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 それからもう1つ、これは練習船の側から見て、練習船はどの部分の役割を負うべきか。やはり基礎的な技術です。この基礎的な技術なくして、応用的な技術はありえませんから、これについてしっかりと教えていく。さらにこれは練習船でしか学べない話、アティチュードです。どういうことかといいますと、船は24時間走ります。走る場は海ですから、今日のような静かな場合もあれば、大時化の場合もあります。そういった非常に厳しい労働環境の中で、当直は4時間交替で行われますが、夜中の0時から朝の4時までその船を安全に運航するという役割を担当する職種もあります。
 そういった場合、いくら知識、技術、意欲があっても、実際にそういう厳しい環境の中でちゃんと正常に仕事ができるかどうか。これは練習船実習で事前にそういう経験をするからこそ備わることであります。その分まで、たとえば船のOJTで船会社が育てようといっても非常に時間がかかりますから、非効率かと思います。これは練習船でしかできない。なおかついちばん重要な1つの資質かと思います。
 それからリーダーシップです。将来的には船長、機関長という、船を運航する人たちを取りまとめて指導する、指揮することによって安全に船を運航する、安全に荷物を運ぶといった仕事をやるわけですから、リーダーシップなしには仕事は務まりません。ましてや外国人船員と日本人船員の両方を合わせてうまく使っていくといいますか、仕事をしていくためには非常に重要なことかと思います。これに適した教育というのは、私の考えでは練習船でしょう。特に帆船です。帆船での教育をどういうふうにとらえるか。技術的なことも覚えられる他にいろいろな利点もあるのですが、帆船では、グループでいろいろな仕事をやっていくといった場面が非常に多いですから、リーダーシップを養う上で適した教育手法であろうかと思います。
 グッド・イングリッシュにつきましてはいままでどおりです。この中でIMOのSTCW条約にあります海事英語についても教えているという話をしましたが、もう1つ、実際の船の運航の場面でそれらの言葉が使われますから、トレーニングは重要かと思います。非常にそれが必要になると思っています。したがいまして練習船での英語の教育というのも、実践的な英語の教育として非常に重要かと思います。
 そういった資質を持った卒業生を育てるために、教育機関がどんなことをやろうかとしていることをまとめてみました。これは私どもの大学の試みということで、来年10月には東京水産大学と統合しますが、新大学の理念ということで文部科学省のほうに、こういう大学をつくりますという報告をしています。その中の言葉ですが、読んでみます。
 海洋の活用、保全にかかる科学技術の向上に資するため、海洋をめぐる工学的、農学的、社会学的諸科学を教育する。工学的な科学というのが、現在行われている船員教育もこの中に入ろうかと思います。これにかかわる諸技術の開発に必要な基礎的、応用的な教育研究を行いますということをうたっています。言い換えれば、海洋にかかる総合的な教育研究の拠点をつくろう。海運、水産関連産業の活性化、食糧危機であるとか環境破壊への対応とか、新たな海洋関連産業、技術の創成、創造といったことをやっていこう。こういう理念を掲げて、統合を考えています。
 この背景としてはどういうことがあったかと言いますと、海運に限らず水産のほうもそうですが、ここに書いておきましたけれども、海運それから水産関連産業がどんどん構造変化を起こしている。それに従事する学卒者、新卒者を出しているわけですが、そういった人材とのミスマッチが非常に大きくなってきているといったものがあるでしょう。それから外的な要因では地球規模の環境破壊や食糧不足、エネルギーの枯渇といった諸問題があります。こういったことにうまく対応できていなかった。今度はこれに対応しようというのが、統合の1つのベースになっています。
 左側に書いてありますのが、東京商船大学に関連した部分です。右側は水産大学ですが、新しい大学は法律改正がありますから仮称ですけれども、一応、東京海洋大学といった名前があがっております。これで申請しているということです。
 その中に2つ学部を設けまして、海洋工学部と海洋科学部です。海洋工学部がいまの商船大学のほうになります。科学部のほうが水産大学です。これを見ていただければ、商船という言葉が1つもないです。やはり水産という言葉も1つも入っておりません。両方、平仄を合わせると言いますか、官庁筋の指導もあって、海洋工学部、海洋科学部ということでまとまっているわけです。
 この海洋工学部の中に、海事システムエ学科、海洋電子機械工学科、流通情報工学科の3つの学科を設けるのです。この中の上2つ、海事システム工学科と海洋電子機械工学科が船員の養成にかかわるコースになります。それぞれの学科が掲げている目標というのは、その下の3つです。海事システム工学科においては、次世代の海事技術者を養成してゆきます。単なる運航要員ではない、もう1つ特色のある人を養成しようということです。次の海洋電子機械工学科では、環境調和型の海洋機械の開発もやろうとしています。それからロジスティクス技術者の養成は流通情報といったコースになります。
