日本財団 図書館


2 中国の漁船を取り巻く状況
2.1 中国の漁船建造
 中国には、現在漁船の製造、修理の資格を持つ企業が1,060社ある。そのうち大型漁船の製造企業は17社で、沿海省、市に分布している。主な大型漁船製造企業は、大連漁輪公司、天津市造船所、山東黄海造船所、栄成造船集団、煙台漁輪廠、青島漁輪廠、上海漁輪廠、広州漁輪廠、北海漁輪廠等である。
 これらの造船所は、社員約千人の中小造船所だが、一定の技術力と対応力がある。漁船ディーゼルエンジン廠、漁船動力機械廠、船用鋼線廠など舶用メーカーもある。漁船の製造数は、中国全国の船舶製造数の約5%を占めている。中国は、漁船に対する管理を強化しており、今後老朽漁船は制限される。そのため、中国では今後数年、大量の漁船を造り替えなければならないことになり、中国漁船工業にとっては発展のチャンスになる。
 漁船を作る材料として強化プラスチックがあるが、廃棄が問題である。海外の新しい動きとして、日本では、アルミ合金製の漁船を開発しているが、中国では、当面、大量の木製漁船が廃棄されることになる。
 大型の遠洋漁船についてみると、この10年で中国の漁船建造造船所のレベルもアップし、造船能力も強化され、大型の遠洋漁船の受注もできるようになりつつある。中国水産(集団)総公司は、中国国内に遠洋漁船を入札で発注することとしており、2,400万人民元(約3.6億円)で3〜4隻を予定している。その他の遠洋水産企業にも国内で遠洋漁船を発注する動きがある。
 また、造船コストを安くするため、ヨーロッパ諸国が、鋼材と人件費が安い中国で漁船を製造することも活発になっている。例えば、アイスランドは、中国に長さ71.3メートルの巻き網、中層トロール漁船と長さ41.45メートルの延縄釣兼トロール漁船を発注している。船価は約3分の2である。
 しかし、一方で、中国での遠洋漁船建造には、まだまだ資金と技術の問題がある。例えば350トンのマグロ巻き網漁船一隻を建造するには、一億人民元(15億円)以上かかるため、多くの水産企業は、比較的安い中古の遠洋漁船を購入するしかない。航速、寸法、エンジン出力、冷凍機械、オイルタンク、魚倉の材質などの技術上の問題もある。高い技術のものは、値段も高い。船用機械と舶用設備の技術が造船と比べ遅れている中国では、中国独自で遠洋漁船を開発することは難しいと見られる。
 出所: 「我が国の漁船の現状及び発展」(中国船検2001年第二号)、「我が国の漁船発展の現状、問題点と対策」(現代漁業情報2001年7月)
2.2 近年建造された中国漁船の技術的特徴
(1)船型の多様化
● 588kWの遠洋トロール漁船、3000トンの冷凍輸送船など
● 遠洋漁業のための燃料・清水補給船、油輸送船などの漁業補助船
● 漁業管理を強化するための漁業監督船
● 小型鋼製漁船の普及(長さ約35メートル、エンジン出力400kW以下で遠洋の航行基準をクリア)(2)省エネ技術の採用
● 省エネ型舶用ディーゼルエンジンの採用
● プロペラ効率の改善
(3)船体構造
● ボックス・キールの取り付け
● 防舷材の強化
(4)問題点
☆ 安全性能が悪く、燃料消費量が大きい。
☆ 航速が遅く、自動化レベルが低い
☆ 舶用設備の国産化の遅れ
表8: 1990〜2000年に中国で製造した漁船の例
船型 寸法(メートル) 満載排水量(トン) 船倉容積(m3)
或いは(トン)
LOA LPP B D T 魚倉 燃料 淡水
8166 43.00 36.90 9.00 6.4 3.60 753 277.6 (282.15) 20.0
4.15
8170 39.80 34.00 7.50 3.70 2.80 400 204.27 (55.61) 46.49
8171 44.82 38.60 7.80 3.85 3.00 497 200.6 120.32 30.65
8174 44.82 37.00 7.60 3.85 2.95 474 181.2 (91.12) 20.26
8654 74.00 66.00 11.40 6.20 4.20 2206 1532.0 394.21 199.88
8351 60.86 53.00 9.5 6.3 3.50 1170 630.0 305.0 22.00
3.8
8167 38.60 33.00 9.4 6.5 3.9 769 290 (200) 40.00
4.2
HC831 35.00 29.00 6.20 2.85 2.25 227 131.2 41.04 19.45
HC832 36.70 30.00 6.40 2.90 2.20 239 127.0 54.85 22.65
HC823 33.80 27.50 6.00 2.70 2.10 195 118.04 25.00 13.52
RC892 34.75   6.30 2.90 2.15 218.8 112.0 TBD  
876A/R 32.28   5.7 2.6       (32) (10)
SK866 33.10   6.20 2.6   180 78 30 13
SK878 41.16 36.00 6.4 3.0 1.95 263   (30.7) (20.0)

船型 エンジン 航行速度
kn
航行距離d
mile
船員 設計会社 メーカー 建造年 備考
モデル 出力
kW
回転速度
r/min
8166 T260-ST 1030 700 12.9 60 26 広州漁輪廠 広州漁輪廠 1990 引き網
8170 6l20/27 540 900 11.5 20 20 上海漁輪廠 上海漁輪廠 1991 引き網
8171 6l20/27 570 950 12.0 50 26 上海漁輪廠 上海漁輪廠 1992 引き網
8174 6300ZCB 588 500 12.5 40 25 大連漁輪公司 大連漁輪公司 1992 引き網
8654 8Z280-EN 1764 650 13.0 (10000) 28 大連漁輪公司 大連漁輪公司 1992 冷凍輸送
8351 D6280ZLC 1029 380 13.0 (6000) 29 大連漁輪公司 大連漁輪公司 1996 スルメイカ釣り
8167 L8250ZZLC-3 1030 700 11.0 60 22 大連漁輪公司 大連漁輪公司 2000 引き網
HC831 6190ZLC1−2 300 1000 11.0 25 14 黄海造船有限公司 黄海造船有限公司 1998 引き網
HC832 6190ZLC-2 330 1000 11.0 25 13 黄海造船有限公司 黄海造船有限公司 1998 引き網
HC823 6190ZLC 257 1000 11.0 25 13 黄海造船有限公司 黄海造船有限公司 1998 引き網
RC892 TBD234V8 296 1200 12.5 30 13 栄成造船工業集団 栄成造船工業集団 1997 引き網
876A/R 6190ZLC-2 330 1000 13.0 25 13 海達造船有限公司 海達造船有限公司 1997 マグロ釣り
SK866 Z6170 220 1000 11.5 25 13 水科院 威海西港船廠 1999 強化プラスチック
SK878 Z12V1190QC2 560 1000 14.7 7 12 水科院 山東乳山船廠 1999 漁政
 
出所: 「我が国漁船の発展と展望」曲広善、「船舶」2000年第4号
表9: 中国の漁船のエンジン仕様
モデル 出力kW 回転速度r/min オイル消耗指標(g/kW・h) 重さ(トン) 寸法L×B×H (mm) メーカー
ディーゼルオイル 機械油
8300C 441 450 234 4.76 12 5,542×1,135×2,380 大連漁輪廠等
8300ZC 662 450 224 3.4 12.5 4,588×1,158×2,416 大連漁輪廠等
6300C 294 400 231 3.4 9.3 3,490×1,050×2,300 大連漁輪廠、柴等
6300ZC 441 400 224 3.4 9.8 3,725×1,050×2,416 大連漁輪廠、柴等
6L20/27 600 1,000 207 0.68 7.71 3,910×1,300×2,100 四川柴油机廠
6T23LU-4E 660 800 204   11 3,359×1,500×2,608 鎮江船用柴油机廠
6190ZC-2 300 1,000 214 2 3.9 2,611×1,132×1,652 済南柴油机廠
Z6170ZLC2 300 1,000 215 1.6 3.2 2,500×980×1,700 博柴油机廠
W6170 Z 330 1,000 204 1.77 2.5 2,405×1,098×1,728 坊柴油机廠
Z12V190BC 800 1,450 209 1.6 5.3 2,618×1,569×2,160 済南柴油机廠
L8250ZLC3 1,030 700 205.5   17.4 5,300×1,500×2,680 博柴油机廠
 
出所: 「わが国漁船の発展と展望」曲广善、「船舶」2000年第4号
2.3 中国の漁業政策
 中国のとっている漁業政策の方向は次の通り
2.3.1 遠洋漁船の発展
 現在、中国には1,210隻の遠洋漁船があり、90万トンを漁獲しているが、本当の遠洋での漁獲は3割しかなく、大部分は近海に留まっている。その主な理由は船舶の老朽化、資金不足、技術レベルの低さなどである。農業部は、2000年に初めて全国的な漁船調査を実施し、400隻に遠洋漁業の証書を交付した。
 200海里排他的経済水域の確定、伝統的漁場の変更などの事情から、漁業は、今後は遠洋へ発展するしかなく、そのためには、低コスト、遠距離、高効率、大型で複数の機能をもつ漁船が発展の趨勢となっている。
 既に、漁船は、大型或いは超大型の時代に入っており、例えば、オランダは1999年に長さ142.3メートル、容積11,3 20m3、一日300トンの魚を冷凍できる超大型トロール漁船を建造した。アイルランドの漁船「Atlantic Dawn号」は、長さ144.6メートルで中層巻網ができ、一日350トンの魚を冷凍する。フランス、スペイン、ロシアなども積極的に超大型の巻網漁船を建造している。
 遠距離の漁場は、大型の漁船を求める。業界関係者は、3,000トン級の大型トロール加工船、マグロ巻網漁船、マグロ漁船、大型スルメイカ釣り船、冷凍輸送船が中国遠洋漁船の発展の主流とみている。
2.3.2 強化プラスチック漁船の普及
 強化プラスチック(FRP)漁船は、速度が速く、劣化に強く、使用寿命が長く、経済性能が良いなど一連の長所があり、大量の木材も節約できる。
 漁業の発展に伴い木製漁船が淘汰されるのは必然的な流れである。業界関係者は、FRP漁船の発展について、船の長さが30メートル以下の次のような漁船の開発が有望とみている。
☆ 長さが6メートル以下の養殖ボート
☆ 長さが10メートル以下の日帰りの近海ボート
☆ 長さが20メートル以下(エンジン出力が29kW以下)の近海作業漁船
☆ 長さが30メートル以下(エンジン出力が136kW以下)の近海作業漁船
2.3.3 新型漁業
 「国連海洋法条約」の発効と実施、中日・中韓漁業協定の調印と発効により、中国全国で大量の漁船が近海に戻ってくることと予測される。コントロールを怠ると、中国近海漁業資源の更なる衰退をもたらす恐れがある。
 専門家は、資源再生型の漁業、つまり、海上養殖、生きた魚の輸送・直販によるモデルを確立することを呼びかけている。そうすれば、生きた魚の輸送船、養殖作業船、近海漁船(主に長さ30メートル以下の小型FRP漁船と省エネ型の鋼製漁船)、漁業監督船(主に大型と中型)及び関連漁労設備(漁業管理に必要な観測、計器)が大いに発展する。
2.3.4 漁船総量規制
 休漁、放流、漁業制限などの措置は長期的政策で短期間に漁業資源の衰退を根本的に変えることはできない。最も短期的・根本的な手段は、漁船数を制限することである。即ち、「ダブルコントロール」を強化し、数量と馬力を制限することである。現在、中国では、約47,000隻以上の船齢20年以上の漁船を廃棄し、「三無」漁船、兼業漁船、費用対効果の低い漁船、稚魚に深刻なダメージを与える漁船を大幅に減らすことを検討中である。
 過去10年、国務院は、3回にわたり農業部の文書で漁船の保有数と馬力により漁船を二重にコントロールする「ダブルコントロール」を実施し、海洋漁業の安全生産と資源保護の管理を強化することを求めてきた。「第九次五ケ年計画(1995年〜2000年)」の期間中も「ダブルコントロール」を実施し2000年末の全国の海洋捕獲能力を「第八次五ケ年計画」末期の1995年レベルにおさえることを目標にした。即ち、漁船は265,620隻、出力は936.13万kWである。
 しかし、「ダブルコントロール」の目標には、3万〜4万隻の養殖漁船が含まれていたため、水増しとなった部分が大きかったことに加え、「ダブルコントロール」の目標も守られず、養殖漁船を加えた2000年の漁船保有数と総出力は、目標値をそれぞれ20,970隻、316.65万kWうわまわった。
2.3.5 WTO加盟
 中国は2001年末にWTO加盟を果たしたが、WTOの差別禁止規則、市場開放原則、貿易公平原則と権利義務均衡原則により、中国の漁船工業は国際競争にさらされる。
 メンバー国の最恵国待遇を獲得することで、漁船の輸出価格が下がり、雇用が創出するチャンスもある。しかし、同時に、低い技術と管理レベルは、国際競争力に悪影響を与え、製品品質と管理コストが価格の有利さを打ち消す恐れがある。
 海外の製品は、費用対効果の面で優位にたち、船舶、船用設備を問わず国産品に衝撃を与えることは間違いない。海外企業は中国国内顧客に対する争奪戦でも中国国内企業をリードし、国内市場では中国系の漁船・関連機械業界のシェアの一部が奪われると予想される。特に、大型遠洋漁船、例えば、大型スルメイカ釣り船、冷凍マグロ漁船などである。中国がWTOに加盟した最初の数年は、以上のことが避けられないと予測される。
 しかし、船舶工業の一部として、中国の漁船工業は、近年、目覚しい発展を遂げており、中国がWTOに加盟した後、造船は、重点発展産業と位置付けられ、政府の政策と融資により支持される見通しである。中国の漁船工業も弱い業界として、政府の政策による支持と優遇が望まれる。
 そうすれば、中国の製造コスト面での優勢は、短期間では変わらないと考えられることから、国際市場に参入する機会も増え、多国籍企業との提携は、中国漁船製品の技術・品質・生産管理レベルを向上させ、先進国との格差は縮まる。
 
出所: 「我が国の漁船の現状及び発展」(中国船検、2001年第二号)
  「我が国の漁船発展の現状、問題点と対策」(現代漁業情報、2001年7月)
  「WTO加盟により我が国漁船と関連機械業界に対する影響」(中国漁業経済、2000年5月)
  「我が国の漁船の発展と展望」(船舶、2000年8月)








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION