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私はこう考える【北朝鮮について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


◆“融和”の美名に溺れた盧泰愚政権
 金日成政権を「孤立させてはならない」論の誤りを今少し検証してみる。
 韓国の前盧泰愚政権は、一九八八年七月、金日成政権は、何も変化していないのに、世人の目を引くために、突然、いままで北韓を「敵」と規定してきたが、今後はパートナーとして対処するという内容の「七・七宣言」なるものを発表、対北融和政策にふみ切った。
 この宣言にもとづいて、いわゆる北方外交なるものが華やかに展開され、東欧の旧社会主義諸国と次々に国交を樹立、一九九〇年九月には旧ソ連と、九二年八月には、中華人民共和国と国交を樹立した。これは韓国が北朝鮮の友好国と国交を結ぶことによって、「南朝鮮を米帝の植民地から解放する」という金日成政権の誤った認識を南北共存にかえさせるというものであった。
 盧泰愚政権は、このような外交と同時に、南北の首相会談のなかで、金日成政権を南北共存に導くために次のような譲歩を行った。金日成政権が核査察協定に署名・批准することを条件に韓国と米国に求めたものは、(1)韓国内からの米軍の核兵器の撤去、(2)チームスピリットの中止、(3)朝米高位級会談の実現、(4)南北の統一は、外国勢力を排除し、自主的に行う―というものであった。
 (1)の韓国からの米軍の核兵器の撤去は、ブッシュ政権の世界戦略の一環でなされたものであるが、韓国内から戦術核は撤去された。
 (2)は、韓国は、米国の意向を強引に押し切って一九九二年のチームスピリットを中止した。(3)は、一度だけだが実現した。(4)は、一九九一年十二月十二日「南北間の和解と不可侵及び協力交流に関する合意書」が、同年十二月末日には「朝鮮半島の非核化に関する宣言」が締結され、北の主張する民族の自主が通った。このように金日成政権の要求のほとんどが実現したのである。
 あまり知られていないことなので再度紹介するが、合意書が締結された翌日(九一年十二月十三日)、盧泰愚大統領(当時)は、彼を訪問してきた北朝鮮の延亨黙首相(当時)に向かって「歴史的な合意書を採択できたことは金日成主席の勇断があったから」だとか、「統一問題を立派に解決して大きな金字塔を築き、その栄光を主席にまず贈りたい」と発言したと朝鮮中央通信(十二月十三日)がソウルから送信した。盧泰愚政権は、最後までこの報道を否定しなかったところをみるとこの発言は本当であったと解さざるをえない。
 以上みたごとく、盧泰愚政権は、金日成政権を、パートナーとみなし、南北共存体制を朝鮮半島に実現すべく努力をした。言葉をかえていえば、金日成政権を孤立化させないために「合意書」や「宣言」に調印、チームスピリットまで中止し、統一問題を立派に解決、その栄光を金日成に贈るという信じ難い発言までした結果は一体どうなったのだろうか。
 関係者周知のように、咋年十月韓国の国家安全企画部(情報部)は、韓国内に秘密裏に結成されていた朝鮮労働党を摘発した。その規模は、国家保安法に基づき起訴されたもの約七十名、関連者約四百名、その範囲は、金大中大統領候補の秘書をはじめ、労働、学界、政界、言論界、教育、文化、宗教界など、地域もほぼ全国に及ぶかつて例をみない大規模なものであった。
 これは何を意味するかといえば、金日成政権は、表で南北高位級会談を推進しつつ、裏では韓国人を労働党に組織し、韓国の政権を内部から革命という名によって打倒し、同政権のイニシアチブで韓国を北に併呑する作業を行っていたということである。
 また、南北間に「合意書」や「宣言」をかわし、国際原子力機関(IAEA)の査察を受け入れながら時間を稼ぎ、裏で核兵器の開発を着々と進め、それが判明しそうになるやNPTから脱退を宣言したということだ。この五年間の盧泰愚政権の対北政策は、金日成政権を「孤立させてはならない」。南北共存に移行させなければならない―という主観的な願望以外のなにものでもなかった。その結果は、金日成に自分の足元に朝鮮労働党の地下党を作られ、核兵器で韓国の安全が脅かされることになったのである。
 盧泰愚前大統領は、辞任の挨拶のなかで、北方外交を自分の業績の筆頭にあげていたが、旧共産圏との国交樹立は、共産主義体制の崩壊過程で、特に韓国が努力しなくとも、彼らの側から韓国に国交を求めてくる情勢にあったのだ。従って特別に評価の対象になるようなことではなく、問題は、「北方外交」の目的であった北が南北共存に移行したかどうかである。それはなかった。だとすれば、盧政権のやった金日成政権への融和政策(非孤立化)は、韓国人の北への警戒心を失わせ、金日成政権の核開発に手を貸したことしか残らなかったのではないか。
 このように、金日成政権への融和政策は、結果として韓国の安全保障はいうまでもなく、東アジア全域の安全を脅かす深刻な事態を作りだしたのである。その責任はきわめて重い。
 ところが、金泳三政権は、前政権の取り返しのつかない決定的な誤りから学ぼうとする姿勢はまったくなく、いまみたように盧政権と同じことを口にしている。宮沢政権も日本の他のマスメディアもなんの反省もなく、また北朝鮮を「孤立させてはならない」といいだしている。
 同じ過ちを繰り返す理由は、金日成政権を話せば分かる相手と思っているからだ。もっといえばわれわれと同じ価値観をもった政権だと誤解しているからである。「孤立させるな」というが、朝鮮戦争をはじめたのも、武装ゲリラを繰り返し韓国に侵入させたのも、南侵地下トンネルを掘ったのも、朴正煕・全斗煥元大統領に加えたテロも、大韓機を爆破したのも、西側が金日成政権を孤立させたから起きたものでは一切ない。
 このすべては、彼らの間違った「韓国は米国の植民地、歴代の政権は『カイライ』。それを解放するのは正義の闘い。従って手段は選ばない」という「革命理論」から発した主体的な行為なのである。金日成政権にとっての核兵器は、「南朝鮮」を「解放」するために必要不可欠な「決定的兵器」という位置づけになっている。
 いわばこのように救いようのない時代錯誤に陥っている政権なのであるが、時代錯誤という点では、あさま山荘に立て籠もった連合赤軍と本質的には変わらないのである。北朝鮮を「孤立させてはならない」という主張は、武器をもって社会に立ち向かっている連合赤軍を孤立させてはならないといっているのと同じことだ。NHK解説委員氏の経済援助論や現に韓国の一部企業がやっている北朝鮮への経済協力は、あさま山荘の連合赤軍に援助せよ。あるいは援助しているのと同質のものなのだ。これほど単純な事実を取り違えるのは、金日成政権の本質をみようとしていないからである。
 
 
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