日本財団 図書館


(3)株式会社アモール・トーワ(東京都足立区)
■法人の概要
代表者 田中武夫氏
所在地 東京都足立区
設立 平成2年6月
経営方針 地域コミュニティとの密着、地域との交流を基本理念として、地域に就業の場をつくり出す一方で、福祉一助を担うべき事業を行っている。
事業内容 病院レストラン・売店経営、小中学校・保育園への給食事業、高齢者への弁当宅配事業、ビルの清掃事業(地域の大型店:イトーヨーカドウなど)、空き店舗の肩代わり経営(パン屋、鮮魚屋)、アンテナショップ経営(漬け物屋)、学童保育室(平成15年4月開設予定)
資本金 1,350万円
売上高 約4億円
従業員数 約150名(給食部:約100人、パートを含む)
 
(1)設立の経緯
東和銀座商店街は、JR亀有駅北口から徒歩10分程度の住宅地に形成された近隣型商店街である。全長370m、80店舗(うちテナントは2割)ほどで構成されている。
戦後まもなく形成され、昭和56年には東京都モデル商店街1号の指定を受け、アーケードの整備、各種イベントやスタンプ事業を実施するなど、都内でも有数の活気ある商店街だったが、大型店が周囲に相次いで出店したことなどで、集客力は落ち、空き店舗数も増えてきた。
平成2年、東和銀座商店街の隣に(財)東京都保健医療公社が運営する東部地域病院(葛飾区)の開設にあたり、その病院の売店の出店を東京都へ申請した際に、行政区が異なる上商店街は振興組合であることを理由に断られたことがきっかけとなり、改めて申請するため41名の組合員(東和銀座商店街振興組合)の出資によって株式会杜を設立するに至った。
設立の際に田中氏は、出資者に対して以下の3つの条件を提示した。
(1)東和銀座商店街振興組合のための組織であるため、組合員のみを出資者とする
(2)株主は組合員で、1人の持ち株は10株以下(50万円以下)であること
(3)経営については7人の役員に任せて、口出ししないこと
 
(2)各事業の概要
各事業は役員7名がそれぞれ責任者という形で、独立採算方式に近い形をとっている。新事業への初期投資をおこなった年を除き、平成2年の設立から基本的に1割配当を維持してきたが、ここ数年は5%にとどめている。
 
アモール・トーワの事業構造
(拡大画面:86KB)
 
ア 病院の売店・レストラン経営
東和銀座商店街の隣(葛飾区)にある東部地域病院の売店及びレストランを経営している。
 
イ 学校給食事業
現在8つの小学校と2つの中学校、2つの保育園の全12箇所で学校給食事業を行っている。従業員については、各施設に派遣する形をとっており、施設ごとに約10名程度勤務している。
はじめは採算性の問題等から、反対の声も多かったが、「自分たちの学校は自分たちの手で」という思いから実施するに至っている。
 
ウ 高齢者への弁当宅配事業
一人暮らしのお年寄りや、昼間一人となるお年寄りを対象に現在80〜100の弁当を宅配している。
きっかけは区内の弁当宅配サービスを紹介した区の広報紙で、そもそもは別の財団法人が実施する福祉事業であったものを、当地区には受け皿となるボランティア組織がなかったことから「地域社会のため」という理念に基づいて引き受けた。
開設当時には、反対の声も多かったが「地域のため」という強い意識からスタートした。はじめは一日20食程度で赤字であったが、商店街が半ばボランティアで行っていることに地域住民から高い共感を得て、現在は高齢者以外の地域コミュニティ(地域の祭りや、婦人会・町の会合)などからも注文が入り、そのサービス精神(商店街として地域住民のニーズへの対応)から「質・量ともに」の声が聞かれる程の評判となり順調に売り上げを伸ばしている。
 
