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解剖学実習を終えて
 八木 優子
 人間は自分に近いものは存外知らないで、かえって離れたものに精通しているということは往往にしてあることで、天文学等が太古から発達してきたことにも顕著に表れている例かと私は思う。解剖学は、日常無意識に自身を操っていながら実はその実態を知りえない、精巧な人体構造というものを、ありのままに客観化して我々に提供してくれる。それは、御献体された方々のご好意なしにはありえない、実に希少な場である。私自身かつて無いほどの緊張感と好奇心とが交差する胸の高鳴りとともに初回に臨んだことがつい昨日のことのように思い出される。
 今改めて振り返ってみると、実習期間中は正直その場の膨大な作業や暗記をこなすことに追われてしまっていた。それ故、意識はやむを得ず器官、組織へと向かい、一つの尊い命を扱っているという概念は時に遠のきがちであったことも認めざるをえない。しかし、毎度の作業開始と終了時に捧げる黙祷こそ、感謝の意と将来の医療人としての使命感が再確認できる瞬間であった。この実習を通じて、神秘的ですらある人体の複雑さに感銘を覚えると同時に、医療人として当然もつべき生命への尊厳を肌で感じることができた。日進月歩で目まぐるしく変貌しつつある医学界、歯学においても画像診断等の発展に伴って解剖学の占める重要性は一層大きい。これを新たな第一歩として、初心忘れるべからず、夢に向かって日々弛まぬ努力をしていけたらと思う。ありがとうございました。








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