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8. 近畿圏における新たな交通ネットワークのあり方
8−1 公共交通の利用促進に向けた基本的な方向
(1)公共交通利用促進の意義
a)環境への対応
◎地球温暖化への対応
 1997年12月、気候変動に関する国際連合枠組条約第3回締約国会議において採択された「京都議定書」においては、先進国全体の温室効果ガスの排出量を、2008年から12年までの期間中に、1990年の水準より少なくとも5%削減することを目的として、先進各国の削減目標を設定し、我が国は6%削減を世界に約束したところである。
 政府は、この京都議定書を受け1998年に地球温暖化対策推進大綱を決定、二酸化炭素排出の少ない交通体系の形成を図るために公共交通機関の利用促進を図ることを、重要な項目の1つとして盛り込んでいる。
 
図 8−1−1   1世帯当たり二酸化炭素排出量の内訳
出典:環境省地球環境局環のくらし推進室
 
 現在、日常生活において各世帯から排出される二酸化炭素のうち、自家用自動車から排出される量は約35%と大きなウエイトを占めている。また個別交通機関である自家用自動車は単位輸送当たり排出される二酸化炭素の量も他交通機関に比べて多くなっているなど、自家用自動車の普及による二酸化炭素の排出量による地球温暖化が懸念される。
 このような中において、大量かつ効率的な輸送機能を有し、また、単位当たり二酸化炭素排出量が特に小さい高速鉄道を中心とする公共交通機関への自家用自動車からの転換を促進していくことが、今後の地球温暖化問題への対応において非常に重要である。
 
図 8−1−2   交通機関別二酸化炭素排出原単位(H11)
資料:平成13年度国土交通白書
 
 今後の公共交通機関の整備の方向性においても、自家用自動車から鉄道を中心とする公共交通機関への転換を推進するという観点は、鉄道のネットワーク整備や利便性向上といった目標と並んで、これまで以上に重要な位置付けをする必要がある。
 
b)道路混雑緩和への対応
 自動車保有台数や免許保有者の増加などにより、大都市や中核都市などでピーク時に慢性的な交通渋滞が多く発生している。そのため、円滑な走行が阻害され、平均旅行速度が大きく低下し、自動車交通の定時性や時間信頼性を大きく損ねる状況がみられる。
 このような渋滞による時間損失額は、全国で約11.6兆円/年、近畿(地方整備局管内)では約1.9兆円/年、渋滞損失時間は全国で38.1億時間/年、近畿(同)では6.1億時間/年にものぼると試算されている。道路利用者の多くは慢性的な交通渋滞による不利益を受けているともいえる。
 また、自動車保有台数は、微増ではあるが増加傾向にあり、道路整備を上回る自動車交通が発生しているのが現状である。
 
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図 8−1−3   平日ピーク時道路旅行速度
資料:道路交通センサス(平成11年度)
 
 今後、交通渋滞を可能な限り抑え、社会的損失を少なくすることが近畿圏の活力向上にも資するとの基本的認識を国民が共有し、交通渋滞の解消を図るための一方策として鉄道サービスの質の向上を通じて、鉄道の需要喚起を図り、自家用自動車から鉄道への転換を促すことが重要といえる。
 
図 8−1−4   自家用車保有台数と道路改良率の伸び(H2年を1として)近畿
資料:関西交通経済ポケットブック、道路統計年報
 
表 8-1-1 近畿の渋滞損失額・損失時間
■渋滞損失額
  滋賀県 京都府 大阪府 兵庫県 奈良県 和歌山県
渋滞損失額
(億円/年)
1,300 2,959 8,463 3,115 1,083 974
1km当たり渋滞損失額
(万円/年・km)
5,119 9,543 33,806 5,126 5,099 3,334

■渋滞損失時間
  滋賀県 京都府 大阪府 兵庫県 奈良県 和歌山県
渋滞損失額
(百万人時間/年)
42 99 270 103 37 33
1km当たり渋滞損失額
(千人時間/年・km)
16.5 31.9 107.9 16.9 17.4 11.3
資料:近畿地方整備局道路部HP(http://www.kkr.mlit.go.jp/road/
 
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図 8−1−5   各府県別渋滞損失額
資料:近畿地方整備局(http://www.kkr.mlit.go.jp/naniwa/ir/traffic_jam/
 
c)効率的な交通流動への対応
 一方、鉄道は、大量輸送機能、定時性、速達性等、自動車交通に無い優位な特性を有していることが特徴であり、近畿圏全体の円滑な交通サービスの提供を実現するためには必要不可欠な交通機関となっている。
 例えば、専用通路をもつ都市鉄道は最混雑1時間において4〜6万人程度の利用者を輸送することができ、自動車交通に対して高い輸送効率が確保されている。また、鉄道が有している機能は、住宅地である郊外と従業地である都心地域を、大量かつ短時間で結ぶことによって、安定的な都市拡大に寄与してきた。さらに、鉄道整備水準の高い都市ほど自動車保有が低下する傾向にあることなどを考慮すると、三大都市圏をはじめとする全国の中枢都市圏における安定的な都市機能を維持するための必要不可欠な交通機関としての役割を果たしていると考えられる。
 
表 8−1−2 地下高速鉄道の概況(H12)
注)東京は特別区部
都市名 都市人口
(万人)
路線数 営業距離
(km)
輸送人員
(千人)
札幌 182 3 48.0 206,295
仙台 101 1 14.8 57,385
東京 813 12 272.5 2,528,010
横浜 343 2 39.4 150,454
名古屋 217 5 78.2 366,888
京都 147 2 26.4 111,275
大阪 260 7 104.4 871,476
神戸 149 3 22.7 92,036
福岡 134 2 17.8 108,194
資料:地域交通年報
 
d)公共交通優先の意義
 このように、公共交通を優先する第一の課題としては環境問題が取り上げられるが、特に「渋滞損失額」が高くなっている大阪府域においては、鉄道を中心とする公共交通への転換を強力に進める必要がある。
 例えば、国道1号を中心とする地域においては、駅前広場や駐車場、また、駅へのアクセス道路の整備をさらに進めることによる「駅の利用しやすさ」を向上させ、圏域全体の公共交通サービスの質を高めることが必要であり、それにより自家用自動車交通利用の抑制を図ることが重要と考えられる。
 第二に、高齢者を中心に自動車免許保有率が高まり、同時に自動車利用も増加している現状を踏まえると、今後における高齢人口の増加に伴ってさらに自動車交通の増加が進むものと考えられる。
 今後、高齢者層の割合が高くなることを踏まえると、高齢者等の移動制約者に対する公平かつ安定的な輸送サービス提供を行うことによってモビリティの確保に努めることが重要である。このことはまた、自家用自動車の利用機会の抑制効果を高めることにも繋がるものと考えられる。
 第三には、都市機能強化の面においても重要と考えられる。
 近畿圏では人口の都心回帰と郊外化が同時に進んでいる中で、都心地域では「都市再生」としての再開発への取り組みが行われており、また、郊外部では大規模集客施設や従業系施設の立地が進んでいることから、今後の都市構造としては「二極化」傾向が強まることが考えられる。
 土地利用形態が相違する都心と郊外の連絡性を高めることが、近畿圏における都市機能を強化し、総じて経済的な活性化に繋がるものと考えられる。連絡性強化においては、高速性、定時性等の輸送効率性に優れた鉄道の役割によるところが大きいと考える。このためにも、鉄道の輸送サービス向上を図るとともに、バスとの連携を強めることが重要である。
 







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