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読売新聞朝刊 2000年8月21日
社説 日朝交渉再開 原則的な立場を堅持して臨め
 
 第十回日朝国交正常化交渉が二十二、二十四の両日行われる。
 歴史的な南北首脳会談や中露両国との首脳会談、東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム参加など、北朝鮮が積極外交を展開し、朝鮮半島をめぐる国際情勢に顕著な変化が現れて以降、初めての日朝交渉となる。
 北朝鮮が、地域の平和と安定に向けて本当に動き出したのかどうか。日本として、直接、真意を確かめる好機だ。
 もし、局面を前進させる意思が北朝鮮にあるならば、日朝間の懸案である日本人拉致(らち)問題や、日本及び地域の安全保障を脅やかすミサイルの開発・配備について、問題解決への姿勢が示されるべきであろう。
 だが、北朝鮮の金正日総書記が、先に韓国マスコミ社長団と会見した際の対日関係発言を見れば、見通しは厳しい。
 見過ごせないのは、暗に拉致問題を指して、日本が「不当な解明を求めている」としていることだ。国家主権を侵害し、人道上も許容しがたい問題の解決を求めることが「不当」とは、それこそ極めて不当な発言と言わざるを得ない。
 先のプーチン露大統領訪朝の際、金正日総書記は、外国の衛星打ち上げロケット提供を条件にミサイルの開発断念の意向を示したと伝えられていた。
 ところが、金正日総書記はこれについて「笑い話だった」と語り、ミサイル開発を続ける考えを示したという。
 自らの権力の源泉を「軍事力」と明言していることと合わせ、地域の軍事情勢や安保環境に好ましい変化をもたらす考えはないということだろうか。
 そうだとすれば、国際社会の期待を大きく裏切るものだ。半島の緊張緩和への安易な楽観ムードを戒めるものでもある。
 今回の日朝交渉では、こうした点について北朝鮮に説明を求める必要がある。
 政府は、食糧不足とされる北朝鮮に対して、人道支援を理由にした追加のコメ支援を行うことを検討している。
 日朝対話を継続し、深めることは、地域の安保環境の改善や、拉致問題などの懸案解決のためにも重要だ。コメ支援には、その環境作りという面もある。
 だが、拉致された日本人や、その家族の苦しみという問題の進展がないまま、コメ支援を行うことには、多くの日本人は納得出来ない思いを抱くだろう。
 人道支援には、北朝鮮側も、拉致問題への誠実な対応などでこたえるべきだ。
 戦前の植民地支配時代の「過去の清算」による国交正常化は必要だ。
 しかし、日本人拉致という国家主権の侵害を認めず、ノドン・ミサイル配備などで現実に日本の安全に脅威を与えている現状では、正常な国家関係は持てない。
 金正日総書記は、「自尊心を曲げてまで国交正常化はしない」と語ったという。これは、むしろ日本側が口にするにふさわしい言葉だ。政府は、毅然(きぜん)として日本の原則的立場を貫いてもらいたい。
 
 
 
 
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