8.2 液晶表示器の再現性試験
温湿度試験において液晶表示器の画面表示が変色する誤作動があった。この誤作動の再現性を確認するため同形式の他の液晶表示器で試験を行った。
またパソコンに使用されている一般市販品の液晶表示器に対し同様の試験を行い、変色等の誤作動の有無を確認した。
8.2.1 供試品
試験に使用した液晶表示器を以下に示す。
8.2.1.1 誤作動(変色)があった供試品と同形式の液晶表示器(A社製)(供試品1)
8.2.1.2 一般に市販されているパソコン用の液晶表示器
(1)B社製 17inchSXGA型液晶モニタ(供試品2)
(2)C社製 17inchSXGA型液晶モニタ(供試品3)
各液晶表示器の外観を写真8〜写真9に、仕様を表12に示す。
尚、A社製の液晶表示器は本来、メーカーから供給された液晶パネル及び基板をアセンブリし、防湿処理を施して船舶関連の試験規格に対応したものを出荷しているが、本試験では防湿処理を施さない状態(メーカーから供給されたオリジナルの状態)で試験を行った。
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写真8 A社製 |
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写真9 B社製 |
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写真10 C社製 |
表12 液晶表示器の使用
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供試品 |
供試品1 |
供試品2 |
供試品3 |
画面サイズ |
15型 |
17型 |
17型 |
画面有効エリア |
304.128mm(横)
228.096mm(縦) |
338mm(横)
270mm(縦) |
337.9mm(横)
270.3mm(縦) |
駆動方式 |
TFTアクティブマトリクス |
a-SiTFTアクティブマトリクス |
TFTアクティブマトリクス |
画素構成 |
1024×768ドット |
1280×1024 |
1280×1024 |
表示色 |
フルカラー |
フルカラー |
フルカラー |
バックライト |
冷陰極管4灯エッジライト型バックライト(交換可) |
不明 |
不明 |
バックライト寿命 |
MTTF50000時間(室内における推定寿命) |
不明 |
5000時間 |
画面輝度 |
180cd/m2(typ) |
250cd/m2(typ) |
250cd/m2(typ) |
視野角 |
左右方向:85°
上下方向:85° |
左右方向:140°
上下方向:120° |
左右方向:160°
上下方向:135° |
入力電源 |
DC24V±25% |
DC12V |
DC12V |
動作温度範囲 |
0℃〜+50℃ |
5℃〜+35℃ |
5℃〜+35℃ |
保存温度範囲 |
-20℃〜+60℃ |
不明 |
不明 |
湿度範囲 |
85%(メーカー仕様) |
不明 |
不明 |
耐振動 |
2(+3、-0)Hz〜13.2Hz 振幅1mm 13.2Hz〜100Hz 加速度±0.7g |
− |
− |
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8.2.2 試験方法及び手順
3台の供試品を試験槽(恒温・恒湿槽)に設置し、パソコンからの画面情報を分配器を介して表示する。
分配器は1台のパソコンから3台の供試品にVGA信号(画面表示信号)を分配するために使用するものである。
図20にセットアップ図、表13に試験条件及び試験手順を示す。
写真11に試験槽への設置状況を示す。
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図20 温湿度試験セットアップ図 |
表13 試験条件及び試験手順
試
験
条
件 |
試験温度 湿度 |
+55℃±2℃ 95%±5% |
試験サイクル |
2回 1サイクルは24時間 |
保持時間 |
温度上昇開始から12時間保持 |
供試品の作動状態 |
1サイクル目は作動状態、2サイクル目は作動試験時以外は非作動状態 |
作動試験時期 |
(1) |
1サイクル目は試験温湿度に達して2時間後 |
(2) |
2サイクル目は試験温湿度が印加されている最後の2時間 |
(3) |
常温、常湿になってから1〜2時間後 |
