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6. 今後の日立市の地域活性化テーマの方向性
 いわゆる中核企業を中心に、工業都市としての発展を遂げてきた日立市は、全国の多くの工業都市と同様に、持続的な人口の自然減と社会減という課題を抱えている。
 その地域活性化の課題として、第一に、新たな雇用機会の創出と地域経済を再活性化する駆動力・推進力となる新産業・新移出産業の創出支援を積極的に行うこと(「地域経済力の再構築や高度化」)があげられる。第二に、「ライフステージやライフスタイル、職業キャリアステージに応じた課題に対応する市民」を支援する機会づくり、あるいは「地域課題の解消に自らが担い手として参加し、活動する意欲と知恵を持つ市民」の育成や、地域文化づくり(「市民の生活力や生活の質の高度化」)などが基本的な課題となっている。これらに対応するため、重点的に取り組むべきテーマを以下のとおり提起する。
 
(1)地域経済力の再構築や高度化
(1)産業の高度化やベンチャーの支援と育成
 長引く不況の中、地域経済力の低下は多くの都市における大きな問題であり、ここ、日立市においても同様の状況ということがいえる。
 企業の系列再編による市内企業への発注減少や、業績悪化などからの合理化による従業員の解雇など、地域経済を動かす根幹の力が弱まり、消費の減少といった面におけるサービス産業への影響をはじめとして、各種の地域経済の活力低下、新規雇用の縮小など、大きな影を落としている。
 このような状況ではあるが、従来の企業系列だけに頼るのではなく、新たな受注先の開拓や、現状の企業資産を生かしながらの新規業務拡充、また、新たな分野への進出を目指しての変革・開発などの動きもみえてきている。
 新たな道を選ぼうとする動きを支援する際に重要なことは、暗中模索で不安の中にある当事者が相談できる機会の存在であり、また、そのような当事者に対して適切な情報の提供や関連団体へのつなぎなどを行い、不安の排除と事業案としての方向性を提示することにある。
 幸い、日立市には日立地区産業支援センターがあることから、その機能をさらに活用するとともに、従来からの産業に対する高度化の支援や、新規ベンチャービジネスの動きを支援するとともに、成長産業部門の新規創出を推進し、従来の製造業に特化した産業構造から、幅の広い構造へと変革を続け、新たな雇用機会を生み出していく必要がある。
 
(2)ボランティア活動、コミュニティビジネスの育成・支援
 市民や民間、行政のパートナーシップに基づいた取組を有効に推進する上で、最も重要な要件の一つは、従来からの地域活動やボランティア活動のほかに、多様なコミュニティビジネス(市民NPO活動を含む)が起業化され成長していくことである。この条件が不足している状態では、これらの地域の各セクターが連携・協働して地域の諸課題に取り組むにあたり、相当のハードルを抱えることになる。
 行政は、市民の創意工夫による活動を支援するとともに、市民の事業の新規立ち上げを特に支援助長することが求められている。注目すべきことは、これらの活動や事業に市民が参加したり立ち上げたりする目的や意欲(ミッション)は、従来からいわれてきた「ボランティア精神」や「地域社会貢献」、「社会参加」などだけではなくなってきているということである。
 特に健康や福祉、環境、教育など、地域の抱える課題分野において、継続的に取り組もうとする意欲や組織、事業を経営する力を備えた市民事業の創出が期待されてきている。また、この種の事業に参画し立ち上げたい市民層も、女性やシニア層・障害者層、商店街、学生などにおいて広範に生まれてきており、今後、団塊の世代がシニア化し、女性や障害者などの意欲の高まることにより、市民事業のいっそうの増大が見込まれる。
 行政は、この社会的な潮流を適確に受け止め、従来から重要な地域社会の担い手として活躍してきた、各種の地域活動やボランティアの組織をさらに支援するとともに、新たな市民の社会参加意欲の創生を受け止める組織・場として、「コミュニティビジネス」を促進する環境整備や応援体制づくりが求められる。特に、専門の相談体制の充実や事業化支援、活動のリーダー層育成、組織育成プログラム開発などが必要になっている。
 今後、これらの地域活動や事業への体制を充実する方策としては、従来からの住民層を担い手とするほか、地域に通学在学する学生などの若者に対する参加支援の助長も重点的な検討テーマとなる。
 
(2)市民の生活力や生活の質の高度化
(1)多様な市民層の交流や情報交流機会・拠点の創出、市民意識の向上
 今後の日立市の地域活性化戦略を検討する上で、いわゆる従来からの成長産業の誘導や育成を契機とする地域経済振興だけでなく、従来からの環境資源の再評価を含めた観光資源の開発や、国際的な視野に立った交流や滞在の人口の創出などを契機とする地域活性化という視点も重要となっている。
 特に、今回の事例調査で取り上げた他地域での大学連携の取組では、大学の留学生などと市民との交流を通した国際性意識の醸成などの面で、地域活性化への貢献などがみられた。これに対しての日立市における実績と経験は十分ではなく、今後の推進が大きなテーマである。
 現在、既に日立市隣接の東海村に「大強度陽子加速器計画」が構想されている。この導入に伴って、日立市圏域にも国際的な研究者及びその家族の訪問や滞在が見込まれ、地域経済への効果や社会基盤整備の新規需要、子弟教育を含めた各種教育文化・生活利便機能の需要が予測される。生活の国際化に対応する市民サイドのホスピタリティ向上や交流育成支援などについても、これからの生涯学習活動の課題となってくる。
 また、各種全国規模・国際大会、イベントの誘致を通して、交流人口増のきっかけづくり、活気の雰囲気づくりを推進することも求められており、この企画推進には、地域市民や経済団体だけでなく、市内及び周辺の大学などの教員や学生などの研究・開発のノウハウ提供、取組への参画呼びかけなど、地域にある多様な知恵と人材を結集させる取組方策が必要である。
 
(2)多層的な活動の展開と人材活用・育成の推進
 現在、全国各地で実施されている地域保健福祉活動は、小学校区エリアや中学校区エリアといった市民がアクセスしやすく利用しやすい圏域の設定による活動と、全市エリアといった広域的視点による活動が組み合わされ、活発な活動が展開されている。
 日立市においても、小地域(小学校区)ごとに特色ある活動が展開されているが、昨今の行政改革の影響もあり、必ずしも従来からの行政スタッフの人員配置を前提として進めることができなくなっている。
 行政からは、訪問・情報提供といった面での支援の充実が図られてはいるものの、地域において専門性を必要とする、企画開発を含む事業展開といった新たな活動を推進していくためには、専門的な知識を持つ市民への参加要請・自主的な学習による知識の取得など、これまで以上に多くの市民や組織を巻き込んでの展開が必要になっている。







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