日本財団 図書館


産経新聞朝刊 2003年4月17日
主張 拉致事件 強い姿勢で解決迫るとき
 
 拉致事件が膠着(こうちゃく)状態に陥り、被害者や家族らの怒りと悲しみが増している。北朝鮮が何もこたえようとしないからだ。非はすべて北朝鮮にある。日本は今後も、拉致事件を最優先課題とし、その解決なしには他の交渉に応じないという姿勢をさらに強めるべきである。
 昨年十月十五日、蓮池薫さんら拉致被害者五人が北朝鮮から帰国して半年が過ぎた。故郷の市役所に就職するなど、五人はそれぞれが日本での自立への一歩を踏み出したが、拉致事件自体は何も進展していない。五人の子供たちは北朝鮮に残されたままだ。北朝鮮が「死亡」とした横田めぐみさんらについて、説明の不自然な点など約百五十の質問を出したが、返事はない。不誠実極まりない態度である。
 拉致事件は北朝鮮の国家犯罪であり、絶対に他の外交交渉との取引などに使ってはならない。パウエル米国務長官も「拉致問題が解決しない限り、米朝関係は解決しない」と明言したと伝えられる。日本政府はこれと歩調を合わせ、北朝鮮にあたるべきだ。
 しかし、このところの外務省の対応には、疑念が残る。川口順子外相は、被害者の曽我ひとみさんが「家族をばらばらにしたのは誰か」と問いかけたことについて、「いろんな複合的な力だろう。それが歴史ということだ。大勢の個人個人の犠牲が歴史に刻まれている」と述べ、原因は日朝間の過去の歴史にあるとした。何を考えているのか。家族をばらばらにしたのは、北朝鮮をおいてほかにない。川口外相の外交感覚を疑わざるを得ない。
 最近、家族会の訪米により、米国でも拉致事件への関心が高まっている。欧州連合(EU)は北朝鮮の人権状況を非難する決議案をジュネーブの国連人権委員会に提出し、拉致事件解決などを求めた。二十二日には、その国連人権委で拉致事件に関する作業部会が開かれ、めぐみさんの母、早紀江さんらからのヒアリングが行われる。拉致事件では、国連の力も借りたい。
 北朝鮮は核問題でも、頑(かたく)なに米朝対話だけを求めてきたが、イラク戦争で見せた米国の軍事力に脅威を感じたのか、米国、中国との三国協議に応じた。日本が含まれず、北朝鮮がどこまで軟化したのか不透明だが、これを機に拉致事件の進展も期待したい。
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION