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毎日新聞朝刊 1999年7月28日
社説 テポドン 発射阻止より重要な課題
 
 シンガポールで開かれていた東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム閣僚会議は26日、「参加閣僚たちは(朝鮮半島での)ミサイル活動への懸念を表明した」との議長声明を発表した。ASEAN域外の問題に、強い懸念と関心を示したことを歓迎したい。
 ASEANフォーラムは強制力のない討議と意見交換の場である。しかし、アジアの安全保障と懸案について自由に意見を交換し、平和と繁栄を推進する「予防外交」としては大きな役割を担いつつある。朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)はこの会議に参加していない。
 だから、議長声明だけで「ミサイル発射問題」が解決に向かうわけではない。今回の声明は、直接には「ミサイル再発射中止」を求めていないからだ。また、北朝鮮を名指しの「懸念」表明でもなかった。
 さらに、昨年8月の発射を「ミサイル」とは表現しなかった。これは、日本の主張がそれほど受け入れられなかった事実を意味するのではないだろうか。
 英文の議長声明は、昨年の「ミサイル発射問題」を「ペイロード(搭載物)発射」と表現した。北朝鮮が「人工衛星打ち上げ」と発表している事実に配慮したためであろう。
 日本が主張する「ミサイル発射」の表現は取り入れられなかった。「ミサイル発射」の表現回避には、中国の働きかけがあったと思われる。
 議長声明は、この他にも「ミサイル関連の活動」とあいまいな表現をしただけで「北朝鮮のミサイル再発射」という具体的な表現での憂慮は明示しなかった。この背景にあるのは「ミサイル発射」か「人工衛星」かをめぐる対立である。また、北朝鮮のミサイル問題解決に対する各国の判断と戦略の違いがある。
 日本政府は、昨年以来「ミサイル再発射中止」を北朝鮮に要求し、国際社会に訴えてきた。米韓両国も日本の立場に表面上は歩調を合わせているが、政策の優先目標については異なる立場をうかがわせている。
 実は、軍備管理軍縮や軍事戦略の立場からは、ミサイル問題の最大の目標は「拡散阻止」である。このため、米国は北朝鮮にミサイルの「輸出」と「配備」「開発」の中止を強力に求めている。また「ミサイル関連技術輸出規制(MTCR)」への加盟を米朝関係改善の条件として示してきた。
 ところが、日本の要求は「再発射中止」でしかないのである。日本はこれまで、公式に北朝鮮に「日本に届くミサイルの開発と配備の中止」を、強く求めたことはなかった。
 これでは、日本は国際的には身勝手な国とみられかねない。日本に対する「脅威」だけを心配し、アジアでの「ミサイル拡散」阻止への関心も責任も負わない国家と思われかねないのである。
 日本の政策に対するもう一つの憂慮は、北朝鮮が事前に人工衛星の打ち上げを発表し中国の立ち会いを認めたらどう対応するのか、という問題である。国際法違反として北朝鮮を非難するのは簡単ではない。
 北朝鮮のミサイル問題は、再発射もさることながら、「配備」と「開発」「輸出」というミサイル拡散の阻止が最大の本質的な問題である事実を忘れてはならない。アジアの平和と安全のために、この戦略と要求を高く掲げるべきである。
 
 
 
 
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