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講演会の開催 「平成14年度海事講演会海船セミナー2002」講演録

 事業名 海事科学知識の普及啓蒙活動
 団体名 日本海事科学振興財団 注目度注目度5


■第2テーマ「鯨の世界をのぞく」
(1)「鯨のことをもっと知ってみませんか」
講師 財団法人日本鯨類研究所調査部長
西脇茂利氏
司会 本日は船の科学館ならびに海・船セミナーにおこしいただき、ありがとうございます。本年は前半が「SOS!危機に瀕する日本商船隊」というテーマで3回行ったのですが、これから後半の第2回目、「鯨の世界をのぞく」をテーマにして3回講演を行いたいと思っています。
 さて今回のテーマですが、「鯨の世界をのぞく」ということで、今回のセミナーに合わせて昨日より本館3階では企画展「鯨の世界をのぞく」を開催しております。お手元の資料の中にもチラシをお入れしていると思いますが、クジラにまつわるさまざまな展示を行っていますので、よろしければ併せてご見学いただければと思います。本セミナーにご参加のお客様は、お手元のはがきをご提示いただきますと入館料金を団体割引させていただきますので、ぜひお帰りの際にご見学をいただければと思います。
 また、本年度は前半、後半と2回に分かれたテーマになっています。通常は通しで4回以上のご参加をいただきますと参加賞と講演録をお送りしていたのですが、本年に限っては前半もしくは後半3回を通しでご参加いただいた方にも講演録と終了証をご送付したいと思いますので、ご了承いただきたいと思います。
 それでは大変長らくお待たせいたしました。本日のテーマ「鯨のことをもっと知ってみませんか」、こうしたタイトルで「鯨の世界をのぞく」第1回目の講演を行いたいと思います。ご講演をいただきますのは、日本鯨類研究所で調査部長をされている西脇茂利先生です。それでは先生にご登壇いただきたいと思います。拍手でお迎えください。(拍手)先生、お願いいたします。
西脇 日本鯨類研究所の西脇と申します。私は1956年(昭和31年)に生まれました。生まれたときが国際南極観測年で、初めてそちらに繋留されている“宗谷”が南極に赴いたということです。それからぜひとも南氷洋に行ってみたいという思いに駆られて、この研究所に入って南氷洋に行っています。
 一昨年、初めて白瀬中尉が上陸されました白瀬海岸へようやく調査をしながら入ることができて、私としても日本人としてやっと南極の研究者の仲間入りができたのではないかと思っています。南氷洋への思いというのは、私にとって鯨類の研究のほうに進んでいくことになったのではないかと思っています。いまは南氷洋にいるクジラたちをいかにして守っていくのかということで、毎年南氷洋に赴いてクジラの調査をやっています。
 一般にクジラというのはどういうものか、私もどういう紹介をしたらいいかというのがなかなかわからなかったのですが、もう一度自分の中でクジラというのはどういうものかというのを、皆さんにお話ししながら自分も勉強していこうということで、この講演に協力させていただくことになりました。
 今回、クジラということで、私の説明だとわかりづらい部分があるのではないかと思います。そういう点でごく簡単に入る図書として、中公新書に『鯨の自然史』があります。
 神谷敏朗先生の著書で、鯨類の解剖学がご専門で、鯨の生物学を研究する我々にとって、神谷先生から教えを乞うことが多くあります。非常にわかりやすくクジラの歴史等をご説明されていると思います。そういう点で一度手にとって読んでいただければ、生き物としての鯨を理解していただけると思います。
 それから捕鯨というものを理解していただく上で、また同じ中公新書ですが、『南氷洋捕鯨史』があります。これも非常に簡単に手に入る本です。著者の板橋守邦さんは日本がどのようにして南氷洋に赴き、クジラに対してどのような思いで20世紀を進んでいったかということを詳しく書かれています。そういう点で日本人がクジラにどのような思いを持って20世紀を進んできたかということも理解していただけるかと思います。
 それと日本のクジラの研究者が現在、どのような研究を進めているかということで、笠松不二男さん、村山司さんの「ここまでわかったイルカとクジラ」(ブルーバックス)というクジラとイルカがどのような研究をされているかということをまとめた本があります。
 この3冊を見ていただければ、もっと詳しくご理解いただけると思いますので、ご一読いただくようにお願いいたします。それでは講演をさせていただきます。
 まず、皆さんにとって「クジラとは」というタイトルでご説明したいのですが、私にとってクジラというのは、子供のころ給食であり、私は関西の出身なので、食卓にもよく上って食べていたという経験があります。ただ、私にとってクジラというのは、食べ物であったときに非常に固い食べ物だったという印象があったのですが、大学に入って和歌山県の太地というところで実習をしたときに、ニタリクジラというクジラが揚がってきました。今日はそれを久し振りに刺身で食べさせてやろうということで、初めて生肉を食べさせていただきました。
 そのときにカルチャーショックを受けたのですが、当時まで哺乳類の肉がこれほどおいしいものであるのかということが信じられませんでした。当時、ニタリクジラというのはクジラの中でもさほどおいしいものではないという話を聞いていたのですが、これほど美味いものはないという感じでクジラとのつながりができていくことになります。
