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毎日新聞朝刊 1994年11月16日
社説 朝鮮半島 日米韓首脳の歴史的な会談
 
 村山富市首相と、韓国の金泳三(キムヨンサム)大統領、それにクリントン米大統領は十四日夜、インドネシアのジャカルタ市内で三国首脳会談を開き、米朝合意の完全実施を確認した。三国首脳が、ともに会談を持つのは初めて。三国それぞれが長い二国間友好関係を維持しながら、これまで一度もこうした首脳会談が開かれなかったことの方が異常であった。北東アジアの安定と平和のために、一つの前進として歓迎したい。
 今回の三国首脳会談は、クリントン大統領の民主党が中間選挙で大敗し、日本の与党三党が朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に代表団を派遣しようとする状況を背景に行われた。韓国と米国の主導で呼びかけられたという。
 米共和党が中間選挙で、米議会の指導権を握ったことから、議会共和党内には米朝合意の見直しを求める声も高まった。また、米保守派からは、北朝鮮に譲り過ぎたとの批判や「核の脅しに、贈り物を与えた」との非難も出ている。一方、民主党の敗北で北朝鮮は米国の約束履行に、不安感を覚えるかもしれない。
 こうした、クリントン政権をめぐる厳しい環境から、米議会対策として「日韓の首脳も支持している」との形を必要としたようだ。さらに、北朝鮮が合意の履行に不安を感じ、合意の実行をいいかげんに考えないよう、日米韓三国の立場を明示しておく必要もあったという。
 これに加え、韓国と米国は日朝国交正常化交渉再開の動きにも、強い関心を寄せていた。米韓両首脳ともに、個別会談で日朝交渉再開について尋ね、「南北対話とのかかわり」に強い関心を表明した。これは、「南北対話のメドがつかないうちに、日朝交渉を進展させないでほしい」との要請を含んでいる。
 今回の三国首脳会談については、日本の受け身の姿勢に対する批判もある。しかし、北朝鮮の核問題での当事者はあくまでも韓国と米国である。日本が、先頭を切ることは慎むべきだろう。韓国の体面を立てる必要がある。また、日朝交渉再開が南北対話の障害になってはなるまい。日朝交渉再開の際には、米韓両国と緊密な連絡を取り、きちんと説明すべきである。
 三国首脳は、北朝鮮への軽水炉転換支援の具体化についても合意した。しかし、軽水炉支援の総額と日本の分担額については、なお国民への明確な説明がない。村山首相は、国民の理解と支持を得るためにも、支援の内容と負担について、納得できる説明を早くすべきである。
 米朝合意は、北朝鮮の核施設解体まで十年の期間を必要とする、息の長い約束である。この間に、米大統領選挙が三回行われ、日本と韓国でも政権が交代する。三国は、朝鮮半島非核化に向けた長期の協力体制を早く作るべきである。
 初の三国首脳会談開催には、三国首脳が初めて直接に共通の懸案問題を話し合うという点で、歴史的な意義があった。韓国には常に、日米首脳が韓国の頭越しに朝鮮問題を話し合うことへの、強い警戒と不信の感情がある。
 三国首脳会談は、こうした不必要な雑音を解消するためにも、有意義である。また、アジア諸国の外交が欧米のように、首脳が直接問題解決に取り組む「首脳外交時代」を迎えた事実を雄弁に物語っている。三国首脳会談を、日米韓が共通の外交問題解決を図るシステム作りの始まりとして評価したい。
 
 
 
 
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