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提言3 総合的沿岸域管理の法制整備
 “沿岸域”を海陸一体となった独自の自然的・社会的環境を持つ区域として認識し、その生態系の総合的な環境保全のシステムを考慮した、開発と環境の両立を目指す持続的な総合的沿岸域管理について、必要な法制整備を検討すべきである。
 また、沿岸域の開発と利用、保全の当事者、受益者として、地域住民の役割を積極的に評価し、沿岸域管理政策の立案、実施、評価、再実施のサイクル的プロセスに積極的な市民参加を実現すべきである。
3-1. 沿岸域の環境の保護及び保全を図りつつ持続可能な開発、利用を行うために必要な総合的沿岸域管理のための法制整備をすべきである。
 沿岸陸域と沿岸海域の一体性という沿岸域の特質を踏まえて、その持続的な利用と既存の海岸および沿岸域管理に関する個別の関連法制の総合調整を可能にする理念と手続を定める総合的沿岸域管理のための法制整備をすべきである。
 前出の提案による「海洋基本法」の中で沿岸域の総合的管理に関する章を設けて行うのも一案である。
3-2. 総合的沿岸域管理は自治体が行うものとし、その範囲と管理方法を確立すべきである。
 総合的沿岸域管理については、理念と指針を国が示し、関係自治体(都道府県および政令指定都市を中心として、関係市町村が参加)が、その開発、利用および保全について総合管理計画を策定して行うべきである。
 沿岸域の範囲は、自然の系、生態系および自治体の管理の実効性を考慮して、基本的に次のようにするのが適当である。
 海岸線方向については自然の系と生態系を、陸域・海域方向については、陸側は流域圏に係る市町村の行政境界を、海側は3海里(閉鎖性および半閉鎖性海域の場合は全海域)を基準として、国と関係自治体が関係者や有識者の意見を参考にして協議して定める。
3-3. 閉鎖性および半閉鎖海域については、その一体的性格が特に強いことを考慮して、総合管理体制を確立すべきである。
 三大湾、瀬戸内海などの閉鎖性・半閉鎖性の海域とその沿岸陸域については、一般にその利用密度が高く、また、相互に影響を受け易い環境条件下にあることを考慮して、これを一体的に捉えて総合的な開発、利用、保全を行うために、総合的な管理体制を整備すべきである。
3-4. 沿岸域の開発の抑制と自然環境の回復について積極的に取り組むべきである。
 沿岸域における埋め立ては最大限抑制するとともに、臨海部埋め立て地帯の工場跡地、利用の目途が立たない造成地、並びに流域圏における機能を喪失した構築物などについては、極力自然環境への復帰を促すべきである。
3-5. 沿岸域管理のサイクル的プロセスに、積極的な市民参加を実現すべきである。
 当該沿岸域の地域住民、市民組織などは、沿岸域管理政策の立案、実施、評価、再実施に関して、その全プロセスについて「知る」権利を有しているとの考え方にもとづき、関連する諸情報への実質的なアクセスの権利を保障すべきであり、その全プロセスにおいて、可能な限り「参加」の機会を保障すべきである。
3-6. わが国にも「海洋保護区」制度を本格的に導入し、合理的な管理をすべきである。
 わが国の沿岸域においては、自然公園法にもとづく海中公園地区が多数指定されており、また自然環境保全法による自然環境保全地域が西表島に1ヶ所指定されている。さらに、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」による生物種の保護制度も存在する。しかしながら、多様な生物が存在し、人類の生存基盤である海洋の生態系を保護するためには、これでは極めて不十分である。これらの諸制度をさらに一歩進めて、生息地として重要な海域、絶滅危惧種が生息する海域、貴重なサンゴ礁の存在する海域、湿地帯、干潟など適当な保護と管理を施す必要があると考えられる海域を「海洋保護区」として指定し、必要に応じて保護が必要な区域と利用する区域を区分するゾーニングなどの手法を用いて、合理的な管理を推進すべきである。
3-7. ミティゲーションの制度化について努力すべきである。
 ミティゲーション(開発、利用の環境影響を回避、最小限化、または代償措置を講ずることを基本とする考え方)については、それが開発の免罪符として用いられることへの危惧や、効果測定の方法が確立していないこと等さまざまな問題点も指摘されている。しかし、ミティゲーションは、環境のこれ以上の悪化に対する歯止めの役割を果たす手法の一つとして、また、環境修復や望ましい環境の創造のためにも有用なものとして評価できるものであり、さらには、海洋開発の社会的コストを明らかにし、事業費の中に内部化する合理的な手法としても評価できると考えられるため、今後その問題点の解消に向けて一層の研究を積み重ねるとともに、その制度化に努力すべきである。








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