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3.8 モーダルシフトに係わる検討
3.8.1 モデルの設定と検討・整理
(1)モーダルシフトとは
 モーダルシフトとは、主として、幹線貨物輸送をトラックから大量輸送機関である鉄道または海運へ転換し、トラックとの複合一貫輸送を推進することである。
 複合一貫輸送とは、トラックの持つ戸口までの輸送機能と鉄道、海運の大量性、低廉性(運賃が安い)という特性を組み合わせ、ドア・ツー・ドアでの輸送を完結することである。これにより輸送の効率化、低廉化(運賃が安い)を図ることである。
 現在の輸送は自動車による輸送が圧倒的に優位である。現代の物流の歴史は自動車輸送の歴史ともいえる。自動車が現在のように発達した要因としては、現代の産業の要請に巧みに応えてきたことが挙げられる。小口の輸送や時間指定の輸送が利用者から求められ、自動車による輸送はそのニーズに常に応えられた。
 ただし、自動車による輸送の流れは効率面のみを考えたものであるが、地球環境、生活環境、輸送コスト等といった見方によっては、自動車による輸送は適していない。
 地球環境の面からでは、自動車による輸送は、化石燃料を燃やすことで大量の温室効果ガス(主に二酸化炭素)や大気汚染物質(一酸化炭素、硫黄酸化物、窒素酸化物など)を排出している。地球的規模での環境保全が叫ばれているなか、先進国である日本が環境への負荷が少ない手段で輸送するのは当然と考えられる。
 さらに、自動車の燃料となる化石燃料は現状のまま使い続けると近い将来枯渇するといわれており、石油資源にいたっては100年持たないといわれている。
 鉄道や舟運を利用しても、化石燃料は使用されるが、できるだけ化石燃料の使用が少ないか、使用しない輸送機関を利用することが必要となる。
 生活環境の面からでは、モーダルシフトによって道路を走行する大型車両が減少すれば、交通渋滞の緩和や都市内の駐車スペースの不足、道路沿道の騒音、振動、大気汚染等の改善により住みよい街となると考えられる。
 輸送コストの面からでは、モーダルシフトによって交通混雑が解消され、渋滞緩和を目的とした新たな道路(バイパス)の建設は減少し、鉄道や港湾の整備に投資することで、スペースの有効利用が可能ともなりコスト削減にもつながることが考えられる。また、小口配送が多い現在においては、配送のためのドライバーが多い。配送の一部区間を鉄道や舟運を活用することで、人件費の削減にもつながり、輸送コストが削減できる。さらに、輸送経路が鉄道、河川、道路と多様化することで、緊急時においても物資等の供給が安定的に可能となり、配送の遅れが避けられ、物流システムは効率的になる。これによって、顧客の満足度も向上するものと考えられる。
 
(2)モーダルシフトのモデル事例の整理
 モーダルシフトの事例として文献とヒアリングにより整理した。文献は「モーダルシフト推進の手引き」等に記載されている事例である。
 「モーダルシフト推進の手引き」では、実際にモーダルシフトを行った企業荷主とトラック運送業者によるデータである。その他は、モーダルシフトをシミュレーションしたケーススタディのデータである。
 ヒアリングに関しては、モーダルシフトを行っている業者にシフト前・後の比較を試算していただいたものである。
 
(1)文献(モーダルシフト推進の手引き)による整理
 「モーダルシフト推進の手引き」に記載されているモーダルシフトを実施した企業荷主とトラック運送事業者の日本国内でのモデル事例(24事例)を整理した。モーダルシフト前を100%として集計した結果、車両走行距離、ドライバー労働時間、ドライバーの延人数は大幅に低減されたが、荷役時間の増加(約4割)に伴って、所要時間が約3割増加した。輸送コストについては、15%の削減ができている(各事例の詳細なデータは表−3.8.1に示す。)。なお、このモデルは通常時の輸送におけるモーダルシフト事例である。
 
 
 また、文献には記載されていなかったが、船舶を用いた場合のモーダルシフトについて、CO2の排出量を試算した。その結果、図−3.8.1に示すように船舶を用いることにより約92%(シフト前を100%とすると、シフト後は約8%となる)のCO2が低減される。
 なお、試算に用いたCO2排出量の原単位は貨物車が114g/t・km、内航海運が10g/t・kmとした。この数値は「環境と運輸 1998 交通エコロジー・モビリティ財団 監修 運輸省」に記載されている数値をもとに設定した(図−3.8.2参照)。
 
図−3.8.1 「モーダルシフト推進の手引き」の事例から試算したシフト前後のCO2排出量の割合
 
図−3.8.2 CO2排出量の原単位を設定した数値
 
※試算に用いたCO2排出量の原単位について
 貨物車両は、図−3.8.2の営業用普通トラック「48」と営業用小型トラック「180」を算術平均し、「114=(48+180)/2」とした。
 船舶は、図-3.8.2のフェリー・内航海運「13」と内航海運「10」を算術平均し、「11.5=(13+10)/2」とした。
 
表−3.8.1(1)モーダルシフト事例の整理結果(参考図書:「モーダルシフト推進の手引き」)
(拡大画面:217KB)
 
表−3.8.1(2)モーダルシフト事例の整理結果(参考図書:「モーダルシフト推進の手引き」)
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表−3.8.1(3)モーダルシフト事例の整理結果(参考図書:「モーダルシフト推進の手引き」)
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表−3.8.1(4)モーダルシフト事例の整理結果(参考図書:「モーダルシフト推進の手引き」)
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表−3.8.1(5)モーダルシフト事例の整理結果(参考図書:「モーダルシフト推進の手引き」)
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表−3.8.1(6)モーダルシフト事例の整理結果(参考図書:「モーダルシフト推進の手引き」)
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