物をするところが少ない点、どこで何が買えるのかが伝わってない点などが滞在時間短縮の一要因と考えられる。観光資源の魅力を高めていくと同時に、郷土料理を体験できる食事処の設置やメニューの改善、椎葉独自のもので、都市住民のニーズにあった商品が買えるような店舗づくりを検討していく必要がある。また、このような店舗情報、商品情報が来村者にうまく伝わるような工夫も必要である。
 
エ 人材のネットワーク化による運営体制づくり
(1)住民の助っ人としての行政の役割
 行政の観光振興方策として、パンフレット作成、案内サイン設置、ホームページ開設、旅行エージェントヘのイベント情報の提供など、観光協会を中心に広報・宣伝活動を行ってきたが、内容は一方的なもので、ニーズヘの対応や新たな顧客開拓にまではいたっていない。村内でも、地域団体や住民組織との共同での取組は特に行っていない状況である。住民の取組を広報・宣伝、調整役の面からサポートし、都市住民と本村をつなげる役割を担っていかなければならない。また、今後村の観光振興のさまざまな場面で指標となる、入り込みなどの本村の観光に関する基礎的データの集積も重要である。
 
(2)身の丈にあった受け入れ体制の整備
 イベントなどで来村者が増えると、駐車場、ごみ、環境破壊などさまざまな問題がでてくるものと思われる。地域活性化のための観光振興であるため、村民の生活が危ぶまれることがあってはならない。地域の規模やデリケートな自然環境、村民の生活環境を考慮して、地域に無理や負担のかからない方法で、集客や運営を進めていく必要がある。







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