 それから私にとってクジラというものの中に挙げられるのは、「わんばくフリッパー」というテレビ映画です。イルカと少年と自然を守るというようなかたちで紹介されているアメリカ映画です。そのときにイルカとは友達になれてすばらしい世界が開けるのではないかという感じで、当時からイルカに乗った少年に憧れていました。
 イルカに乗ることはできなかったのですが、それからどんどんクジラというものを見るうちに、私は水産の研究者ですから、クジラが漁業に被害を及ぼしている。特に当時は、マグロの延縄の上前をはねていくクジラがいるということを知りました。このごろよく話題にのぼるシャチというクジラですが、これが非常に大きい害を及ぼしているということで、何とかシャチの害を防ぐ方法を考えられればよかったのですが、シャチより賢くないために、いまだに上前をはねるどころか、解消できないという状況です。
 私にとってのクジラというのは、身近な水産とか漁業といったものとの関係から私の研究が始まっています。
 一言で言ってクジラというのはどういう動物かということで挙げられるのが、このキーワード「海に戻った哺乳類」だと思います。クジラというと海に泳いでいますから、魚の大きなものだと考えると思います。漢字で書くと「鯨」と書きますが、その由来は一番大きいもの、一京の「京」をあて、魚に対して一番大きいものという意味で「鯨」という字が漢字としてあてられています。そういう点で魚としてのイメージを持ったものが多いのではないかと言われています。そういう点では西洋でも魚として見られている部分が多いです。
 ただし、すぐにこれが簡単に哺乳類であるということがわかったのですが、「海に戻った哺乳類」というのは、クジラというものが進化を考えるときになぜ海に戻ったかというのがきわめて重要なキーワードになっていきます。動物の進化において、海から動物というものが発生したということから考えますと、魚類、両生類、爬虫類、哺乳類というようなかたちで辿っていきます。哺乳類というのは、陸上に適応するために海から離れていきました。
 海というのは我々にとってもルーツであるわけですから、海というのは非常に生きやすいという条件だったわけです。そこから離れて陸に上がっていくということは大変な苦労があるわけです。海というのは「さんずい」に「母」と書くように、育まれる環境であるということを意味していると思いますが、そこから脱出して何とか生きていかなければいけないということがありました。それを母が恋しくて海に戻ったのではないと思いますが、また戻っていくということです。これは進化を逆に戻っていくというようなことになります。こういう点がまだまったくわかっていません。
 というのは、哺乳類は陸上で、我々は万物の霊長と言われ、こういう世界を築きました。当時から海は魚の世界になっていました。魚は海の中で一番の世界を築いてしまっていたのにもかかわらず、再度クジラは戻っていって、我々と同様に海の覇者になっていくということになります。要するにいったん陸に適応していった動物が、なぜ水圏のほうにまた変わっていって適応していくのかというのが、そういう点で海に戻ったということが、クジラを考えるうえではきわめて重要なキーワードではないかと思います。
 海に戻ったということで考えますと、こういうことが挙げられます。3つのキーワードがあります。「水中適応のために獲得した形質」ということで、難しい表現ですが、要するに生活しやすいために何か変えなければいけないことがあります。我々がこういう文化を持つために変えたものは何かというと、四つ足の歩行から立って手が自由にきくようになったということです。それで道具が使える。こういう適応によって我々は、文化やコミュニケーションができるというような状況になっています。
 ではクジラは陸上ではないものとして何かをつかまなければいけない。実際に水中生活している動物と泳がれたらわかるのですが、水の中に入ってしまうと我々は何もできない。赤ちゃんのような状態です。哺乳類であるクジラもそういう時代があったことが考えられます。水中生活に適応するために、運動方法、呼吸方法及び生殖方法を変えていきます。
 ここで1つずつ詳しくご説明させていただきます。運動方法ですが、クジラというのは魚と間違えられますように、かたちが魚に近くなっています。哺乳類としては異質なかたちになってしまっているということです。それが運動方法にかかわる関係です。まず体型を変えてしまいました。俗に言う魚雷型というかたちに変えてしまいました。それから前足を、要するに我々がものをつかんだり、ものをつかまえたりするように使うのではなく、彼らの泳ぎを安定させるラダーのような役目をするものに変化させてしまいました。
 それから後ろ足というものは、我々の場合、推進力に使われていたものですが、それが魚雷型にしたことによって抵抗を受けるようになって無駄になりました。仕方がないために、クジラは後ろ足をすべてからだの中にしまい込んでしまいました。いまもクジラのお腹の中には小さいのですが、後ろ足が残っています。それは筋肉の中に押さえ込まれているようなかたちで入っています。そういう点で、我々のように、足腰がつながっているのではなく、まったく離れた状態になって、要するにからだの外には出ないような状況になっています。
 その結果、筋肉を多くつけるようになります推進力(遊泳能力)を獲得します。実際に、紡錘型の体後半分はほとんど筋肉でできています。すばらしい大きな筋肉を持つようになって、推進力を高めるということができました。そういうことで尾びれができて、推進できることによって、遊泳と潜水というような運動能力を発揮できるようになり、魚類を凌ぐ推進力を持ったということです。
