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 堀江―日本でのコミックエディターの仕事を紹介します。アメリカではリービーさんが話したような仕事が主ですが、日本では、作品を作るために作家と協力することが大変重要です。皆さんは「北斗の拳」をご存知でしょうか。僕は編集者でしたが、「北斗の拳」のスクリプトを書いていました。だから、タイトルも「お前はもう死んでいる」というセリフも「経絡秘孔」突きも僕のアイデアです。このように、自分で作品のコンセプトを考えてコミックアーティストたちに提供する仕事も、日本のコミックエディターはするのです。
 日本では編集者は作家性というか、作家の能力を要求される場合が多いです。だから、僕達が新しい編集者を雇うときには、作文を書いてもらうことがあります。人が死ぬことをテーマに、必ず読者の涙を誘うようなショートストーリーを書くというものです。
 このように、日本のコミックエディターとアメリカのコミックエディターは少し違っています。日本はどちらかというと、毎日朝から晩まで作家と一緒にいて互いにブレーンストーミングをして、作品を作り上げていくことが仕事の大部分を占めます。ライセンスビジネスや、サウンドエフェクトを書き直すことは、編集者の仕事に入っていません。日本のマンガ編集者は毎日、マンガを読んで、映画を観て、芝居を観て、夜にはお酒を飲んで、これが全部仕事です。遊びに見えることが仕事だからとても幸せです。会社でマンガを読んでいても、コミック編集部なら「勉強しているね」とほめられます。ほかの部署だったら、怒られますけれどね。
 日本では週刊誌がメインですから、作家1人の才能では毎週のアイデアを作りつづけることはできないのです。だから、編集者が協力して作品を作るシステムが生まれたのだと思います。ほとんどの優秀な作品には、陰に優秀な編集者が付いているとみて間違いありません。
 日本のコミックビジネスは分かりやすくて、単行本の定価の10%が作家の取り分です。だから収入が分かりやすいのですが、力を貸した編集者は余り見返りがなかったのです。そこで、コアミックスは、編集者にもロイヤリティを払うシステムを作りました。
 「RAIJIN」の編集部は日本にあります。日本で編集して、アメリカにデータを送って印刷をしています。だから、皆さんのような若い人たちの中から、本当に最初からマンガの編集を知っているエディターが生まれたら、アメリカ人のマンガ家を育ててヒットマンガ家にする人材が生まれてくると思います。
 もし、日本でヒットを飛ばしたら、1年で億万長者になれます。うちで出している「蒼天の拳」「シティハンター」「エンジェルハート」などは、各巻当たり100万部、1年間で500万部ぐらい売れるので、500万×530円×数%が皆さんのものになるのです。「スラムダンク」は日本では1億部売れました。
 すでにアメリカで出版していますが、ハリウッドから映画をマンガにしてくれないかという話がいくつか来ています。僕はスクリプターの訓練をしていますから、打ち合わせをして、その場でスクリプトを作って、日本に持ち帰ってマンガ家と相談をしてマンガにすることが、簡単にできるのです。今は「スター・ウォーズ」のマンガ化の打ち合わせをしています。エピソード2と3の間のストーリーです。交渉中ですから実現するかどうかわかりませんが、これはこちらから持ちかけたのではなく、向こうから来た話なのです。
 アメリカでは今まで、日本のマンガはなかなか普通の書店では扱ってもらえませんでした。しかし、今回、僕達がアメリカで出版するに当たって、一般書店のディストリビューターが「少年ジャンプ」「RAIJIN」を販売したいと言って来てくれます。随分マンガに対する環境が変わってきたと思います。皆さんのように日本に来て、日本の文化を勉強された人たちがこの世界に入ってきてくれたら、すごい力になると思います。
 僕も30年前に早稲田大学で勉強していました。僕の姪が今、早稲田大学のバスケットボールチームのレギュラーでプレーしています。皆さんは僕の後輩ですから、今日は非常に楽しみにして来ました。
 
 野崎―エディターは、原作者に近くなっていると考えていいわけですね。マンガ家の原作力は昔はあったけれど、今は少しなくなってきていて、編集者が原作者になりつつあるという理解でいいのですか。
 
 堀江―ある部分、そうです。今、マンガの力を上げようとするなら、編集者の力を上げることです。マンガ家の力は昔とそれほど変わりません。
 
 野崎―それがアメリカでも生きるビジネスモデルだろうということですね。
 
 堀江―そうです。韓国でも、中国でも、日本のエディター・システムがないのです。優秀な編集者を育てることがマンガを根付かせる最短の道です。エディターは、映画で言えばプロデューサーに当たります。
 日本では、有名なマンガ家のところに行って、面白い作品を描いて下さいとお願いばかりする編集者は2流で、自分からこういうテーマがありますよと提案できる編集者が1流と言われます。ジョージ・ルーカスもそうですね。彼は原案を考えたけれど、スクリプトと監督は別の人にやらせます。そういう形のやり方も日本では多いのです。







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