日本財団 図書館


5.鉄道整備計画
5−1 既存ストック有効活用
(1)既存ストック活用の重要性
 京阪神圏においては、これまで運輸政策審議会答申第10号(平成元年5月)に基づき、新線建設、複線化等の整備を着実に進めてきた結果、鉄道ネットワークは相当程度構築されてきている。
 こうした中、平成5年頃をピークに鉄道需要の減少傾向が強まり、また、少子・高齢化の更なる進展等により、今後はこれまでのような大幅な鉄道需要の増加は見込めない社会情勢にあり、また、国・自治体とも厳しい財政状況にある中で、新規投資や大規模な改良を伴う投資が困難な状況となっている。このことから、鉄道の新線整備というインフラ的側面の必要性の比重は相対的に低下している状況にある。
 
 一方、これまでに、相互直通運転化、速度向上、運行本数等の既存ストック有効活用により、利用者利便の増進にかなりの効果を上げてきたところであり、今後とも多額の事業費を要する新線整備等に比べ相対的に事業期間が短く、かつ事業費も安価であり、費用対効果の大きい既存ストック活用を行っていくことが重要となっている。例えば、運輸政策審議会答申第19号(平成12年8月)においても、「既設線の延伸、駅施設や老朽化した線路施設の改良など、既存ストックの一層の高度化を図ること」が答申されたところである。
 
 今後は、国民の価値観の高度化・多様化、ゆとりや快適性を重視する傾向の強まりや高齢化の進展等により、鉄道に対する期待は、利用しやすさ、質の向上、福祉重視の交通サービスに移行していくものと考えられる。このようなニーズに適切に対応するため、京阪神圏においては、新規ネットワーク整備にも増して、既存ストックを最大限活用することによる公共交通の利便性向上を図ることがこれまで以上に求められている。
 
 更に、利用者利便向上のためには、バス交通をも含めた公共交通全体のシームレス化が最も重要であることから、既存ストック活用策を講ずるに当たっては、鉄道施設整備と駅前広場整備や連続立体交差化事業等都市整備との一体的推進が重要となる。
(2)既存ストックの定義
 本調査における「既存ストック改良等による有効活用」とは、「線路増設や貨物線の旅客線化、表定速度や運行本数増等、輸送力増強等を図るものや、ダイヤ調整や乗り継ぎ通路等大規模な施設改良を行わなくてもサービスの向上が図られるものなど、既存施設を最大限に活用するサービス向上策」であり、その結果として利用者利便が向上するものを指す。
 
(参考)今後取り組むべき鉄道整備のあり方(運輸政策審議会答申第19号より抜粋要約)
【輸送力増強に資する施策】
○運行本数の増加
○貨物線の旅客線化
○既設線の延伸
○駅施設や老朽化した線路施設の改良
○複々線化や新線整備
○短絡線の整備
 
【快適な通勤・通学輸送の実現に資する施策(最混雑時間帯における速達性向上)】
○相互直通運転化
○都心部における急行運転化の導入
○郊外路線の最混雑時間帯におけるスピードアップ
 
【豊かで快適な都市生活の実現に資する施策(鉄道ネットワークのシームレス化)】
○相互直通運転化
○同一ホーム・同一方向乗換化
○駅施設の改良等による乗り継ぎ利便性の向上
○バリアフリー化等
○短絡線の整備
 
【大都市圏交通全体としてのシームレス化に資する施策】
○バス、自家用自動車等との乗り継ぎ利便性の向上
○駅と一体となったバスターミナルの整備
○パーク&ライドシステム
○航空、新幹線等の幹線交通機関との連携強化
(3)これまでの既存ストック有効活用策
 過去に実施されてきた既存ストック有効活用策を効果に着目して整理すると、次のとおりである。
 
○既存路線の混雑緩和等に資する施策
【輸送力増強】
 ・ 大型車両導入(近鉄田原本線)
 ・ ホーム延伸、車両編成長増大(近鉄各線)
 ・ 運転本数増、車両編成長増大(京阪本線)
 ・ 車両編成長増大(北大阪急行線)
 ・ 複線化(近鉄生駒線)
 ・ 複線化(JR山陰線、奈良線、福知山線)
 ・ 運転本数増(京都市東西線、大阪高速鉄道)
 ・ 信号保安施設増設による列車増発(叡山電鉄)
 
○長時間通勤等への対応に資する施策
【速達性向上】
 ・ 直通運転区間の急行新設(近鉄奈良駅〜烏丸線国際会館駅)
 ・ 待避線設置(近鉄上鳥羽口駅、新祝園駅、大和朝倉駅)
 ・ 信号設備改良(大阪空港〜門真市間1分短縮)
 ・ 速度向上(JR東海道 ・山陽本線、神戸電鉄三田線等)
 
【所要時間短縮】
 ・ 特急停車化(京阪中書島駅、丹波橋駅)
 
○交通サービスのシームレス化等利便性向上に資する施策
【直通運転化】
 ・ 新大阪駅から和歌山方面への直通特急運転
 ・ 京都駅〜新大阪駅〜阪和線〜関西国際空港への直通特急運転
 ・ 東西線御陵駅〜京都市役所前駅間乗り入れ(京阪京津線)
 ・ 能勢電鉄線〜阪急宝塚線直通運転化
 ・ 山陽電鉄線〜阪神梅田駅相互直通運転化及び区間延伸
 ・ 相互直通運転区間延伸(烏丸線〜近鉄奈良線)
 ・ 嵐山駅〜北野白梅町間直通運転化(京福電鉄)
 ・ 新開地駅〜粟生駅間直通運転区間延長(神戸電鉄)
 ・ 路線延伸(地下鉄6号線動物園前〜天下茶屋駅、地下鉄東西線醍醐〜六地蔵)
 
【利便性向上】
 ・ 相互利用通勤定期券導入(阪急電鉄〜阪神電鉄)
 ・ 終始発時刻繰上げ、繰下げ(大阪高速鉄道)
 
【乗継円滑化】
 ・ ダイヤ調整(阪神本線〜西大阪線尼崎駅、阪急神戸線、宝塚線、京都線)
 ・ ホームtoホーム化(神戸電鉄 ・北神急行電鉄谷上駅、阪神尼崎駅)
 ・ 駅前広場整備
 ・ 駐車 ・駐輪場設置
 ・ 駅前パーク&ライド用駐車場整備(神戸電鉄)
 ・ レンタサイクル(西宮北口駅、岡町駅、桂駅、三国駅)
 
【バリアフリー化】
 ・ エレベータ、エスカレータ設置
 
○都市機能向上に資する施策
【立体交差化】
 ・ 連続立体交差化(近鉄京都線東寺〜竹田間、近鉄生駒線菜畑駅付近)
 ・  〃 (京阪本線寝屋川駅付近)
 ・  〃 (阪急宝塚線豊中、三国付近)
 ・  〃 (阪神本線)
 ・  〃 (南海本線)
 ・  〃 (JR山陰線、山陽本線、阪和線)
 
【移動円滑化】
 ・ 駅前歩道橋と接続した改札口新設(近鉄大和高田駅)
 ・ 地下駐輪場と一体化した地下駅舎化と構外自由通路の新設
 ・ 駅改札口増設(神戸電鉄鈴蘭台駅)
 
【付帯施設の充実】
 ・ 駅構内の行政出張所設置(京阪)
 ・ 高架下の保育施設設置(神戸電鉄)







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION