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解剖学実習を終えて
 濱田 康平
 解剖実習が始まる前に、医学とは異なる方面へ進んでいる友人と、この実習について話をした。そこで友人は次のような質問をしてきた。科学技術が進歩した現在、コンピュータ・グラフィックスなどの技術を利用すれば、実際の人体を使わなくても体の構造の勉強はできるのではないかと。
 当初解剖実習の様子もわからなかった私は、その場でこの質問に明確に答えることができなかった。しかし実習が始まると、直ちにその答えは明らかとなった。どんなに優れた文献で勉強するよりも、またどんなに詳細な説明を受けるよりも、実物を自分の目で見て、さらに手で触れることにより、人体の構造が明確に理解できるのである。そして実物を目の前にすることで、人体構造の巧妙さに多大なる感銘を受けたのだ。
 ところで、このような解剖実習は、我々医学生にとって当然の機会として与えられていると考えてよいのであろうか。私は「NO」であると思う。確かに解剖実習は、人体構造を理解し医学を学ぶ上で必須であろう。しかしこの実習には協力していただく方々がどうしても必要なのである。それは献体していただける方、そしてその御家族の方々である。この実習は、我々が将来世の中に対して貢献することを期待され与えられた、特別の機会であると思う。その期待に添うべく精進することが、この実習の機会を与えられた我々の最低限の義務であり、また医学の勉強はこのように周囲の人々に支えられていることを忘れてはならないと今自戒している次第である。
 最後に、共に協力しながら実習を進めてくれた同級生、何もわからない我々学生に辛抱強く丁寧なご教授をいただいた先生方に感謝いたします。そして献体していただいた方とその御家族に厚く御礼申し上げ、献体して下さった方々のご冥福を心からお祈りいたします。








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