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おわりに (考察)
 「現状打開:カナダ造船業」は、当事者がまとめただけにあって、カナダの造船業の現状が良くわかるレポートであった。ただし、当事者だけに「直接助成は論外」という制約の中、政府から最大限の支援を受けるべく、編集され構成されているのは明らかである。
 例えば、いかにも大多数の造船諸国で政府が助成しているとの表現で、NAFTA以外の国からの船舶輸入に対する関税の引き上げを求めているが、具体的に問題のある助成と指摘しているのは、EUが問題視している韓国の造船業に対する不透明な金融政策(それも大半はEUの主張の受け売りに過ぎない)とEUの船価助成復活の動き、加えて造船国としては依然存在の薄いブラジルの政策のみであり、関税引き上げの正当性を主張する論拠には乏しい。
 検討に際してトービン産業相から「論外」とされた直接助成以外の道として、金融による間接助成の拡充を強く訴えているのが特徴的である。しかし、その提案は、現行のOECD船舶輸出信用了解を大きく逸脱するものであり、これをOECD規定の間隙を利用して正当化しようとしており、注意が必要であろう。また、米国のタイトルXI制度との比較も一考に値するものである。
 なお、当然ながら米国造船業との競争にも紙面が割かれている。この中で、米国の内航船市場がジョーンズ・アクトによって保護されている一方で、米国からカナダへの船舶輸出がNAFTAによって無関税というのは、十分に同情できる。しかし、カナダ建造船についてジョーンズ・アクトの適用を免除させようという主張は、米国も受け入れやすいかもしれないが、問題の解決を限定してしまい残念である。また、今後、同じNAFTA加盟国でありながら、より低賃金のメキシコ等で船舶が建造されるかもしれない、という問題には何ら考慮が払われていない(結局、自分で自分の首を絞めることにならないか)。
 一方で、カナダ造船業の現在の技術力や技術開発の必要性について、ほとんど検討されていないのは意外であった。わずかに人材の引き留めが数行記載されているに過ぎない。自己の弱点をさらけ出し、自主努力を打ち出す勇気まではなかったのかも知れない。
 「現状打開:カナダ造船業」は、2001年4月に公表された(編集作業は相当前に完了していたのだろう)が、公表直後、フリード・ゴールドマン・ニューファンドランド(FGI)の親会社であった米のフリード・ゴールドマン・ハルター(FGH)が経営の行き詰まりからChapter 11の適用を申請して、事実上倒産してしまった。FGH(その時点ではフリード・ゴールドマン)がFGIをニューファンドランド州政府から買収するに際しては、様々な条件が付されていたようだが、その履行はまず困難であろうと思われる。しかし、この報告書ではそこまで検討することはできなかった。2001年5月現在、FGHは再建計画を策定中であり、ニューファンドランド州政府も静観している。なお、FGIの前身は、州営のメリーズタウン造船所であったのを、当時の州知事であったブライアン・トービン現産業大臣が、フリード・ゴールドマンにわずかC$1(約80円)で売却したことは本文で述べた。
 いずれにせよ、カナダ政府は、その造船政策の見直しに着手したところであり、「現状打開:カナダ造船業」をはじめ、本報告書でも触れた様々なレポート、識者の意見等が反映されると思われる。しかし、「現状打開:カナダ造船業」にある提言は、保護主義的であり、また、既存の国際市場規律を乱す可能性も有しており、今後のカナダ政府の動向には注意が必要であろう。
 今後のカナダ政府やカナダ造船業の動向、さらには本報告書ではカバーできなかったトピック等については、引き続き当部で情報を集め、レポートすることとしたい。








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