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試験手順 |
(1) |
図20に示すように試験槽内へ供試品を設置する。 |
(2) |
電源を供給し、作動状態とする。 |
(3) |
試験前の安定期間を設けるため、試験槽内の温度+22℃〜+28℃、相対湿度95%〜100%の状態を1時間以上保持する。 |
(4) |
試験温度、湿度を+55℃、95%とし、試験を開始する。 |
(5) |
試験温度、湿度に達してから2時間その状態を保持する。 |
(6) |
試験プログラムを起動して作動試験を行う。 |
(7) |
作動試験終了後ただちに試験槽内の湿度はそのままの状態で温度のみを22℃〜28℃にする。 |
(8) |
試験開始から24時間後に供試品の電源を切り、再び温度を+55℃にする。 |
(9) |
温度上昇開始から10時間後に供試品に電源を供給し、作動試験を行う。作動試験終了後供試品の電源を切る。 |
(10) |
温度上昇開始から24時間後に常温、常湿に戻し、1〜2時間後に電源を供給し、作動試験を行う。 |
(11) |
作動試験終了後、電源を切る。 |
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写真11 試験槽に設置し、画面を表示した状態 |
8.2.3 試験結果
本試験は試験結果の再現性を確認するために行うことから、2回の温湿度試験を実施した。
8.2.3.1 第1回目の試験
表14に示すとおり3台の供試品とも、画面表示に異常は見られなかった。
表14 第1回目の温湿度試験結果
作動試験時期 |
供試品 |
供試品1 |
供試品2 |
供試品3 |
1サイクル目の試験温湿度に達して2時間後(55℃、95%) |
正常 |
正常 |
正常 |
2サイクル目の試験温湿度が印加されている最後の2時間前(55℃、95%) |
正常 |
正常 |
正常 |
常温、常湿になってから1〜2時間後 |
正常 |
正常 |
正常 |
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8.2.3.2 第2回目の試験
第1回目の試験終了後、約1週間養生し、第2回目の試験を行った。
表15に示すとおりC社製の液晶表示器が2サイクル目における作動試験で画面が乱れた状態(垂直同期がかからない)となり誤作動が起きた。この状態は常温、常湿状態に戻しても同様であった。(写真12参照)
またこの供試品を充分に乾燥させて再度電源を入れ画面表示を行ったが、正常に戻ることはなかった。内部の回路が温湿度試験によって故障した(LCD回路は問題ないがVGA入力信号の同期回路)と考えられる。
表15 第2回目の温湿度試験結果
作動試験時期 |
供試品 |
供試品1 |
供試品2 |
供試品3 |
1サイクル目の試験温湿度に達して2時間後(55℃、95%) |
正常 |
正常 |
正常 |
2サイクル目の試験温湿度が印加されている最後の2時間前(55℃、95%) |
正常 |
正常 |
正常 |
55℃、95%の状態から25℃、95%の環境条件に戻した時 |
正常 |
正常 |
画面が乱れる |
常温、常湿になってから1〜2時間後 |
正常 |
正常 |
画面が乱れる |
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写真12 供試品3の誤作動状態 |
8.2.4 再現性試験のまとめ
試験は本調査研究の供試品に使用した液晶表示器が変色する作動の再現性をみるため、同形式の液晶表示器を使用して行った。しかし変色するような誤作動は起らなかったことから、変色が起きた供試品のLCDパネルに起る特有の現象と考えられる。
また同時に一般に市販されているパソコン用の液晶表示器2台について試験を行ったが、供試品3が2回目の温湿度試験で誤作動を起こした。
一般に市販品のパソコン等の動作温湿度範囲仕様は5〜35℃、20〜80%であるため本試験の試験条件(55℃、95%)で試験を行った場合、高温度、多湿度の環境によって電子回路、LCDパネル等に誤作動が起き、回復不能な故障が発生することは十分に考えられる。
従って市販品のパソコン用の液晶表示器を船舶用に使用するためには温度、湿度対策を充分に施す必要がある。
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