日本財団 図書館


二〇〇二年八月十五日開催
東京財団主催
新規範発見塾
 
『アメリカはイラクを攻撃するか』
報告者/佐々木良昭(東京財団 シニア・リサーチ・フェロー)
コーディネーター/日下公人(東京財団会長)
 
I はじめに 日下公人(東京財団 会長)
 皆さん、こんにちは。暑いところをようこそお集まりくださいました。
 きょうは八月十五日です。日本は私が中学校三年のこの日、もう戦争はしないと決めました。日本さえしなければ世界は平和になるかと思ったのですが、ちっともそんなことはありませんで、世界の国は相変わらず自分勝手に戦争をしています。
 ですから、戦争は自分さえしなければいいというものではありません、そういう勉強をしなくてはいけない。八月十五日に新規範発見塾をやっても誰も来る人はいませんよと言われたのですが、私はやると決めました。そう決めたのは、私の頭脳の中の辺縁部というところで、知性でも理性でもありません。
 アメリカはバクダッド攻撃をする。あとは時間とやり方の問題だという議論が、世界の新聞、雑誌、テレビをにぎわせています。まるで、やることは既定の事実のようでホワイトハウスは、みんなやる気でいます。パウエルさんも、今は全く反対しない。国務省的見地からの発言がない。ということです。
 これはアメリカは狂っていると思います。世界中が反対している。ヨーロッパもそうだし、アラブの人はもちろんです。支持しているのは日本とトルコの二つだけです。この三カ国が世界の嫌われ者になるということを、アメリカ人はだんだん気がつくはずです。アメリカ国会もそう動くでしょう。
 これだけ評判が悪いのだから、もしかしたら不発に終わるのではないかと考えるが、それは穏健で良識ある平和愛好日本人だからで、アメリカ人はそうは考えません。世界じゅうの評判が悪いなら早くやってしまおうと思うでしょう。
 ともあれ、十二月か一月へ延びた。延びた理由はいろいろあります。暑過ぎるときはやれないとか、地上部隊に損害が出ては困る。もし本当にそうなら、かわりにトルコ、クルド人を使えばいい、原子爆弾を大砲で撃ち込む、あるいはダーティーボムを使えばいい。そうすれば地上軍は死なずに、かつ憎きフセインを倒すことができる等々。
 すると、その後の土地はもう使い物にならない。イラクは人間が入れなくなり、無人化する。日本人は、そこまでやらないだろうと考えるが、もしかしたら、それこそがねらいかも知れません。無人の地で、石油はたくさんある、こんないいことはない。人間なんか一人もいないほうがいい、というようなことをアメリカ人は言っていないのですが、考えているのではなかろうかと考える力が日本人に必要だと私は思うのです。だんだん人が悪くなってきたのは、これはアメリカが教育してくれたおかげです。あるいは江澤民さんが教育してくれたので、だんだんこんなことを考えるようになりました。
 日本人の常識で考えてもわからないことだらけです。例えば目的は何か、アメリカは、どうなればいいと思っているのか、アメリカの国益がよくわからないし、世界の利益もわからない。戦後秩序をどうするかをブッシュは言っていない。お父さんは「ニューワールドオーダー(新世界秩序)」という演説をしています。今のブッシュさんは「ニューワールドオーダー」を言っていない。ただ、「フセインは危険な男だから早目に除去する」と言っているだけです。
 私がいろいろ考えた末の結論は、あんな親孝行な息子はいない、と。フセインが朝から晩までお父さんの悪口を言うから、仇をとらずにはいられないという孝行息子なのではないかなと、そう考えたりしています。
 外交の専門家は「いやいや、そんなことはない、ブッシュも考えている」と言うでしょう。彼らの言っていることを聞いていると、それは単にアラファトの処遇なのです。シャロンの言うことを重んじて、アラファトをぶっつぶしてしまいたい。そこが片づけば問題は全部片づくというところで、思考がストップしている。そんなことではテロ・ゲリラはなくならない、と言うとビンラーデンがどうしたとか、根拠地は覆滅したとか言ってきます。根拠地なんか幾ら覆滅したって、アメリカが同じことをやっていたら、テロ・ゲリラはまた出るのです。そしてそういう攻撃にはアメリカと日本が一番弱い国なんです。文明・文化が高度に発達しているから攪乱作戦には弱いということを忘れた人が、ホワイトハウスにはいっぱい集まっているような気がいたします。