エ 空き店舗代行事業(商店街のワンストップショッピングに向けて)
i)鮮魚店
鮮魚店に関しては、空き店舗対策というよりも、ワンストップシヨッピングの機能保持という面から、高齢化し経営持続が困難になった鮮魚店を肩代わり経営している。鮮魚の仕入れや加工には専門技術が必要なため専門家を1人雇っている。そのため毎月50万円近くの赤字となっているが、弁当・給食・レストランなどの共同仕入れや1次加工も兼ね、効率を上げるようにしている。
元の魚屋は家賃収入及び清掃業務による給与で生計をたてている。
 
ii)パン屋
パン屋の代行経営については、食品店が閉店した店舗をパン屋に改造して営業を始めた。その一角を、「Aふらんぎ」という地域の知的障害者のグループが小物を売る場所として貸したことがきっかけで、現在はパン屋の店舗すべてを「Aふらんぎ」に無料で貸し出し、経営についても任せている。
家賃15万円とパンを焼く機械などの償却費はアモール・トーワが支払うため赤字であるが、やはりワンストップショッピングの機能保持という面で赤字覚悟で運営している。また、店内にはテーブルセットが用意されており、地域住民の憩いの場にもなっている。
 
iii)学童保育施設
平成15年度から学童保育施設「アモール学童クラブ」の運営を予定している。商店街を窓口として、区のバックアップ(空き店舗補助)を受け、地域住民の一員としての立場から子育てを支援するために設立する。
対象は、足立区内の小学校1〜3年の児童になるが、施設に余裕がある場合は、小学校4年生以上の児童や、足立区外の児童も入室は可能である。また、空き時間については、近隣の高齢者の憩いの場として利用してもらうなど、その相乗効果として年齢層を越えた交流の場(サロン的な役割)としての期待もある。
 
オ 漬け物屋(アモールふるさと館)
亀有駅高架下のショッピングモール内に、地域の特産品(おもに食料品)のアンテナショップを営業している。現在の商店街にはない業種の営業ノウハウを蓄積し、将来組合員の中から業種転換の必要性が出てきたときに対応できるようにとの考えから行っている。
赤字の事業は他の黒字の事業で補い、商店街として地域住民のニーズに応え、提供していくことを重視している。
 
カ よろず相談の受付
高齢者向けのよろず相談所を商店街に3件設置。地域住民が「何か困ったことがあったら商店街へ」と思ってくれるような、地域コミュニティの場としても頼りになる存在となることを目指している。
このよろず相談所については、商店街連合組合として足立区全体の商店街に広まっている。
 
キ その他(ひとひかり運動)
田中氏は、「ひとひかり運動」(=各小売店で1つ、ぴかっと光る売りの特徴を持つこと)を各小売店に働きかけている。例えば、酒屋でビールを1ケース届けるとき、1本だけでも冷えたビンを入れておくなどで、小売店のちょっとした工夫をサービスに取り入れるように心掛けている。
 
(3)効果・今後の展開
ワンストップショッピングの確保により、便利な商店街としての役割を近隣生活者に提供し続けている。便利な商店街としての存在価値を保持することで、集客力維持も続けている。
地域への雇用の場の提供により、商店街が地域住民にとっての「コミユニティの場」としてキープされている。商店街の個々の店舗の経営者が、次世代に前向きに残せる資産を形成できることを証明した。
商店街にとって新規事業を育成する孵化器であると同時に、組合員の将来を不安のない程度に保証していこうという、互助組織にもなっている。個人商店主の不安は大きいものがあるが、従来型の振興組合をさらに一歩生活保障型にまで広げた、新しいタイプの商店街組織である。また、こうした雇用の場の提供は、組合員のみならず、近隣の人たちへもパート雇用などで貢献している。
弁当の材料となる米やおかずなどの食材類は商店街の加盟店から仕入れ、多少なりとも、商店街の売り上げ増につながっている。また、ビル清掃業務は、廃業ないし、時間のある経営者たちの雇用の受け皿になっている。
高齢者向けのよろず相談所や、空き店舗の代行事業などにより、大型店とは異なった役割を果たすことで、地域住民が「何か困ったことがあったら商店街へ」と思ってくれるような、コミュニティの場においても、頼りになる存在となることを目指している。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION