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産経新聞朝刊 2002年10月16日
社説検証 拉致事件 解説 朝日は日朝正常化に重点
 
 拉致事件が全国紙の社説で取り上げられるようになったのは、警察庁が大韓航空機を爆破した北朝鮮の女性工作員(金賢姫)に日本語を教えた日本人女性(李恩恵)の身元を特定し、「拉致された可能性がある」と発表した平成三年五月以降である。朝日は拉致事件よりも日朝国交正常化に重点を置いた。これに対し、毎日、読売、産経は、拉致事件の解明を重視する社説を展開した。
 日本政府が横田めぐみさんを含む七件十人の拉致事件を認定した平成九年は、産経が拉致事件解明と、北朝鮮への安易なコメ支援の中止を繰り返し訴えたが、朝毎読はほとんど書いていない。
 二〇〇〇(平成十二)年六月の南北首脳会談をきっかけに、朝毎読もひんぱんに拉致事件を社説に取り上げるようになった。朝日は「ともにバスを動かそう」と、拉致事件などにとらわれず日朝交渉を再開することを促したが、毎日は「拉致疑惑解決は外せない」、読売も「拉致事件を棚上げして交渉を進めることはできない」とした。産経は「バスに乗るのが最後になってもいい」と、朝日と全く逆の主張を展開した。
 同年九月、拉致実行犯の辛光洙・元服役囚が韓国から北朝鮮へ送還されたときは、特に毎日と産経がこの韓国の措置を強く批判した。
 今年一月のブッシュ米大統領の一般教書演説で、北朝鮮がイラク、イランと並ぶ「悪の枢軸」と名指しされたことにより、北朝鮮は“対話路線”に転じた。朝日は「この機運を生かせ」(5月1日)と北朝鮮の変化を歓迎したが、毎日は「本物かどうか、慎重に見極めることも重要」とし、読売も「北朝鮮の意図を慎重に見極めて対応しなければならない」とした。産経は米国の対北強硬論を評価したうえで、「微笑外交に惑わされるな」とクギを刺した。
 九月十七日の日朝首脳会談に向けても、朝日が日本の“植民地支配”に対する謝罪と反省の必要性を強調したのに対し、毎日、読売、産経は拉致事件の解決を強調した。
 日朝首脳会談で金正日総書記は拉致の事実を認め、謝罪したが、被害者五人が生存しているものの、八人が死亡したという報告は日本国民に衝撃を与えた。翌十八日からの各紙の社説は、一様に北朝鮮への非難の度合いを強めた。しかし、首脳会談で署名された日朝平壌宣言については、朝日が「期待こめる国際社会」(9月19日)と評価したのに対し、毎日は「拉致事件を『遺憾な問題』として謝罪の文言を盛り込めなかった」(9月19日)とし、産経も「拉致のくだりが一言もなかった」と批判した。(石川水穂)
 
 
 
 
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