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◆歴史観なき無定見発言
 細川首相の記者会見発言以来一ヵ月(拙稿執筆時点)が経過した。この「太平洋戦争侵略論」に心ある国民から激しい抗議の声があがっている。しかし、それに対し、同首相および、同様発言をした羽田外相、さらに小沢氏は公的には何も答えていない。本当に考え抜いての記述や発言なら反論なり釈明が可能なのではなかろうか。一人の政治家がどう戦争を評価をしようとそれは自由だ。しかし細川氏は一国の総理であり、羽田氏は副首相兼外務大臣である。その発言は「政治家個人」では済まない。
 細川首相の場合は、記者会見のみならず、国会の所信表明演説の場でも重ねて「過去のわが国の侵略行為や植民地支配など多くの人々に耐え難い苦しみと悲しみをもたらしたことを改めて深い反省とおわびの気持ちを申しのべる」といって新たに植民地問題を追加した。
 この細川首相の発言は軽率どころか誤りである。内閣総理大臣は国家の最高責任者である。その権力者が、「太平洋戦争」が侵略戦争であったとか、植民地支配で苦痛を与えたから反省とお詫びをするなど、むつかしい歴史評価と関係諸国との間に重大な政治的な紛争を引き起こしかねない微妙な問題を軽々しく発言してはならないのだ。
 内閣総理大臣に、このような歴史評価が許されるなら、次の首相が、まったく正反対の歴史評価をすることも可能だし、それは現実に起こりうることでもある。その都度歴史教科書(社会科)を書きかえなければならなくなる。慰安婦問題では現実にそういうことが起きてきている。内閣総理大臣の判断一つで歴史評価が変わる。変える方は気分がよいかも知れないが、それは混乱を引き起こす以外のなにものでもない。第一こんなことは民主主義とは無縁なものだ。
 わが国の近隣諸国にも最高責任者が変わる度に歴史評価をかえている国がないわけではない。いま、わが国がなぜそんな選択をしなければならないのか。それも定見があってやるのならまだしも、いまだ、批判についてなにも答えることができないでいるということはほとんどなにも考えず、連立政権樹立の方便として利用したとしか思えない。
 「これ(戦争への反省)を解決しないと、アジア諸国との間にトゲの刺さったような感じをぬぐえない」(首相周辺)「同時に、戦争責任の明確化は、憲法や自衛隊など、食い違いばかりが目立つ連立政権(新生党幹部)の中で、政策的に一致できる数少ない点の一つであった」(朝日新聞八月十四日)ことが真相に近いとあれば、この人たちは、アジアや太平洋のことがなにもわかっていない集団といわざるをえない。
 
 
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