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2 議題17(海上テロ)の審議結果
 MSC75会議における、議題17海上テロ防止に関する本会議、WGでの検討概要次のとおり。
 
2−1 出席者(MSC75/INF.1)
 今次会合では、12月に開催予定の海上保安に関する外交会議に向けての実質的な審議が行われたため、各国からコーストガード、海軍関係者の出席が目立った。コーストガードからの出席者を含む代表団はインド、イタリア、フィリピン、セントビンセント、スウェーデン、トルコ、英国(18名)、米国(5名)。
 
2−2 委員会の決定
 MSC75では、MSCの報告としてMSC75/WP.11,同Add1からAdd5までが承認(一部訂正有り)された。17議題については、WGの報告(MSC75/WP.18と同Add.1)を原則承認した(MSC75/WP.11/Add.3,page2,17.63)。
 
2−3 SOLAS条約の改正と適用
(1) 11章を2部に分け、11章の1をSAFETY関係、11章の2をSECURITY関係に整理した。詳細はMSC75/WP.18/Add.1参照。
(2) 適用船舶
 11章の2の適用船舶から、軍艦などとともに政府が所有する非商業活動船が除外されている(MSC75/WP.18/Add.1,ANNEX1,page7,REGULATION2,2)。
(3) 適用港
適用港についてはWGでも意見がわかれ、とりあえず括弧書きで“such”を施し、国際航海に従事する適用船舶(1.1.1から1.1.3)に対しサービスを提供する港湾施設としたが、フットノート10が付けられた。
また規則6の港湾施設の要件(MSC75/WP.18/Add.1,ANNEX1,page9,REGULATION6,5.)が括弧書きとなり、国際航海に従事する船舶が入港するよう設計された港であっても、実際の使用状況に応じて要件の適用を考慮するよう求めている。
これに関連し、原発施設や石油備蓄基地の適用はどうなるのか将来議論となる可能性がある。セキュリティ対策を確保するため適用港湾施設とみなす考え方もあるが、上記ロから適応を狭めようとする考えと衝突する。
 
2−4 船舶保安警報(Ship Security Alarm)について(MSC75/WP.11/Add3,page7,para17.83−86)
(1)警報を受信した陸上施設の対応方法について(page7,para17.84)
MSC75/17/36に関し、WGのコーヒー・ブレイクにおいて我が方対処方針に基づき米国側と意見交換したところ、米国側は我が国の意見に一定の理解を示し、代替案として例えば「交信することで船側に危害を与える可能性があることを十分に考慮する」との表現振りに変更することも可能である旨述べた。
結局WGにおいては検討されず、9月に開催予定のIMO/ICAO会議で検討されることとなった。
(2)警報の誤発射について(page7,para17.83.7)
WG内のSprint Group(SG:WG議長の指示を受け、特定の案件について興味ある者が集まって短時間の内にドラフトを作成するグループ)において、我が方から誤発射対策として誤発射した場合の関係当局への速報を検討する必要がある旨指摘したところ、9月に開催予定のIMO/ICAO会議に対しガイダンスとして提出されるべき案件として認識された。
本件ガイダンスにつきSG議長と意見交換したところ、議長からは、本件は運用要件ではあるものの性能要件とも密接に関係があり、本件の対策に関し両側面を含んだ考え方をガイダンス(案)として、本年7月に開催予定のNAV48に各国から提出してもらいたい旨の要望があった。
(3)警報の性能要件について
WG内のSGでは、米コースゴガード装備担当が会議を主導して駆け足で作成した性能要件(案)を作成、WGの報告ANNEX6として添付した。(page8,para17.85)
委員会はCOMSAR7,NAV48に対し、COMSAR6とDE45の決定及び上記イのANNEX6を含むWGの検討結果を考慮しながら、テロリスト攻撃にあった際の警報の発射方法にっいて取組むよう要請している(page8,para17.86)。
(4)今後の要検討事項
警報受信施設の整備
 GMDSS関連局(ANNEX6)、AIS受信局(MSC75/WP.11/Add.3,page13,17.105,17.106,AISのロングレンジ化参照)
警報のプロトコール確定(ANNEX6関連)
受信時の初動対応要領
A 通報への応答(MSC75/17/36関連)
B 関係課等への情報伝達(庁内、船社、旗国、外国機関(CG、NAVY)、警察等)
C 庁内での一義的対応者の確定
責任範囲
隣接国との調整、協力
警報のテスト(ANNEX6関連)
 テストを行う場合の規制と関係機関への事前・事後通報を含む手続き
誤報の場合の運用
A 誤報である旨の確認方法の性能要件化(ANNWX6関連)
B 誤報した場合の通報義務化(どこで担保するか)
 
2−5 デモ行為(MSC75/17/45)
(1)23日午前WG(本会議への報告案審議)
ドラフティング・グループが作成したISPS code partAの定義(案)に“Security Incident”が新たに挿入された(MSC75/WP.18/Add.1,ANNEX2,Page4,2.1.7)。
これに対し、GP1は現在の定義が一般的過ぎるとして「セキュリティ・プランへの暴行(compromise)に特定すべし」との意見を述べたが2、我が国から「プランへの暴行という言い方は理論的でない」等との反論もあり、結局、変更されないまま残された。
1 発言者 Simon Carrol: Political Unit Adviser, Greenpeace International
2 GP's suggestion
 “Security Incident”means any act which compromises the“Ship Security Plan”or the“Port Facility Security Plan”.
本件につき、DG議長(サイプラス)、米国から情報収集したところ次のとおり。
A WGでの検討中、”unlawful act”という言葉は対象となる幅が広すぎて適当でないとの法律関係者からの指摘があり、他方、”terrorism”では直接的で適当でないとの意見が大半を占めたことから、WG議長からの指示で”unlawful act”の代わりとなる言葉をDGで検討した。
B その際、DGの中から”security Incident”という言葉が提案され、定義も同時に検討された。
C (サイプラス、マルタが指摘する海上デモを念頭に置いて定義したものかとの問いに対し)DGとしては関連付けていなかった。
D (米コーストガードに対し、例えばグリーン・ピースの海上での抗議活動をこれで規制することについて指摘したところ)可能であり有効だと思うとの回答があった。
本定義は、MSC75/WP.18/Add1,ANNEX1,Page6 foot note 9により、規則1.13のセキュリティーレベルの定義にある”unlawful act”を、新たに定義された”security Incident”に変えることを考慮するよう要請している。
なお、(MSC75/17/45)の検討はWGでは行われず、本委員会への報告にも記述されていない。
(2)24日本委員会
WGからの報告に関し、我が国からデモ行為に関するWGでの検討結果について、質問したところ、サイプラスから、本件関しNGOとの間で個別に意見交換を重ねた結果、会議決議の形でまとめる方向で基本的な合意に至り、次回のISWGには決議(案)を提出する予定である旨の説明があった。
これに対しFOEI(Friend of the Earth International)は、本件に関連し、NGOがこれまで海上の安全と環境保護に果たしてきた役割を強調した。
 
2−6 Recognized security organization(MSC75/WP.18/Add.1,ANNEX1,page6,1.15)
(1) ノルウェーは、WGの報告(案)の審議の段階で当該機関の指名について難色を示し括弧付きを主張したが、WG議長の最終的な判断により、本会議におけるWGの報告の際、口頭でノルウェーの意向をコメントすることとなった。本会議での報告でWG議長はその旨付け加えたが、ノルウェーから本会議議長に対し改めて本件につきノルウェーが留保する旨のコメントを行った。
(2) 我が国はWGにおいて、原案が“Recognized Security Organization”とそれぞれが大文字で書かれてあった点について、新しい機関を連想させることを理由に小文字に変えるよう要望、特に反対もなく小文字となった。米国からは、米国としては新しい組織を考えているとのコメントがあった。
(3) 定義では当該機関は、セキュリティと対テロ関係の専門家を有し、この章に定める調査や認証事務を行う機関となっている。
(4) 米コーストガード担当官から本件に関連して情報収集したところ次のとおり。
本件の検討を機に、現状でUSCGが米国内の港湾施設の安全に関し有している権限を更に拡大していく考えにある。
そのため、Port Facility Security Officerの訓練・教育についても、USCGで研修コースを開設し実施することを検討している。
Recognized security organizationもコーストガードと考えているが、いずれにしても今後国内で詰めていく。
(5) ちなみに、JETROニューヨークセンター調査レポートは、米国国内の港湾の脆弱性評価及びブッシュ政権の政策について次のとおり紹介している。(別添参照)
USCGとTRW Inc.との間で国内主要港湾の脆弱性評価実施に係るコンサルタント契約を結んだ。契約は評価と港湾セキュリティ対策のモデル・ガイドライン作り。
ブッシュ政権は2003年会計年度予算要求書において、新しい港湾セキュリティ対策として、USCG内に海上安全セキュリティチーム等の設置するとともに、長期的なUSCGの権限強化等を企画している。
 
