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私はこう考える【北朝鮮について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2000/06/22 産経新聞朝刊
【正論】南北首脳会談 平和的共存の制度化に意義 /静岡県立大学教授 伊豆見元
 ◆無条件の称賛は禁物だ
 朝鮮半島分断後初めて実現した南北首脳会談は、六月十四日に金大中大統領と金正日国防委員長が直接署名した「南北共同宣言」を発表し、限られた範囲とはいえ対立関係の解消と協力関係の進展に貢献しうる合意を成立させて終了した。開催の直前まで、果たして会談は開かれるのか、金正日国防委員長は表舞台に登場するのか−といった疑問が厳然と存在していたことを想うと、両国指導者間に六時間以上にも及ぶ話し合いの機会が持たれただけでも、成果はあったと評価できる。それは、将来の「和解と統一」へと向かう貴重な第一歩となり得るからである。
 もっとも、現時点において、今回の結果を無条件に称賛することも慎まねばならない。五項目の合意事項からなるこの「南北共同宣言」には、具体的に軍事的緊張緩和を目指す合意が含まれていない。だが、それなくして朝鮮半島の冷戦構造に終止符を打ち得ないのはもとより、「和解と統一」を目指す基盤が脆弱なままであり続けることは自明の理である。
 南北朝鮮は、朝鮮戦争の完全終結を導く平和協定の締結や、双方合わせて一五〇万人にも達する通常兵力の削減、北朝鮮の弾道ミサイル開発・配備・輸出の中止、「朝鮮半島の非核化に関する共同宣言」の完全履行などといった課題に、早急に取り組み始める必要があるだろう。そうした措置が着実に進展を見せたとき、われわれは初めて歴史的な南北首脳会談の成果を諸手を挙げて歓迎することが可能になると思われる。
 ◆新たな段階の統一問題
 ところで、今回の金大中・金正日会談について注目される点は多々あるが、わたしにとっては、「共同宣言」の第2項−「南と北は、国の統一のための南側の連合制案と、北側の低い段階の連邦制案が互いに共通性を持つと認定し、今後この方向で統一を志向してゆくことにした」という合意内容−がとりわけ印象深かった。朝鮮半島の統一問題が、新たな段階に入ったことを、それは強く示唆していたからである。
 ピョンヤンからの帰国後、空港で韓国民にたいする報告をおこなった金大中大統領は、北朝鮮が統一方案に重大な修正を加えたことを明らかにした。すなわち、「高麗連邦民主共和国」制度のもとで、これまで中央政府に属すとされてきた外交権と軍隊統帥権を、南と北の各地方政府がそのまま保持し得る方向に、最近北朝鮮は修正したというのである。その結果、二つの制度と二つの政府の存続をそのまま認める韓国の「南北連合」構想とのあいだに共通性が生じることになり、今回の「共同宣言」における合意へといたったわけだが、これで話し合いによる平和的統一実現の可能性は、従来に比して高まったと考えられる。
 もとより、ここで言う統一とは、「赤化統一」や「吸収統一」を指すものではない。この点は、金大中大統領も明確に否定している通りである。一つの制度による一つの国家という、いわば伝統的な統一の概念ではなく、南北間の制度化された平和的共存の状態に「統一国家」という冠を被せるという、全く新しい概念に基づく統一の形態である。それを今回、両国の首脳は編み出したと言うべきだろう。
 ◆高くなる日米の役割
 こうした形態の統一であれば、たしかにその実現の可能性は相対的に高くなったと見ることが出来る。南北が互いの統一方案に共通性があることを認め合ったこともさることながら、今回の合意によって、南北双方は今後、「統一に向かう」という目標のもとに、一つの制度にもとづく完全な統一ではなく、「国家と国家が平和的に共存する」ことを目指すようになると予想されるからである。金大中大統領と金正日国防委員長は、すでに「一つの制度にもとづく完全な統一」の先送りに関して、完全な見解の一致をみているのではないだろうか。
 この新たな統一の形態は、周辺諸国にとっても基本的に歓迎されるはずである。「一つの制度にもとづく完全な統一」を志向することは、いかに平和裡に実現するにせよ、そこにいたる過程で多くの混乱と不安定を招来する可能性があるし、しかも南北の当事者をはじめ周辺諸国に多大な負担を強いるかもしれない。その点を考慮すれば、統一という名のもとに南北間の平和的共存が制度化されることは、周辺諸国の目に好ましく映るであろう。問題はそのさいの在韓米軍と、北朝鮮の大量破壊兵器開発プログラムの扱いである。今回の合意に従えば、統一後も南北双方は、それぞれ外交と軍事を独立的・個別的に行使することになる。それ故、在韓米軍の存在は、米韓の見解が一致しているかぎり、統一後も維持されると言ってよい。だがその一方で、南が北にたいして「大量破壊兵器の放棄」を要求しても、それが統一の前提条件に位置づけられることはないだろう。
 このように考えてくると、北朝鮮の弾道ミサイル問題と核兵器開発問題を処理するうえで、日米両国の果たすべき役割は、今後より一段と重要になってくるものと思われる。(いずみ はじめ)
著者プロフィール
伊豆見 元 (いずみ はじめ)
1950年生まれ。
中央大学法学部卒業。上智大学大学院修了。
平和・安全保障研究所主任研究員、静岡県立大学助教授、米ハーバード大学客員研究員等を経て現在、静岡県立大学現代韓国朝鮮研究所センター所長。
 
 
 
 
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