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15:00〜15:30 Public Health in Emergency Management and WHO Strategies In the Western Pacific Region
 
Dr. Yoshihiro Takashima
Technical Officer, Emergency and Humanitarian Action
 
 災害をもたらす可能性のある自然現象(hazard)が災害(disaster)として地域に与えるインパクトは、地域の脆弱性(vulnerability)と災害への備え(readiness)により大きく異なる。同じ規模のhazardでも、大きなダメージを受ける地域もあれば、少ない影響で済む地域もある。これは、事前に備えておくことで被害を最小限に食い止めることができることを示唆する。この視点に立ち、WHOではEHA(Emergency and Humanitarian Action Program)の下で各国に対し、災害・緊急事態に対する予備対策(emergency preparedness)、人々の健康や保健医療システムに与える影響の災害緩衝策(disaster mitigation)、緊急対応策(emergency response)とその後の復興に一貫性を持たせるためのプロジェクトを実施したり支援したりしている。
 Disasterは、hazardと社会の脆弱な部分が接触することで生じる。例えば竜巻が海上で発生しても人に影響はないが、竜巻が都市のスラム街を直撃すれば大きな被害を生む。すなわち、disasterの影響を少なくするヒントは、社会のvulnerabilityを如何に減らすか、さらに地域の備え(community readiness)を如何に事前に充実させておくか、という点にある。
 Hazardには自然現象だけでなく、工場や発電所などでの大規模事故、戦争や紛争といった人災も含まれ、そちらへの備えも重要である。しかし、西太平洋地域に限ってみれば、発生した災害のうちの大規模なものはほとんど洪水や台風などのnatural hazardsによるものが圧倒的に多くなっている。ちなみに1990年代に世界で発生した大規模自然災害は617件であり、そのうち西太平洋地域での発生は約4分の1の145件である。
 Disasterのインパクトを大きくするのはvulnerabilityだけではない。病院や緊急搬送システムなどの保健サービス(Health Sector)がダメージを受けることで、被害がさらに広がる。従って、災害に強いHealth Sectorを構築することも重要なポイントである。しかし現在は、このような間接的影響での被害がassessmentされておらず、今後の課題の1つである。
 これらを受けてEHA/WPROは様々な取り組みをしているが、その柱は(1)自然災害にさらされやすい地域への対策→各国保健省との連携、(2)情報収集、(3)国ごとで対応できるシステムの構築、(4)多数の組織のコーディネーション、である。
 EHA/WPROでは2000年に、2001年から2003年までの3カ年計画を立案し、これまでにおよそ仕事の半分が完了した。今年から始めたのは、各国の保健省から担当者を集め、トレーニングを行うプログラムである。日本も参加している。現在は、災害時にWHO/WPROの中でもEHAがリーダーシップを取り、各オフィスに指示を出せるシステムを構築中であり、災害時に公衆衛生的データを収集するためのフォーマット作りも進めている。
 講義後の感想としては、vulnerabilityとhazardの接触がdisasterを生むという考え方は非常に分かりやすく、印象的であった。医療の様々な分野で予防医学の重要性が指摘されているが、EHAの取り組みはまさに災害に対する予防医学だと感じた。
 
WHOでの講義
 
15:30〜16:00 Healthy Cities and Healthy Islands
Dr. Hisashi Ogawa
Regional Advisor, Environmental Health
 
[Healthy Cities]
 1950年には世界人口25億人のうち約30%が都市に住んでいた。2000年には60億人のうち約45%が都市に住み、これが2025年には都市人口が50%を越えると試算されている。また、人口1,000万人以上のmega cityは、1975年には5都市であったが2000年には19都市存在し、2015年には23都市にまで増えると言われる。都市化は特に途上国において重要な問題である。都市人口の約3分の2(16億人)が途上国の都市に住んでいること、そのうち約6億人が特に厳しい生活を強いられていることを考えれば問題の大きさがわかる。
 都市化に伴って現れてくる問題は多岐に亘る。ヘルスサービスの格差、生活環境の悪化、小規模工場などによる汚染、労働環境の悪化、大気汚染などの環境問題、ライフスタイルの変化として喫煙、違法薬物、暴力、偏食、運動不足など、実に様々である。
 そこでHealthy Citiesでは、町、マーケット、職場、病院、学校、村などあらゆる状況設定での人々の健康とQOLの向上を目指している。そのために、国や自治体の医療部門がその他の各種部門と協力しあい、問題解決に取り組んでいる。
 