 もう1つは、呼吸方法です。我々の呼吸をするところは鼻ですが、鼻は前のほうについています。イヌにしてもそうですし、ネコにしてもそうですし、いろいろな陸上の動物を見ていただくとわかりますように、哺乳類は必ず顔の先端に鼻がついているという状態です。クジラの場合、鼻が先端にあると水を真正面から受けることによって、息ができなくなったり、水を飲んでしまったりというような状況になります。
 そういう点でクジラは、頭のてっぺん、頂上のほうに鼻を移動させるようになりました。テレスコーピングという言い方をしていますが、徐々に進化が進むにしたがって鼻を後ろのほうに持っていったということが挙げられています。それよって水面に上がってきて呼吸をするときに、頭部の頂上を出しておけばクジラは息ができるという状態になりました。
 ご存じない方もおられるかもしれませんが、ダイビングでシュノーケリングという呼吸に用いる筒が上に出ているような状態をつくり出したということです。我々が進化の中では果たせなかったことをクジラが行ったということです。
 もう1つは、水の中ですので抵抗がありますので、外耳と言われる我々の耳の部分、皆さんご存じのように哺乳類は外耳がすごく発達していますが、それを落としました。というのは、外耳というのは空気振動を取るためにどうしても重要なものですが、水の中では抵抗が大きすぎてそれも聞こえない。そういうことで外耳を取り除いてしまうという進化を行いました。
 それでどういうことが起こったかといいますと、近ごろよく骨伝導という話をお聞きになると思います。自分の声をテープレコーダーなどで聞くとちょっとおかしいと思うのはなぜかというと、我々は声を骨で聞いています。クジラはどちらかというと水の中の音を下顎の骨で聞くように進化しました。そういう点でテレスコーピングをすることによって、鼻の位置を変え、外耳の役割を骨でするように進化していったということが挙げられます。
 もう1つは、生殖方法です。哺乳類はすべて水の中で出産するということはありません。唯一水の中で出産する動物は、クジラと海牛目という仲間です。これは俗に人魚伝説に出てくるジュゴンとかマナティーといった仲間です。こういう仲間が水中で出産するということを獲得しました。これはどういうことかといいますと、このごろだと水中分娩という言葉もありますから、皆さん簡単だろうと思うかもしれませんが、水中分娩の問題は何かというと、赤ちゃんに息をさせなければいけないということです。
 我々の場合は超未熟児で生まれてきて育てなければいけないというような状況になりますが、クジラの場合、すぐに一緒に泳いでもらわなければいけません。そういう点で哺乳類の中でもかなり大きな赤ちゃんを生まなければ、彼らは水中では適応できなかったということです。実際に赤ちゃんが生まれるのは、母親の3分の1から4分の1の体長で生まれてきます。生まれたときにはすでにかなり遊泳力がないと、母親についておっぱいを吸えないという状態になりますので、かなり運動能力がある状態で生まれてくる。
 ですから生殖方法を大きく書いたのは何かというと、水中分娩に適応できるようになったということです。それくらい大きいものをつくれるというのは、やはり重力の影響を受けない水中だからできたということも考えられますが、要するに水中で適応できるというものを獲得していきました。
 クジラというと水中で適応したのだから、もう少し進化のことを考えなければいけません。「鯨類への進化」ということで、また難しい言葉を使いましたが、要するに四つ足でほふく前進していたような動物が、なぜまた魚のように泳げるようになり、進化していったのだろうかということです。副題に書いてあるように、「クジラの祖先はメソニクス?」ということです。研究者として恥ずかしい話をします。つい2年くらい前まではメソニクスがクジラの祖先だということを信じて疑わなかったことです。昨年ある雑誌で冷水を頭から浴びせられたような状況になっているのが私だけでなく多くのクジラの研究者です。
 というのは、メソニクスというのはネコとかイヌ、ウシ、ウマなどの共通の祖先と理解していただければいいと思います。大きさもいまの大きいイヌ程度のものが水辺をうろうろ歩いていたと、学生の頃はまことしやかに教えていただきました。それを信用して数十年たっているのですが、メソニクスが本当に祖先かというと、分子生物学(DNA)を調べた研究者は、これはカバとかそのあたりと親戚ではないか。クジラは俗に言う蹄のある動物から進化したのではないかということをDNAの研究者が言い出しました。DNAを調べるとそのようなかたちになってくる。
 私は、DNAは専門外なので、本当かなという感じはしていたのですが、カバとかウマならばまあいいかというのが私の考え方でした。それを解明してくれたのは、昨年、パキスタンあたりで発掘された2種類のムカシクジラの化石です。その化石はまだ四つの足を持っています。四つの足のくるぶしのところを見ると、カバとかウシなどにある非常に特殊なくるぶしの構造をしています。それは俗に蹄のある動物だけしかない特徴です。それを持った昔のクジラの化石が出てきます。それで彼らはメソニクスではなく、蹄のある動物から進化したのではないかということで、私もメソニクスとずっと言っていたのですが、まったく嘘で、「ウソニクス」というような感じになってしまって困っている状態です。







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