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2001年1月号 『世界』
「日本人拉致疑惑」を検証する[上]
和田春樹
◆はじめに
 北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)による日本人「拉致疑惑」という問題が近年大きな国民的な問題となり、日朝間に横たわる最大懸案の一つとなっている。今日、この問題の解決を考えることは北朝鮮に肉親を拉致されていると信じている家族の心情を思えば、それ自体として焦眉の急であり、かつまた日朝交渉の促進、日朝国交樹立のためにも解決を求めるべき重要な課題である。
 もとより外国の工作員が、わが国から何人であれ個人をその意に反して拉致したとすれば、それはその被害者当人の人権侵害であるのみならず、わが国主権の侵害行為であることはいうまでもない。外国の政府関係者の関与が明らかである場合には、拉致された人の原状回復、日本への帰還を政府国民が当該政府に要求するのは当然のことである。二七年前に発生した金大中氏拉致事件のさい、氏の原状回復を求めて声を挙げた私として、その認識にいまも変化はない。
 今日言われている北朝鮮「拉致疑惑」問題の解決を求めるには、つねにそうであるように、まず問題の来歴を調べ、問題の本質と構造を考究しなければならない。「疑惑」の根拠を検証し、その根拠があるならば、その根拠の性格に応じた問題の提起、要求の仕方を確定し、相手国とわが国との関係の中で解決の方途について現実的に探求することが必要である。
 
 
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