5)EGR率の影響
EGRは酸素濃度の低減とともに燃焼ガス最高温度を下げることができ、NOxの排出量を低減するには最も効果的な方法と考えられている。しかし、一方でEGR率の増加により燃焼が悪化し、スモークの増大、燃費の悪化を招くため、燃費とスモーク、NOxのトレードオフの関係を配慮したEGR率の設定が必要となる。廃食用油を燃料とした遮熱エンジンにおいてもNOx低減のためにはEGRは不可欠と考えられる。そこで、廃食用油遮熱エンジンにおけるEGRの効果を調査した。
試験ではEGRは排気ガスの一部をターボチャージャのタービン下流からバタフライ式電磁バルブを介して吸気側に供給した。試験条件を表4・15に示す。なお、EGR率はEGR率0%の時の吸入空気量に対するEGR付加時の吸入空気量の減少量から算出した。
表4・15 試験条件
ターボチャージャA/R |
12% |
連絡口面積比 |
1.5% |
連絡口数 |
6(60°等分) |
噴射ノズル |
φ0.4×4-60° |
回転速度 |
1260 rpm |
負荷 |
4/4 |
燃料噴射時期 |
10 degBTDC |
EGR率を変えた場合の性能を図4・58、図4・59に、燃焼経過を図4・60に示す。図に示すとおり、EGR率を高めることでNOxは大幅な低減が可能で、EGR率15%においてEGR0%に較べて約50%と大幅に低減する。EGRの増加に伴いスモークと燃費はやや増加するものの、EGR率15%程度まではEGR率の影響が少なく、NOxの低減には有利である。
また、単気筒エンジンの試験結果から燃料噴射時期を上死点まで遅延させてもNOxの低減割合に較べて図示熱効率はほとんど低下せず、燃料噴射時期の影響が少ないことが明らかになっているので、燃料噴射時期を遅延させることでさらにNOxの低減が見込める。
EGR付加時の燃焼経過を見ると、EGR付加時には燃焼初期のピークがEGRの増加とともに低下し、燃焼後期において極僅かに熱発生率が増加している。しかし、性能に大きな影響を及ぼす燃焼中期ではEGR15%まではほとんど差が無くなっている。このため、EGR率15%程度までは性能の低下が僅かであったと考えられる。なお、図4・60に示すように、EGRの増加にともなう着火遅れの増大はほとんどない。これは遮熱エンジンでは空気温度が高いため、EGR15%程度では酸素濃度の低下にともなう着火遅れの増加は見られなかったものと考えられる。
図4・58 エンジンの性能線図(EGR率の影響)
図4・59 エンジンの性能線図(EGR率の影響)
図4・60 エンジンの指圧線図(EGR率の影響)
6)まとめ
急速圧縮膨張装置による燃焼観察、単気筒エンジンにおける性能試験の結果に基づき、多気筒エンジンを設計・試作し、廃食用油を使用して性能試験を行った。
試作した多気筒エンジンは、単気筒エンジンと同様、未処理の廃食用油を燃料として、そのまま使用でき、全負荷まで運転ができた。また、多気筒エンジンの燃焼・性能は単気筒エンジンの燃焼・性能を再現し、エンジン仕様、運転条件などの決定に単気筒エンジンの結果を使用できることがわかった。さらに、性能試験はターボチャージャA/R、燃料流量、燃料噴射ノズル突き出し量、EGR率の性能におよぼす影響を明らかにした。