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読売新聞朝刊 1991年2月1日
社説 納得のいかない日朝交渉での北朝鮮の主張
 
 日本と朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の間の第一回国交正常化交渉は双方の原則的立場が鋭く対立して終わった。
 北朝鮮はほんとうに日本との国交正常化を望んでいるのだろうか。そんな疑問を抱かざるを得ないほど、北朝鮮側の主張は納得のいかないものだった。
 北朝鮮側は戦前、戦中の日本統治時代について、日本と朝鮮人民の間に交戦関係があったとして、戦争賠償を要求した。
 言うまでもなく、太平洋戦争で日本がポツダム宣言を受諾し、連合国側に無条件降伏した結果、旧朝鮮は日本の統治を離れ、連合国側の意思によって、独立を回復した。旧朝鮮が日本と戦争した結果ではない。旧朝鮮は連合国の一員ではなかった。
 戦前、戦中に現中国・東北部などで抗日ゲリラ活動が存在したのは、事実だ。北朝鮮側はその指導者が金日成主席としているが、ゲリラ活動の存在だけで、旧朝鮮と日本が戦争していたとは言えない。
 日本統治時代の財産関係は、国際法上、日韓間と同様、請求権の問題として処理されるべきである。
 北朝鮮側はまた「戦後四十五年の償い」を求める根拠として、朝鮮半島の南北分断や朝鮮戦争について、日本に「責任」があり、その後、日本が「敵視政策」をとり、北朝鮮に被害を与えたと主張した。
 南北分断は日本が決めたわけでもないし、朝鮮戦争に日本が参戦したわけでもない以上、その後の日朝関係を含め、そもそも、日朝間で国際法上の責任を論議するような問題ではない。
 だが、念のために指摘しておきたい。
 北緯三八度線は、米国案をソ連が受け入れ、朝鮮半島の日本軍の武装解除にあたる連合国側の地域分担の境界線として採用された。日本の意思は全く介在しなかった。境界線は半島の分割を意図しなかったが、後に政治的境界線として固定化したのは、南北の政治状況、東西冷戦、朝鮮戦争による。日本の責任を言うのは筋違いだ。
 朝鮮戦争については、では、だれが戦争を始めたのか、と反問したい。国連安保理は北朝鮮の武力攻撃による平和の破壊と認定し、いわゆる国連軍が編成された。近年、北朝鮮軍の南侵説を補強する中ソの専門家や元北朝鮮要人の証言が相次ぐ。まして戦争発生当時、日本は連合国軍の占領下にあり、責任を言われる根拠はない。
 その後の日本の「敵視」政策うんぬんは論外だ。戦後の日朝の疎遠は国際情勢と双方の政策判断の結果でしかなく、国際法上、日本が「償い」をすべき理由はない。
 北朝鮮側は北朝鮮が朝鮮半島の唯一の合法政権だと主張したという。もしそれを認めることが国交への前提だというのなら、日本は国交を断念しなければならない。
 日本は韓国を南半分の合法政権として承認し、友好関係にある。南北に二つの政権が存在するのは、否定できない現実だ。この現実を直視することが国交への道だ。
 北朝鮮が法的にも、実際的にも首をかしげざるを得ない主張をとりさげ、真剣に交渉に取り組むよう望みたい。
 
 
 
 
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