2−7 AISのロングレンジ化
(1)ロングレンジ化の必要性
 WGにおいてオランダから、自国としてはロングレンジ化にメリットを感じない旨の発言があったが、WG議長は、各国にはそれぞれ国内事情があるとは承知するも、セキュリティ問題でロングレンジ化を必要としている国が複数ある以上、右を整備する方向で前向きに検討ことが必要との指摘があった。
(2)性能要件
通信頻度と到達距離(性能)については、当初、一日2回から10回、沿岸から500海里からという案がWG小グループから出されたが、WGにおいてそれらの値の根拠と妥当性が議論され、途中SAR海域を適用するとの意見も出たが、SARとは情報の性質と対応が根本において異なる点から、本件は慎重に取り扱う必要があるとの指摘がなされ、結局、WGの報告としては(1)継続して監視するに耐えうる程度前広に(2)船舶の航行の密度を考慮すべき、という点を加え、到達距離も、通信頻度も削除したものとすることで合意した(MSC75/WP.18,ANNEX8,3)。
再度WG小グループでUSCGが主体となって駆け足で作った機能要件がMSC75/WP.18,ANNEX8として委員会に報告され、右は次回NAV48で検討されることとなった。(MSC75/WP.11/Add3,page13,17.105)
またNAV、COMSARは、テロに遭遇した場合の船舶保安警報の送信手段としてAISが使用され、その場合受信局はVTS局となる可能性があることを考慮すべき旨指摘されている(同17.106)
(3)沿岸国の通信費の負担
 沿岸国が特定の船舶の動静を確認するため、任意にポーリング機能を使って位置情報を入手する場合の通信料は沿岸国政府の負担となっている(MSC75/WP.18,ANNEX8,page2,7)。
(4)インマルサットCの活用
ブラジル代表は、今次会合においてAISのロングレンジ化にからめインマルサットCのポーリングを利用した「長距離認識・追尾システムLong range Identification and Tracking System」の活用を熱心に強調し、ANNEX8の中で同システムの優位性を挿入することに成功している(同ANNEX8,para5,para8。なおブラジル代表がSGで席上配布したペーパーMSWG4/Rev.1を添付する)。
関係者から情報収集するもブラジルの真意は明かにならなかったが、同システムが国際的なネットワークに普及した場合にブラジル個別に何らかの経済的利益があるものと思料する。
本システムが採用された場合、同システムが陸側の担当機関が船舶を呼び出して情報を入手するポーリングを活用するものであり、上記(3)により担当機関が通信料を支払うこととなった場合、経済的負担は莫大なものとなる。
セキュリティの確保を目的としたAISのロングレンジ化自体に反対する理由は見つけにくいものの、同目的のためのインマルサットの活用については、使用料負担の点から早急に我が国として対応を検討する必要がある。
 
2−8 CONTROLE(セキュリティ要件を満たさない船舶への対応:規則9案)
(1) WGに対しDGが作成した案をもとに検討したが、各国からは、(1)どうやって事前に要件違反であると確認するのか(2)要件に違反していなかったことが判明した場合、入港遅延に対する損害賠償はどうするのか(3)SUA条約(Suppression Unlawful Act)との整合性はどうするのか(4)PSCとの関係は、等の質問・意見が出され、結局、本件は非常に繊細な問題で十分な考慮を必要とすることから、WGとしては全体を括弧つきで本会議に報告、本会議では各国が持ち帰って検討することとなった。日本も17.111bisのギリシャの意見を支持した。
(2)
今後、(1)本規則の必要性(2)担当組織(3)情報交換等について検討する必要がある。(MSC75/WP.1/Add.3,17.107-111bis)
 
2−9 今後の予定(MSC75/WP.11/Add4)
本年 7月8〜12日 NAV48
  9月9〜13日 第二回ISWG(ロンドン)
  9月30日〜10月4日 ICAO/IMOワーキング・グループ(香港)
  12月2〜13日 MSC76・外交会議
来年1月   COMSAR7







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