[Healthy Islands]
 1995年、フィジーに太平洋の島国の保健大臣が集まり、health promotionについて話し合ったのがHealthy Islandsの始まりである。Healthy Islandsで求めるのは、(1)子供が心身ともに健やかに育つ環境、(2)学習も休暇も大事にする環境、(3)尊厳を持って働き、老いてゆける環境、そして(4)生態系を守り、(5)海を大切にする、このような島作りである。
 以降2年ごとに会議を重ね、2001年にパプアニューギニアで開かれた会議ではRegional Action Planが作成された。これにより各国の保健機関がHealthy Islandsに向けて行動できるような枠組みが完成した。2003年には各国のtechnical groupが集まり、それぞれの実施内容をreviewする予定とのことであった。
 都市によって状況が全く異なるために、それぞれの都市が独自のアイデアを出していかなくてはならず、Healthy Cities / Islandsに向けてのモチベーションを維持するのが課題ではないだろうか。例えばHealthy Islandsの2年ごとの会合などは、各国の成果を発表しあえる場があるということでモチベーションを維持するきっかけになるだろうと思う。しかし各国、各自治体の予算が厳しくなったとき、「発表の場がある」だけでは動機付けとして不十分だろう。誰かがアメを与えられるようなシステムは作れないだろうかと感じた。
 (担当:伊藤 淳)
 
16:00〜16:30 Sexually Transmitted Infection including HIV/AIDS
Dr. Thi Than Thuy
Medical 0fficer, Sexually Transmitted Infections including HIV/AIDS
 
 WPRO統括地域においてHIVが初めて報告されたのが1980年代半ばである。1999年の終わりには90万人以上もの人々がこの地域においてHIVに感染している。2000年末までには、100万人にもなる。最近、カンボジア、パプアニューギニアのある地域では異性間の性交渉による感染が多く見られ、その数は増加している。中国とベトナムにおいては注射器のまわし打ちと異性間性交渉によるHIV感染者が増えている。また、他の国においても性感染症(STI:Sexually Transmitted Infections)が高率にみられ、HIV感染の増加の危険性が十分にある。
 HIV予防の継続と強化は必要不可欠である。HIV感染は他のSTI感染と強い関連性を持つ。STI減少の達成によって、効果的にHIV感染を減らすことができるのである。Regional Officeは統括地域において年間3,500万件もの治癒可能なSTIが発生していると見積もっている。性的に活動的な人口に占めるSTIの割合は2%〜5%であり、女性の性産業従事者においては20〜40%となっている。ゆえに、女性の性産業従事者およびその客を重点的にターゲットとすることが必要となっている。
 
HIV Rate
Generalized: ・Cambodia 2.7 ・Myanmar 2.0 ・Thailand 1.8
Low level prevalence:      
  ・India 0.7 ・Vietnam 0.3 ・Singapore 0.2
  ・Australia 0.1 ・China <0.1  
 
WPROのHIV/AIDSに対する努力
ハイリスクグループに対するコンドーム・プログラム
STIに対するサービスの向上
注射器の使いまわしに対する対策
HIV/AIDSのケア、サポート
疫学的調査
国の血液補給サービスの向上
(担当:河合 直子)
 
8月12日 今日のひとこと
伊藤:今僕が抱える迷いとは、弱さからくるものであることを知った。
安藤:ドリアンいまいち・・・。
大森:英語漬けの一日。頭がぼーっとする。。
千田:尾身先生のお話を聞きながら、自分自身との対話を始めてしまった。私に欠けていたものは・・・とりあえず、もう立ち止まっている余裕はなさそうだ。
瀧村:単純な人はこの一日ですっかりWHOに行きたくなるかもしれません。人生変わっちゃうね。疲れがたまってきたあなたは、眠気防止に飴でも持っていきましょう。
長崎:尾身先生の話をうかがって、「真摯に自分に対すること」が大切だと教わった。
江崎:国際機関で働くことの魅力を感じた。同時に、その大変さも少しだけ学び取ることができたと思う。
河合:尾身先生の言葉より「自分をみつめること、真面目に、真摯になることはいつも大切。」「個性は一人一人違う。自分の持って生まれたもの、特性を見極めなさい。」
馬場:WHOの先生方のかみそりのような切れ味のよさを感じた。
井上:当たり前なことを言われたはずなのに、何か曇りがとれた気がした。
斎藤:WHOの先生たちのすばらしい話に頭がついていず。尾身大先生の話はすげー迫力。
須貝:緊張しっぱなしの一日だった。とうとうドリアンを食べてしまった。
高田:尾身先生のお話を伺って、WHOの印象が180度変わった。
鳥羽:WHOの会議室にびっくり!マイクだよ〜席が決まってるよ〜名前が印刷されてるよ。先生方の素晴らしい話にもびっくり!







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