 さらに水産大学の系統の海洋科学部と海洋工学部を横断したかたちで、海洋科学技術研究科という大学院を設けます。博士の前期課程と後期課程を置くようなかたちになっています。
 これが船員教育関連の内訳です。海事システム工学科の中に航海システムコースと情報システムコースという2つの名前を付けまして、それぞれ35、30の定員が設けてあります。
 これは3年生のときにどのコースに行くか分けようということを考えているわけです。
 この中の航海システムコースに入った学生が実習も行って、航海士、船長の免状をとることになります。一方、機関士、機関長のほうは、機関システム工学コースが、35。航海システムと同じように3年次から分かれていきます。両方の70名が海技従事者の養成規模ということになります。
 この中でもう少し詳しく話をさせていただきますと、これは私が所属するであろう海事システム工学科の検討している案ですが、基礎教育を2年やりましょう。その基礎教育には、いわゆる一般教養を含め、ここに書いてありますような、ある程度の専門知識プラス航海訓練所の練習船での船舶実習を2カ月、全員にやらせましょうということで、船の運航であるとか、いろいろな現場も含めて実態を見させた上で、3年生になるときに情報システムコースと航海システムコースの2つに分かれようということです。
 航海システムコースでは、船の運航に関する専門的な内容プラス船舶実習もやります。
 情報システムコースで想定しているのは、海運とか船舶といったものを支える、回りで働くような人を想定していまして、ここに書いてありますような内容について講義をやっていこうということです。
 卒業生について、こういったコースで育てた人はどういう人を想定しているかというと、海事情報技術者、赤で括っています船舶運航技術者です。それから情報通信技術者、海事関連技術者といった職種で働ける人を育てようということです。その方法、手法として航海システムコースヘ行った人は、乗船実習科を経れば免状がとれます。乗船実習科に行かないでそのまま卒業する人、それから大学院に行ってさらに勉強する人がいます。もちろん乗船実習科の修了者、免状を持った人間もその大学院に行く道も開けておくといった感じになります。
 要するに繰り返しになりますが、単なる船舶の運航要員だけではなく、プラスアルファ、いろいろな情報システムといいますか、ここで代表しているような海事情報の技術者、船舶の管理を行える人間、行政に進むような人間、こういったカラーを、船の運航に必要な免状というものを1つのベースとして、その上に積み上げていこうというのが考え方です。
 先ほど海事英語についてお話をしましたが、航海訓練所でも新しいいろいろな取り組みをやっています。実習を担当している部分です。その中の1つとして海事英語教育を強化しようという試みが行われています。この背景には外航船員に対する海事英語の要求があります。具体的に細かく書けば、安全管理や荷役、貨物管理、OJT、労務管理、対外折衝、いろいろな場面ですべての仕事が英語で行われるというふうに言っても大袈裟ではないかと思います。そういう状況がありますから、もちろん作文ができなければいけません。
 もう1つは外国人船員の指揮とか管理です。それからこれはIMOの標準ですが、海事標準英語用語集による会話能力が必要です。このいちばん下の海事標準英語という話は、座学でもやっているのですけれども、これをより実践的にしようという試みです。その手法としてまず日本の練習船で行うための資料をつくろうという動きがあります。
 それからこれはもうすでに終わっているのですが、アドバイザーによる実態調査です。商船大学の4年を卒業した乗船実習科の学生について、カリフォルニアの商船大学の副学長に来ていただいて調査を行い、どういった方向で行けばいいかというアドバイスももらったということです。併せて、同じカリフォルニアの商船大学の学生、上級生を一緒に日本の練習船に乗せて、大学の4年生と一緒に訓練をやろう。その中で実践的な英語を教えるには、どういった手法がいいかということを模索しよう。こんな新しい試みも行われております。
 以上、ざっと船員教育の将来についてお話をするために、船員の置かれている現況、それから日本の海運の現況についてもお話ししました。いずれにしてもこういったいろいろな立派なシステムをつくり手法をつくっても、こういうシステムに入ってくる人、目的意識を持った若い人たちが大学に入ってきていただかないことには、できない話であります。そのためには国民の皆さんが日本の海運の必要性、それに付随する船員の必要性をよく理解していただいた上で、若い人の間にいろいろな目的意識を持った、日本の海運で働いてみようといったしっかりした意識を持った人がだんだん増えてくる。そういう人たちが入って一生懸命勉強してくれるというのが前提でありまして、そういったことが可能になるように、今日ここにお見えになっている皆さんのいろいろなお力添えをいただけたらと思います。
 急いでお話をしまして、お聞き苦しい面もあったと思いますが、今日の話を終わらせていただきます。何か質問がございましたら、わかる範囲でお答えしますので、質問をいただけたらと思います。
司会 矢吹先生、ありがとうございました。大変貴重なお話だったと思います。とりあえず先生に拍手をいただきたいと思います。(拍手)
 さっそく手が上がりましたけれども、矢吹先生のほうからぜひご質問をということだったので、ご質問のほうを承りたいと思います。マイクはこれを使ってください。そちらの方から、どうぞ。
質問 2つあります。1つは3ページの左下の明治以来の伝統ということですが、明治以来の伝統というのは、わが国の伝統でしょうけれども、そのべースとなったものはやはりイギリスの関係だと思います。そのへんが1つです。それからこの真ん中あたりに海技大学校というのがございましたけれども、大学というのは大学校の校は付かないのが普通だと思っていますが、ここの大学はやはり特別に校を付けた理由はあるのかどうか、これが1つです。
 それから4ページにグラフがございました。卒業生と就職状況です。就職状況をプラスしたものと卒業生の関係ですが、はっきり言えばこの学校を卒業しても、この関係に行かない、全然別なほうに行ってしまう。たとえばよく問題になる自衛隊の学校を出て、自衛隊に行かずにデパートヘ行ってしまったとか会社に行ってしまったという人はどのくらいいるのか。この2つ、3つについてお願いします。
矢吹 まず明治百年の話ですけれども、やはり明治になってから、日本に海運は必要ですから外国に教えてもらったのです。外国人の船長を雇って、海運も行いながら、なおかつ学校では外国人の先生も雇って、だんだんと自分たちのものにしてきたという意味合いです。
 それから海技大学校の話ですが、これは文部科学省の大学は全部大学ですが、そのほかの省庁が持っております教育機関は大学校で、防衛大学校もそうですが、こういった呼び方をしています。
 それから3つ目は就職の話ですね。この絵にありますように、この就職の数というのは最終的に乗船実習1年間やった、すなわち先ほどありました学部を卒業してから、半年間、乗船実習科に行って、条約で定められた乗船履歴をつけて卒業する。その人たちは受験資格があるわけですが、そういった乗船実習科というコースが終わった人たちについて統計をとったものです。
 だいたい110人いますが、その中の40人くらいが外航ということで、2001年の例では57%が海運です。実際に船に乗る仕事に就いているということです。残りの43%は、ここにもありますように、紫色の部分が造船や海上関連、船、海運に関係した仕事に就いているということです。その他というのは、大学院に進学したとか、仕事に就かなかった人も含めてのその他です。中にはまったく船とは違う、最近、自衛隊の幹部候補生学校に進学する学生もおります。そういった方も含めて、その他ということで数字を整理してあります。その他の大部分は大学院への進学者です。よろしいでしょうか。
質問 何人かは・・・?・・・。
矢吹 食い逃げと言えば、練習船実習をただでやった、その分の話だけになろうかと思いますが、何人かは自分の目的を持って、別の方面に就職している者もおります。食い逃げというよりも、自分が海上で就職しようと思っても、その就職の場が用意されていないというほうが適当かと思います。
司会 ありがとうございました。ほかにご質問のある方、いらっしゃいますでしょうか。はい、お願いいたします。
質問 先ほどから先生のこの大学の英語教育、語学教育の必要性を拝聴しておりましたが、この学校の入学試験に英語はあるのでしょうか。それが1つです。それから仮称ですが、来年10月に東京商船大学と東京水産大学が統合するというお話がありまして、それが東京海洋大学ということになります。現在、私どもはOBですけれども、東京商船大学は越中島にあります。それから東京水産大学は品川に本校があります。キャンパスが2つあるのですが、統合後の大学のポリシーを実現していく大学の本部は、越中島に置かれるのか、品川に置かれるのかということは、お答えにくいでしょうが、われわれのいちばん知りたいところです。
 それと大学に、次に申し上げるような視点があるかないかということを、教授である先生に言うのは少し酷かもしれませんが、申し上げてみたいと思います。私どもがいちばん心配しますのは、日本の置かれている四面環海の地理的条件、および日本の経済機構というものが加工貿易ということで、われわれは経済社会を世界の第2の経済大国にまでのしあげてきました。こういった経済のスタイル、置かれている地理的条件というものは、いまも昔もまったく変わりがありません。
 そこでこのように半ば顕在化している日本籍船の国際競争力の低下、高コスト体質ということですが、こういった経済現象だけをとらえて、船員供給国の安いチープレイバーを持ってきて、それで日本商船隊というものを構成する。いま先生がおっしゃったように、日本籍船、便宜地籍船、単純外国船という構成になっています。プラザ合意以降、われわれの仲間は23,000何名を数えたのが、いまや2,000名ないし3,000名という現状であります。こうなったときに、いま東西対決なんていうような世界の現状ではございませんが、テロですとか地域紛争多発型社会、海賊行為といったいろいろなリスクが存在しています。こういったわが国商船隊の人員がほとんど外国人によって構成されているという現実を踏まえたときに、一朝事ある場合に、安定輸送がなされなければ、加工貿易立国であるわが国の経済はすぐ破綻します。
 この国の経済の基幹機能をなしていたのは99%外航海運であります。大学には、このように一朝事ある場合に、日本経済を支える外航海運が危機に瀕するといった危機意識を要路に説くというか陳情するというか、要路に訴えるというような態度はないのでしょうか。そのへんをお話しいただければと思いますが、簡単で結構です。
矢吹 ありがとうございます。まず英語のほうですけれども、ご承知のようにいまセンター試験が行われていまして、いろいろな必要な基礎的な学力についてはそれで評価しています。さらに2次試験として英語の試験をやっているかどうかということですが、一時やっていない時期もあったのですが、今年の入学生から復活しています。ただ一部の学科ではまだやっていないところもあって、それよりもやはり数学のほうが重要であろうとかいろいろなことがあります。横並びも睨みつつということで、2次試験に英語の試験を今年からは入れています。競争率がてきめんに下がったということもあります。
 それからもう1つ、いちばん最後の質問ですが、私どもがやろうとしている教育というのは、社会のニーズにあった人を養成するというのがいちばんのべースです。なおかつそれに加えて、やはり教育をやるわけですから、応用力と言いますか、そのニーズだけではない、プラス、自分で新しいこういった仕事というものを開発するとか、新しいものをつくろうとか、創造の力を持たせた人間を出そうというのが目標です。
 日本の商船がなくなることについての危機については、これは行政の方が判断する話です。現実に先進国ではすべてそういった国策として海運の保護と、自国海運の必要量は確保しておこうという施策をやっているわけですが、日本も国際船舶制度を始めたのですが、やや中途半端です。この産業にだけそういうことができないという、いろいろな横並びの話が、特に税制とかいうことになれば、あろうかと思います。そういったことは行政、政治の場で判断していただくことであると思います。
 しかしながら私どものほうも当然のことながら、行政とはしょっちゅう打ち合わせの機会を持っているわけでして、こういった問題が生じるだろう。これについて大学としてもこういう方法でいきますという提言は、いろいろな方面に申し上げているところです。よろしいでしょうか。
司会 ありがとうございました。それではもう一方で最後にさせていただきたいと思います。
質問 外国人の船員の比率がずいぶん増えていくようなお話でした。英語教育ということで力を入れておられるようですが、国際的なグローバルな言葉というのは英語に限られているのですか。外国人の船員の比率の概略はおわかりになりますか。外国人の船員はイギリス人だけではないと思います。
矢吹 冒頭にお話ししましたように、海運というのは世界の場で動いていますから、その場で共通の言語といえば英語で、昔から英語でやられています。IMOでの条約に書いてありますように、英語でやろうということで、海事英語の教育が条約で決められています。したがいまして業務については英語で行われるというのが普通です。現在、日本の海運会社が雇っている、いちばん多い外国人船員はフィリピン人です。フィリピン人は英語も話すけれども、タガログ語も話せる。でも実際の船舶運航に関する業務、実務はすべて英語で行われているということです。
司会 ありがとうございました。なかなか難しい問題をたくさん含んでいたようですが、これをもちまして本年度前半の「SOS!危機に瀕する日本商船隊」、本日の矢吹先生の「船員教育から見る日本海運」を終了したいと思います。本日はご来場、ありがとうございました。矢吹先生のほうにもう一度温かい拍手をお願いいたします。
 
平成14年9月15日(日)
於:フローティングパビリオン“羊蹄丸”
 

講師プロフィール
矢吹 英雄(やぶき ひでお)
 
昭和22年(1947)11月25日生まれ。
昭和46年(1971) 9月  神戸商船大学航海科 卒業
昭和46年(1971) 10月  運輸省航海訓練所 助手採用
昭和51年(1976) 10月  運輸省航海訓練所 講師
昭和53年(1978) 4月  広島商船高等専門学校 講師(〜昭和55年3月)
昭和55年(1980) 10月  運輸省航海訓練所 助教授
昭和63年(1988) 10月  運輸省航海訓練所 教授
平成 4年(1992) 4月以降  高等海難審判庁横浜地方海難審判理事所 理事官(〜平成7年5月)
平成 9年(1997) 10月  練習船“青雲丸”船長
平成13年(2001) 4月  独立行政法人航海訓練所 教授
平成14年(2002) 4月  東京商船大学商船学部 教授







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