 テロ・ゲリラをなくす一番のキーワードは、私は「内政不干渉」だと思っています。何でそんなに内政干渉をするのか、それはアメリカの利益になるのか。利益になるのなら、ここが利益だと議会へ行って説明するべきです。議会が、「説明しろ」という声を、今上げているのです。
 それからもう一つは、エンロンの不正事件です。大統領も副大統領もそれぞれが、会社の杜長をしていたとき、あるいは今も、さんざんインチキをしているということをつつかれるから、そこから目をそらすために戦争をしてしまう。この辺が我々の常識と違うわけです。戦争をして目をそらせる。それはお父さんがやったのと同じことです。
 ところが、この六月の終わり、それが裏目に出ているわけです。戦争近しと言うと、あるいは不正事件を国会が追及すると株が下がる、ドルが下がる。今までは「有事のドル高」と言ったのが、有事のドル安になって出てきている。これは、もう世界はまるで変わったのではないかと思うのです。あるいは、戦争を始めるとアメリカ国民が燃え上がって大統領の支持率が高まるはずだったが下がる。このようにアメリカはまるで変わった、世界もまるで変わったという中で、日本外交を考えていただきたい。
 ところが、この間テレビに川口外相が出てきて、ODA予算は横ばいにしていただきたい。あれは日本の唯一の外交手段だから削られては困ると言っていました。これは困ったことです。外交手段は十でも二十でもあるんです。三千年の歴史を勉強すればどんな手でもあるのに、唯一の外交手段とはおかしな話です。それは外務省の人がさぼって、ODAで金を配る以外のことは面倒だからやらないだけでしよう。
 ODAが唯一の外交手段になっているということ自体が大間違いですから、大臣は部下を集めて、「ばか」と言わなければいけません。二番、三番、四番を考えて、なるべく安上がりで済ませるように、ODAなんかなくても世界がうまくいき、日本がうまくいくようなことを考えて持っていきなさい。「唯一の外交手段ですから、大臣頑張ってください」なんて言ってきた人はみんな首にすると、川口さんには言うべきだと、私はある人に言いました。その人は、「その通りだ、わしもそう思っている。川口大臣に、公共事業はマイナス三%、公務員給与もマイナス二・〇三%と削るとき、ODAだけ横ばいを主張するなんて判断ではだめですよ」と言ったが、それでも、「横ばいでなければ外交はできません」という返事だったので、「外交ができないのならやめてもらうほかないな」とおっしゃったとのことでした。ここで、私が言いたいのは、日本外交は何もやっていないということです。
 東京財団でODA研究会を、今立ち上げています。日本はODAが唯一の武器であるはずがない、世界がちゃんとするためには、内政不干渉、民族自決というスローガンがあるではないかと発言するのも外交です、第一次世界大戦のとき、ウィルソン大統領はそう言ったのです。第二次世界大戦のときも、大西洋憲章でルーズベルトがそう言いました。ブッシュさんは今何を言っているのか。ブッシュさんはそういうことは言わないわけです。かつて、アメリカが高らかに主張していたのをもう今は言わないのか、そういうアメリカになったのかという認識を、我々は持つ必要があるでしよう。
 さて、きょうの本題は、アラブ問題の大専門家で、当財団のシニア・リサーチ・フェローの佐々木良昭が、この間、またアラブヘ参りました。
 アメリカは私から言えば自信過剰で、アラブの人が何を考えようと、そんなものは軍事力でもみつぶせば一息だと見ている、中国に対してもそういう態度です。日本に対しても、別に日本に相談することはないと。もちろん全員がそうではありませんが、何かそういう雰囲気があるような気がいたします。私は、そんなことはない、アラブの人が考えていることをちゃんと考えなくてはアメリカは世界のリーダーになれませんと思っています。そういうことについて、彼が日本で一番か二番ぐらいに詳しいと思っております。この間の出張報告も兼ねて、佐々木良昭が見たアラブ情勢をこれからご報告しようと思います。
 ではお願いします。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION