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付録−1
産業常任委員会第4報告書、「生産性と革新性:競争力あり豊かなカナダ」から抜粋(仮訳)
造船部
経済的貢献と産業構造
カナダにおける造船産業は一般に、排水トン5トンを超える各種船舶の製造・修理に従事する事業者と定義されている。5トン以下の船舶についてはボート製造業として分類される。この定義によれば、1996年に、カナダでは26事業所が造船業に従事しており、臨海(湖)州であるケベック、オンタリオ、マニトバ、ブリティッシュ・コロンビアのそれぞれに少なくとも1事業所が存在した。しかし、現在カナダには12ほどの大型造船所しか存在せず、その大部分が大型企業グループの一部となっている。1999年5月時点で、雇用数は約5,000人であり、職種は溶接工、鉄鋼・金属切断工、配管工、木工、電気工、管継手工、その他船舶建造に必要な職種である。
 
 1999年に、カナダ造船業は、雇用者5000人、約12事業者からなる。造船業が存在する州は4州である。ブリティッシュ・コロンビア州では、雇用は約1,300人であった。同州の事業者は、アライド・シップビルダーズと大型産業グループであるワシントン・マリン・グループである。オンタリオ州では1社が残っており、カナディアン・シップビルディング・アンド・エンジニアリング社はポート・ウェラー施設で700人を雇用している。ケベック州には、Industries DavieとVerreault Navigationの2社で約1,000人が雇用されている。大西洋岸では、3社に約1,900人が雇用されている。MM Industra、Friede Goldman Halter、Irving Groupである。アービング・グループは複数の小型造船所を所有している。つまり、各地域に大型産業グループと、少数の小規模事業者が残っている。 (John M. Banigan、カナダ産業省)
 
どの産業データをとっても、カナダ造船業が衰退していることは明らかである。たとえば、1997年の出荷額は約6億830万CADであったが、これは1990年の16億CADから大幅な減少である。一方、造船業の製造付加価値は1990年の4億5, 000万CADから、1997年には2億CAD弱に落ち込んだ。1990年には、48の造船所が存在し(1996年には26ヵ所)、雇用は11,984人(1996年は5,556人)であった。この急降下は、経済が活気を失っていることや、1990年に始まった景気後退が長引いていることだけが原因ではない。造船業の終焉の種は1976年に撒かれたものである。当時造船産業は海運サービスの世界的な供給過多に呼応して、縮小しはじめた。例えば、船価が低迷した。1987年の船価を100とすると、1992年に船価は180まで上昇したが、それ以来120に落ち込んでいる。造船産業はこういった状況に、(1)時代遅れの造船所を廃棄する、(2)サブ・アセンブリー工事を下請けに出す、(3)人員整理、(4)適切な場合は熟練工を自動機械で置き換える、という対策を講じることにより適応してきた。
 
造船産業全体が苦境にあるようだが、特にタンカー、コンテナ船部門は深刻である。カナダにおいて、輸出市場ほど状況が悪い市場はなかった。1976年に建造された総トン数の65%以上を輸出船が占めており、1979年には45%であった。しかし、1984年には輸出は完全に途絶えた。1990年になってカナダは輸出市場に復帰したが、それでも方向転換は遅々たるものであった。カナダの船舶輸出額は1997年には6,860万CADであり、出荷額の輸出度は11.3%、10年来の高い数字であった。同時に、この輸出により、1990年代に船舶について2年連続で貿易黒字となったのである。
生産性と競争力
造船所は本質的に、構造鉄鋼ユニット取り扱い設備を持った組立て工場である。船舶設計のスペックにあわせて鋼板や鋼管を切断、形成、組立てる。さらに、高度な造船所では推進機関も製造する。造船所には船体が建造できるだけのスペースのある建造バースまたはドックが少なくとも1ヵ所、進水した船舶を係留するのに十分な水深のふ頭、そして相当量の資本機器が必要である。従来の造船所は、個々の部品をひとつずつ製造し、組み立てるという一連作業を行ってきた。時代の流れにしたがって、標準型のコンポーネントの一括生産がこれにとって代わった。そのおかげで、造船所は熟練工のかわりに自動機械を導入し、競争力の高い企業にサブ・アセンブリーを外注することができるようになった。
 
カナダにおける造船需要の低下にもかかわらず、造船業は1988年に株式資本7億CADであったのが、1996年には9億CADとなり、年間平均成長率は2.5%となっている。この時期の一時解雇の数を考慮すると、労働−資本比(資本投資額を給与・賃金で割ったもの)は、1990年の14%から1996年の45%へと大幅に増加している。1990年代に付加価値は出荷額に比べて減少した。これは、サブ・アセンブリーの外注が進んだことを意味する。
 
また、工場レベルでは幾分のスケール・メリットが見られるが、複数の製品ライン、複数の造船所所有、縦の統合の形で、企業スケールではこれは限られている。実際、造船と海運の縦の統合は例外的である。複数の造船所所有についても、この縮小の時期に複合所有による統合はほとんど見られなかった。業界の生産性について、委員会は次のような証言を受けた。
 
 造船所における労働生産性は1991年以来46%向上している。実質賃金上昇率は3%にすぎない。また、造船所労働者一人当たりのGDPは84,000CADであり、これはカナダの産業平均より68%高い。 (Les Holloway、海事労働者協会)
 
カナダ造船業は万人向きではない。大型船の建造に適した施設は有していない。証人の一人はこう説明している。
 
 カナダ造船業を見るうえで、我々が必ずしも日本や韓国と正面から対抗しているわけではないことを理解することが重要である。我々の競争相手は小型造船所で、同種の特殊市場を狙っているノルウェー、英国、スペインの造船所である。これらが、カナダ造船所の土俵なのだ。我々はVLCCを建造しようとしているわけではない。我々は船舶修繕、特殊船舶、改造、オフショア建造で争っている。これらの分野に焦点をあわせれば、カナダ造船所が世界市場の0.04%未満しか占めていないというものとは違う世界が見えてくるはずだ。 (Daniel Primeau、輸出開発公社)
 
これは、日本とは対照的な状況である、と別の証人が述べている。
 
 日本は長年大型の造船事業者であった。日本造船業の戦略は、超大型タンカーやバルクキャリアを専門にすることであった。それは彼らにとって得意な市場であった。戦後の鉄鋼産業のはけ口でもあった。そして、日本はその分野を支配するに至った。彼らは、建造技術の点で多くの専門化をなしとげた。例えばモジュラー工法である。日本は、CAD/CAM設計の情報技術等を利用して、かなり人件費の高い国であるにもかかわらず、この分野で高い生産性を保ちつづけたのである。つまり、高人件費という問題を克服するのは、困難ではあるが可能だと考える。技術を利用し、どのように専門化するかを学べば、高人件費の国であっても、得意とする市場で競争力を獲得できるのである。 (John M. Banigan)
産業動向予測と政策問題
世界の造船市場は急速な下降線をたどっており、業界の再編成がおこなわれている。日本とヨーロッパにおける建造能力の削減で、世界の造船所数は1976年の1,111事業所から、1996年には776事業所へ減少した。カナダでは業界主導の合理化努力により、1980年代に12,000人であった雇用は1997年には4,711人減少している。2000年2月現在、カナダが世界造船受注量に占める割合はトン数にして0.03%にすぎない。韓国と日本はDWTにしてそれぞれ40%、38%を占め、ヨーロッパは10%、合衆国は0.8%である。
 
大幅な造船能力過剰、予測される需要減、競争の激しい船価、特に環太平洋の新たな建造能力(中国、韓国、ベトナム)8の結果、カナダの造船業にとって外国市場は極めて競争の激しいものとなっている。国防省と外務省及び警察(RCMP)の連邦資本予算が削減されるに従い、政府調達は大幅に減少した。2000会計年度予算では、国防省と外務省に新たな予算が配算され、この一部が資本調達に当てられる見込みである。
 
委員会は、政策の観点から、カナダ造船業はいくつかの基本的事実に照らして検討する必要があると助言された。
 
 造船業を検討するうえで、業界に重大な影響を及ぼし、今後も及ぼし続けるであろう重要な3つの大前提を常に認識しなければならない。まず、世界の造船事業者は、かつては政府や自国海軍により提供されたような特恵的市場に依存することはもはやできない。第二に、この業界においては、自由市場力はほとんど存在しない。造船業は、自然な市場の力によってではなく、通常何らかの形の助成という形での政治的操作によって、現在の状態に至ったのである。この点が忘れられがちであり、カナダ造船業の議論は企業の死活を決定するうえで市場の役割に焦点をあてている。造船産業においては、市場ではなく政府が決定を下すのである。第三に、競争力のある融資に対するアクセスが、船主が造船所に発注を決める上での鍵を握っている。これは、競争力を決定する通常の要素を否定しているわけではない。優良な技術的提案をすばらしい価格で提供できても、魅力的な融資がなければ、実現する見込みは少ない。 (Peter Cairns, カナダ造船協会)
 
貿易政策から、不公平の例が挙げられる。カナダと合衆国の間に自由貿易協定が結ばれているにもかかわらず、重大な非関税障壁が存在する。
 
 貿易の面で、政府は多国間協議の場で、不公平な貿易障壁への対処を求める話し合いを続ける。もちろん、最大の難関は、ジョーンズ・アクトである…これは、米国港湾間を航行する船舶に、米国建造、米国人配乗、米国修理を義務づけるものであり、これによりカナダを初めとする諸外国は、米国の商船市場から締め出される。 (John M. Banigan)
 
委員会は、NAFTAの第11章、投資国の紛争解決手順を含むいくつかの問題の再検討が、一部の締約国の間で考慮されていることを理解し、次の提言を行う。
 
29. カナダ政府は、米国ジョーンズ・アクトの廃止を求めるか、カナダ建造、カナダ人配乗、カナダ修理の船舶に免除を与えるように修正することを求める。
 
カナダにおける現在の造船政策手段は、業界関係者により非常に歓迎されているが、外国政府の市場介入に照らして不十分と思われる。
 
 連邦政府は造船産業に限られた支援を与えている。非NAFTA船に対する25%の関税、政府船のカナダ建造、修理要件、合理化支援、加速減価償却、R&D税額免除、EDC基金が存在する。これらは、業界の助けになり重要であるが、今日の競争的市場では有効ではない。 (Peter Cairns)
 
委員会は、これらの見解に同意し、カナダ造船産業が目の肥えた外国の専門市場への突破口を開く上で、戦略的支援を行うにおいて、連邦政府は既存の諸策を超える心づもりをする必要があると確信している。しかしながら、外国政府との助成合戦になってはならない。委員会は次の提言を行う。
 
30. カナダ政府は、造船産業関係者に相談し、専門市場を獲得するにおいて造船業者を支援する産業政策を採用、改良する。








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