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◆「李会昌政権」誕生と米韓同盟強化を懸念
 北朝鮮はブッシュ大統領の「悪の枢軸」演説や韓国訪問に激しく反発している。事実、ブッシュ訪韓後の二月二二日、北朝鮮外務省は「我が方の体制に対するブッシュの妄言は・・・対話否定宣言と同じ」であり、「侵攻の口実だけを探すために提唱している」と断定しただけでなく、ブッシュ大統領個人の人格まで攻撃した。元旦の三紙共同社説が社会主義制度の擁護を訴えて、「第二、第三の苦難の行軍も辞さない」と宣言したのと同じく、北朝鮮側が「制度変更」の要求に極めて敏感になっていることを示すものだろう。
 しかし、北朝鮮指導部の対応はそれほど単純でも、直線的でもない。「悪の枢軸」演説の後に朴吉淵国連大使が言明したように、現在までのところ、むしろ「対話と交渉による問題解決を望んでいる」というのが実態である。事実、北朝鮮の今年前半の政治日程を見るならば、二月の金正日還暦行事の後にも、四月に金日成生誕九〇周年や人民軍創建七〇周年が控えているし、それ以後も、サッカー・ワールドカップ大会の時期に「アリラン祭典」を挙行し、海外から大勢の観光客を誘致する。
 従って、北朝鮮側の激しい反発にもかかわらず、朝鮮半島情勢が複雑化するのは本年後半以降のことである。韓国で大統領選挙が実施される一二月までの間、ブッシュ訪韓時に表面化した韓国内の反米ナショナリズムに勇気付けられて、北朝鮮は米韓の亀裂をさらに拡大するために全力を傾けることになりそうである。ブッシュ政権やそれと協力する保守派を「戦争志向・反統一勢力」、それに反対する進歩派を「平和愛好・民族勢力」と規定し、後者との連帯を模索するだろう。
 また、その意味で注目されるのが、ブッシュ非難と並行して、北朝鮮が保守派の有力な大統領候補である李会昌総裁(野党ハンナラ党)に対する激しい非難を開始したことである。二月六日の中央放送と平壌放送は、李会昌総裁を「米国好戦狂の走狗、第一級の事大売国奴」と規定し、北朝鮮の大量殺傷兵器の開発中断や通常戦力の後方配置に関する李総裁の訪米中の発言を強く非難した。前述の日米韓協調の再構築と関連して、北朝鮮は明らかに李会昌総裁の大統領当選とそれによる米韓同盟の再強化を懸念しているのである。
 筆者は、少なくとも現段階で、ブッシュ政権が北朝鮮に対する軍事行動(外科手術的なピンポイント攻撃)を企画しているとは考えない。また、北朝鮮が早々に対話努力を放棄したとも考えない。さらに、米朝対話の再開が困難であっても、北朝鮮は南北対話や対日関係において、限定的な融和措置を取るかもしれない。しかし、ワールドカップやアリラン祭典が終了した後も米朝対話の再開に失敗し続け、そのまま韓国大統領選挙の投票日を迎えるようなことになれば、朝鮮半島情勢の緊張は避けられないだろう。
著者プロフィール
小此木 政夫 (おこのぎ まさお)
1945年生まれ。
慶應義塾大学大学院博士課程修了。
韓国・延世大学校留学、米国・ハワイ大学、ジョージワシントン大学客員研究員などを経て、現在、慶應義塾大学教授。
 
 
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